792.お弁当②
お弁当を届けに行くのは良いんだけど、お昼の時間にはしっかりと届けたい。
しかしよくよく考えてみれば、騎士団に寄ってから孤児院に行く……と言うのも、結構大変なのではないだろうか。
竜王の加護があるから、走っても行っても大丈夫なんだけど――
……とりあえず今回は、優雅に馬車で行ってみようかな。
まずは騎士団。
騎士団の詰め所は、この街のあちこちにある。
基本的に騎士たちはそういう拠点に散らばっているのだけど、第一から第三騎士団まで、団長はそれぞれお城の中に執務室を持っているのだ。
でも、今は建国式典に向けて大詰め――……と言うことで、ルークたちはお城の会議室で仕事をしているらしい。
……ちなみにそのお城だが、長らく急ピッチで建設をしてきたため、今ではほぼ完成を迎えていた。
あとは細かい装飾をしたり、調度品を入れたり、そう言ったところで最後の山場を迎えている状態だ。
顔見知りの団員に案内をしてもらって、私は会議室の前で待つことにした。
伝言とお弁当を残して次に行く……でも良かったんだけど、せっかく作ったんだから、やっぱり直接渡したいよね。
……待つこと10分ほど。
会議室からルークが出てきた。
「アイナ様!」
「あ、ルーク。お疲れ様~。
お弁当! 届けにきたよー!」
「ありがとうございます!」
ルークが駆け足で近付いてきたので、アイテムボックスからバスケットを取り出して渡すことに。
すると後ろから、見知った人が二人、こちらを覗き込んできた。
「ほう! ルーク殿、お弁当ですかな!」
そう言ったのは第一騎士団団長、ブラッドフォードさん。
「何と何と……! まさかアイナ様から……ですか!?」
続けるのは第二騎士団団長、エルドレッドさん。
そしてここに、第三騎士団団長のルークを加えた三人が、私たちの国を守る礎になるのだ。
「ブラッドフォードさん、エルドレッドさん、こんにちは。
お仕事の方はいかがですか?」
「はい、すべて順調でございます。
アイナ様におかれましては、ご安心して建国式典をお待ちくだされ!」
「まったくその通りです。
我らがいれば、何の心配も要りません!」
この団長たちは、権力に溺れるような敵対心は持っていなかった。
……実はヴェルダクレス王国軍との戦いのあと、大活躍をした第三騎士団を疎んでいた時期もあったみたいなんだけどね。
しかしその後、第三騎士団を率いるルークが、私と一緒にゼリルベインを倒してしまったのだ。
それ以降、ブラッドフォードさんもエルドレッドさんも、ルークのことを英雄視しているようで……。
……だからこそ、上手くまとまってくれている……と言うのかな。
「いつもありがとうございます!
みなさんのこと、とっても頼りにしていますので♪」
「それはありがたいお言葉。こちらこそ光栄でございます。
……しかしルーク殿はお羨ましいですな。アイナ様からの差し入れなどとは……」
ブラッドフォードさんは、ルークに渡したバスケットを隙あらば覗こうとしている。
「まったくですね……。
ルーク殿には奥様がいると言うのに、これはけしからんことです」
エルドレッドさんも、さりげに文句を言ってくる。
「まぁまぁ、キャスリーンさんからはお許しをもらっていますので。
……ああ、そうだ。もしよろしければ、お二人もお弁当はいかがですか?」
「「え?」」
「少し多めに作ってきたんですよ。
お口に合うかは分かりませんけど……」
「ななな、何と!?
もし頂けるのであれば、是非とも……!!」
「わ、私もお願い出来ますか……!?
まさかこんな嬉しい日が来ようとは……!!」
「あはは、大袈裟ですよー。
食べ終わったら、バスケットはルークに持たせてくださいね」
そう言いながら、私は二人にお弁当を渡した。
「おお……っ!!」
「ああ……っ!!」
……受け取った二人は、どうやら感動をしてくれているようだ。
これは作った人冥利に尽きると言うものだね。
「ゆっくり召し上がってくださいね。
さて、それじゃ私はそろそろ――」
「……おや? 折角ですし、ご一緒しませんかな?」
「そうですとも、そうですとも。
こんな機会、滅多に無いのです。アイナ様、是非ともご一緒いたしましょう」
「ありがとうございます。でも、これから行くところがありまして……。
エミリアさんが待っているんですよ」
「おっと、エミリアさんですか……。
それなら仕方が無いですな」
「確かに……。食べ物の恨みは恐ろしいと言いますからね」
ブラッドフォードさんとエルドレッドさんは、笑いながらそう言った。
……それにしてもエミリアさんの印象って、どこに行っても変わらないものなんだなぁ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
再び馬車に乗って、私が向かったのは孤児院だった。
時間はまだ12時前。……とは言っても、少しギリギリではあるか。
外で遊んでいる子供たちを横目に眺めながら、私は建物の中に入っていった。
ちなみにこの孤児院、日中は学校の授業のようなこともやっているのだ。
「――つまりじゃな、掛け算と割り算は優先して計算するわけで――」
ふと、近くの部屋から聞き覚えのある声がしてきた。
何気無く覗いてみると、デチモさんが小さな子供たちに算数を教えている。
……元、ダリルニア王国の王様のデチモさん。
四則演算なんて、もう教えているんだ?
部屋の後ろでは、風竜のエクレールさんがデチモさんを見守っていた。
護衛、兼、監視なのだろう。
私とエクレールさんは、目が合うとお互い小さく会釈をした。
最近は特に接点が無いけど、彼女はデチモさんと二人で、この街に貢献をしてくれている。
子供たちを育てることは、私たちの国を支えてくれる人材を育てることと同じだからね。
……それを言うならエミリアさんも、か。
エミリアさんは別の部屋で、子供たちに魔法を教えていた。
「――あ! アイナさん!!」
「わぁ、アイナ様だーっ!」
「アイナ様ーっ!!」
エミリアさんの声に引き続き、子供たちも私に挨拶をしてくれる。
とりあえず邪魔をしないように、笑顔で手だけ振っておく。
……今までは建物がどんどん建っていくのを見て、『街の発展』と言うものを感じてきた。
しかし学びの現場を見ていると、それとは少し違う『発展』を感じることが出来る。
『国の発展』……とでも言うのだろうか。
明確に目に見えるものでは無いけど、何も無いわけではもちろん無い。
少しずつでも確実に、積み重ねられていくものがあるのだ。
あとはもう少し。
私の役目はそろそろ終わるけど、ここまで来たら、完全にやり遂げてしまいたいところかな。




