80.五属性のナイフたち
鉱山で挨拶を終えた後はアドルフさんの武器屋に向かった。
今日も今日とてお客はおらず。経営、大丈夫なのかなぁ……。
「こんにちはー」
「いらっしゃい。おや、アイナさんか。今日はどうしたんだ?」
「明日の朝にミラエルツを発ってしまうので、最後のご挨拶にきました」
「おお、そうか。わざわざありがとよ。……って、今日は何だか一人増えてるな?」
「ああ、そうですね。えーっと……」
「どうも初めまして。ジェラードと言います」
「あん? 何でナンパ師のジェラードがアイナさんと?」
アドルフさんは驚いた顔でジェラードを見た。
ジェラードのことは知ってるんだ? そういえばジェラードのナンパは酒場で有名だったし、アドルフさんは普通に酒場に行ってそうだし。
「アイナさんは錬金術師でして、僕の動かなかった右腕を治してくれたんです。
その恩返しに、しばらく一緒に旅をさせてもらおうと仲間にしてもらったんですよ」
「ほう……。お前さんの噂も聞いちゃいたが、なるほどな……。
コンラッドのところでも何かやったっていう噂もあるし、アイナさんって何だかすごい御人だったんだなぁ」
「私の知人も二人、治らないと言われていた脚を治してもらったんですよ」
しれっとルークも話に乗っかってくる。
「ガルーナ村では疫病の人を二百人以上、治しましたしね!」
負けじとエミリアさんも乗っかってくる。
いやいや、何か行き掛かり上のものが積み重なってすごいことになってるぞ。
ああ、でもいろいろやってきたんだなぁ……とはしみじみと思ってしまったけど。
「ははぁ……そりゃすごいねぇ。
そういえば俺も、最近ちょっと腰が痛むんだよ。何か良い薬はないかな――なんてな!」
ええ? この流れでそういう? えい、かんてー。
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【状態異常】
腰痛(小)
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そんな急に言われても、作れるわけ――あるけども!
バチッ
「はい、どうぞ。お薬です」
私がアドルフさんにできたてほやほやの瓶を差し出すと、さすがにこれには笑って流された。
「ははは、アイナさん。さすがに冗談がきついぜ!」
「まま、無料ですからどうぞどうぞ」
「それじゃありがたく頂くよっと。……ごくり」
「いつもの展開ですね」
「まったくですねー」
「僕もこの前、経験したけどね……」
はい、かんてー。
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【状態異常】
なし
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「――いかがですか、腰痛はもう治ったみたいですけど」
「はっはっは、アイナさんも冗談が好きだな! …………………………あれ、痛くなくなったぞ!?」
「とまぁ、こんな感じでクレントスからやって参りました」
ルークとエミリアさんとジェラードはうんうんと頷いている。
さすがに仲間内からいちいち驚かれるのは面倒だから、これくらいがちょうど良いよね。私もこのパターンは作るのを含めて慣れてきちゃったし。
「はあぁ……、何ともすごいな……。それじゃコンラッドの噂も本当のことなんだろう……。
いや、俺もこんな御人に剣を作ってやれて、運が良かったんだろうかなぁ……」
「剣? アイナちゃん、剣を作ってもらったの?」
「はい、見ます?」
そう言いながら私はアイテムボックスから『なんちゃって神器』の剣を出してみる。
出してから思い出したんだけど、この剣は重かったんだ――
「むおぉ、重い――……、っと。ルーク、ありがと」
「アイナ様、出すときは私がお持ちしますので」
「……むーん。さりげに助ける当たり、ルーク君はやっぱりアイナちゃんの騎士サマだよねぇ」
「今回は俺は助けてやれなかったな。うん、位置が悪かった。位置が悪かったんだ」
アドルフさんはさりげに対抗意識を燃やしている。何でだ。
「というわけでジェラードさん。この剣をアドルフさんに作ってもらいました」
ルークは剣を鞘から抜いて、ジェラードに見せた。
「なるほど……。うん……素晴らしいね。とても繊細で美しい」
「ははは、ありがとよ。ただ魔法剣が専門なんでな、普通の剣は作ってないぜ」
「おっと、ここは魔法剣のお店でしたか。へー、小さいナイフみたいのはありますか?」
「うん? お前さんは魔法剣使いなのか?」
「専門ではないですが、多少は使えますよ。僕はアイテムボックス持ちだし、何かのときに一本欲しいなって」
「おう、それじゃ適当に――……あ、いや。せっかくだし、あれを譲っちまおう!」
アドルフさんは何かを思い付いたかのような顔をしたあと、お店の奥から細長いケースを持ってきた。
「俺の腰痛も治してもらったしさ、お礼にこのナイフセットをやるよ。暇なときに作った自信作なんだぜ」
アドルフさん、暇を持て余しすぎじゃないですかね……。
開けられたケースの中を見てみると、ナイフが五本入っていた。
「何ですか? このナイフは」
「ふふふ、よくぞ聞いてくれた! これぞ『五属性ナイフセット』だ!」
そのネーミング、安直にして明快ッ!!
「これは装飾のところに属性石を入れているんだが、対応属性の魔法を使うと属性石が良い感じに制御してくれて、刃にその属性を宿すことができるんだ」
「へぇ……。それってすごいんですか?」
「アイナちゃん、魔法剣というのはそもそもそれ専用の魔法が必要なんだ。
でもこのナイフはそれ以外の魔法でも刃に属性を宿せる――ということみたい」
「おう、それそれ! つまりそういうことさ」
「ふむー。例えばエミリアさんのシルバー・ブレッドを使うと光属性が宿る、みたいな……?」
「そういうことになるね。エミリアちゃん、やってみない?」
「え? 分かりました、できるかなぁ……。えっと、それじゃ光属性は……これですかね」
「おう、それだ。シルバー・ブレッドは射撃系の聖魔法だから……撃ち出すイメージをそのままナイフに渡すイメージでやれば良いぞ」
「ふむむ……。えーっと……シルバー・ブレッド!」
エミリアさんが魔法を使うと、一呼吸置いてから刃に光が宿った。微かに白い光を放っていて、何とも幻想的だ。
「わー、すごいですね! アイナさん、私は光属性が欲しいです!」
今までに体験したことが無い感触に興奮しながら、エミリアさんははしゃいでいた。
「……えっと、アドルフさん。本当に頂いても良いんですか?」
「おう、構わないぞ。ただし条件がある!」
何とここに来て条件とは。
あれ、さっきはくれるって言ってなかったっけ? あれぇ?
「は、はい。条件ですね、何でしょう?」
「火属性は俺にくれ!」
「――へ?」
「いや、ほら。こういうセットは仲間内で分け合うものだろ?
俺もアイナさんの功績に感動しちまってさ。俺は旅には出られないけど、ついでに仲間にしてくれよ。な?」
「え、ええ。分かりました、それじゃ私のパーティの五番目のメンバーということで……」
えぇー、なんという? 思いがけない仲間ができたぞ……。
でも一緒に来れないならすぐにお別れになるんだけど……本当に仲間になるの?
「ははは、ありがてぇ! アイナさんの頼みなら優先してこなすからさ、また何か仕事ができたら教えてくれよ!」
「はい、分かりました!」
実力は『なんちゃって神器』の剣で折り紙付きだから、それは仲間云々は置いておいてそのつもりだったのだ。
もしも第二、第三の神器を作ることになったらアドルフさんに相談することにしよう。
「――ねぇ、アイナちゃん。僕は風属性が良いな。扱えるのがそれだから」
「分かりました。それじゃジェラードさんは風属性で。とすると、残るのは水属性と土属性かな」
「それでは土属性は私が頂きましょう。アイナ様は水属性がお似合いです」
「あー、確かに。アイナさんは癒し系ですからね」
「……ポーション的な意味で、そうですかね。ルークは土属性でも良いの?」
「ええ。私はそもそも魔法は使えませんからね……。何でも大丈夫です」
おおう、何てこったい。
「私も魔法は使えないからなぁ。でもせっかくだし、覚えることがあったら水属性のものを覚えようかな?」
「それは良いですね。アイナさんのイメージにぴったりです!」
「イメージから入るのもどうかと思いますけどね……。
そういえばアドルフさん、闇属性は作っていないんですか?」
「ああ、闇属性はなぁ……属性石が高いんだよな……」
「そうなんですか? そういえば『闇の石』は先日買いましたけど、確かに高かったですね……」
「……そんなものまで持っているとは」
「アドルフさん、アイナさんはそういう方なんですよ」
「ははぁ、おみそれいたしました」
――そんなこんなで思いがけず五番目の仲間ができて、挨拶まわりは終わった。
しかしこんなタイミングで仲間になるだなんて、これがゲームだったら見逃す可能性が高すぎだよ。まさに隠れキャラ、みたいな感じっていうか。




