795.お礼
お店の掃除も無事に終わり、私がお屋敷に戻ったのは夕食の頃。
今日は結局、お弁当のあれこれだけで終わってしまった気がする……。
私が食堂に行くと、クラリスさんが話し掛けてきた。
他にいる人と言えば、あとはドローシアさんが食事の準備をしているくらいか。
……少し早目に来ちゃったかな。
「アイナ様。
夕方頃、ポエールさんの使いの方と、アドルフさんの使いの方が見えられました。
どちらもバスケットの返却と言うことでして」
「うん、ありがとう。
明日取りに行こうと思ったんだけど、今日中に返すって言われちゃってさ」
「はい。アイナ様にはくれぐれもよろしく……とのことでした。
その際、ポエールさんから食器を頂きまして」
「え? 何で急に?」
「美味しいものを頂いたと言うことで、細やかなお礼だそうです。
とても良いものでしたので、あとで是非ご確認ください」
「うわぁ、お弁当のお礼にそれって……。
何だか申し訳ないなぁ……」
「忙しい日々の中、久々に癒されたとのことです。
アイナ様のお料理は、とても美味しいものですから」
「そこまで言われると照れちゃうよ!」
「うふふ♪
それと、アドルフさんからもお礼の品が届いております」
「えぇ……」
二人とも、義理堅いと言うか何と言うか……。
でもアドルフさんの方は、カーティスさんの件のお詫びも含まれているのかもしれない。
「こちらは包装されておりましたので、中身は分からないのですが……」
そう言うと、クラリスさんは私の前に小さな箱を置いた。
手に取ってみると、微妙な重量が感じられた。
アクセサリかとも思ったけど、それにしては重すぎるかな。
「何だろう……?
――って、ナニコレ」
箱を開けてみると、中から出てきたのはガルルンの置物だった。
綺麗な鉄色の、テーブルに置くには丁度良さそうな逸品だ。
「……何でしょう。
ガルルンの置物のように見えますが……」
って言うか、むしろそうにしか見えないんだけど……。
しかし細かいところは作り込まれているようだ。
今まで見てきたものよりも、ディテールがずっと細かいと言うか……。
「ま、まぁ……?
お礼としては嬉しいですよね。この、私以外には喜びそうもない感じが……」
「え? ガルルンの置物は結構人気なんですよ。
ご存知ありませんか?」
「へ? ……いつの間に?」
「ガルルン教が広まるに連れて、子供たちを中心に人気が出ているんです。
ルーシーさんのケーキ屋でも、大掛かりなものを作ると言う話でしたが……」
「えぇ……?
私、全然聞いていないよ……?」
そんな中、ルーシーさんが食事の準備に姿を現した。
「あ、丁度良かったです。
ルーシーさん、少しよろしいですか?」
「はい、クラリスさん。
アイナ様、失礼いたします――……って、これは……?」
「ああ、これはもらいものなんだけど……。
まぁそれは置いておいて」
そう言いながら、私はクラリスさんに先を促す。
「クラリスさん。
ガルルンのケーキのことなんですけど――」
「え? ……あ、クラリスさん。それ……」
「え?」
ルーシーさんの言葉に、クラリスさんは思わず聞き返す。
「……アイナ様には、当日まで内緒にしようって……」
「……あっ」
途端に顔が曇るクラリスさん。
……これはすっかり忘れていたと言うことか。
サプライズ、見事に失敗。
「……私、何もキイテナイヨ。
ダイジョウブダヨ」
「アイナ様……。
お心遣い、感謝いたします……」
しょんぼりするルーシーさんの横で、クラリスさんも珍しくしょんぼりとしていた。
「……何たる不覚」
「クラリスさん、大丈夫です……。
他のサプライズも考えることにしましょう……」
少し気になる言葉を交わしながら、二人は仕事に戻っていった。
それにしても、今日はうっかりさんが多い日だなぁ。
カーティスさんのうっかりが、みんなに移っているような気もしてしまうけど……。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
時間がもう少し経つと、エミリアさんが食堂にやって来た。
「アイナさんだー」
「はーい、アイナさんですよー」
「……あれ? それ、何ですか?」
エミリアさんの興味は、私の側のガルルンに注がれていく。
「これ、アドルフさんからもらった置物です。
ガルルンって最近、人気があるそうなんですよ」
「えっ」
「……え?」
思わぬエミリアさんの反応に、私もついつい聞き返してしまう。
「あ、あー……。
そうですね。ガルルン、人気ですよね!」
「はい、そのようで……。
ルーシーさんのケーキ屋さんでも、ガルルンのケーキを作るんですって」
「え、えぇーっ!? バレちゃったんですかーっ!?」
「え……?
まさかそれ、エミリアさんも知っていたんですか!?」
「うぅ……。エイブラムさんとポエールさんにも相談していたのに……。
何たること……」
「えぇ、何でその二人に相談を……」
「全面的に関与しているから、口止めしておかないとバレちゃうじゃないですか……!」
……全面的に……?
ガルルンの人気って、その二人が火付け役……?
「でも、そこまで秘密にすることでも無いような……」
「やるからには最善を尽くす必要があるんです……っ!
あぁー、これで建国式典のサプライズも失敗ですかーっ」
「……え?
建国式典の話だったんですか?」
「……え?」
私の言葉に、エミリアさんは動きを止めた。
「いや、てっきりルーシーさんのケーキ屋さんで売るのかなぁ……って。
あれ? 違うんですか?」
「……。
私、ちょっと用事を思い出しました!!」
「えっ、ちょっと!?」
私の制止も虚しく、エミリアさんは走って食堂を飛び出してしまった。
……10分後、食事が始まったあとには戻ってきたけど。
でも、その話はそれっきりになってしまったわけで……。
あーあ……。
この30分くらいの記憶、無くしてしまいたい……。




