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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第3章 鉱山都市ミラエルツ
79/911

79.貴重な情報

 次の日の午前中、私たちはオズワルドさんやガッシュさんが働いている鉱山にやってきた。

 メンバーは私、ルーク、エミリアさん、ジェラードの四人。いつも三人で行動するのが多いから、四人というのは何やら新鮮だ。


「――よぉ、アイナちゃんたち!」


 偶然にもガッシュさんが外にいたのでまずはご挨拶。


「お久し振りです。えぇっと……コンラッドさんの件以来ですね」


「ああ、その節はありがとうな! みんな給料が上がるってんで、次の給料日を心待ちにしているぞ!」


「え? でもその割にみなさん、夜な夜な酒盛りをしているようですけど?」


「はっはっは! そうだな、みんな堪え性が無ぇからな。いやはや、その通り!」


 ガッシュさんは豪快に笑う。

 うーん、鉱山の男っぷりが見られるのも今日までか。何とも寂しい限りだ。……いや、むしろ慣れ過ぎちゃったかな?


「あ、それでですね。私たちは明日の朝にミラエルツを発ってしまうので、最後のご挨拶をと思いまして」


「そうなのか? ああ、俺たちの女神がいなくなっちまうなんて悲しいもんだぜ」


「え、何ですかそれ」


「アイナちゃんは俺たちの財布に舞い降りた女神だからな!」


 ……ああ、そういう。

 少し呆気に取られていると、ガッシュさんは私の後ろの方に声を掛けた。


「――それにしても、そういえばアルリーゴも一緒にいるんだな?」


「どうも、ガッシュさん。お久し振りです」


「「……アルリーゴ?」」


 ぼそっと声をハモらせて言ったのはルークとエミリアさん。

 私もぼそっと小声で二人に伝える。


「ジェラードさんってね、鉱山ではそう名乗っていたんですよ」


「「へぇ……」」


 何せスパイみたいな仕事が本職だから、至るところで偽名を使っているんだろうね。

 ジェラードに鑑定を使うと『ハルバー・レリス』っていう名前らしいから、『ジェラード』っていうのも偽名なんだろうけど。


「それにしてもお前、右腕が治ってこの街から出て行ったって聞いていたが……」


「はい、アイナちゃんに右腕を治してもらって――そのご縁で、一緒に旅をさせてもらうことになりました」


「ほう、それは良いな。俺たちの分までしっかりアイナちゃんを助けてやれよ」


「もちろんです」


「――というわけだ、アイナちゃん。アルリーゴのやつは馬車馬のようにこき使ってやってくれよ」


「はーい、分かりました♪」


「ちょっとアイナちゃん、そこは分からないで!」


「はっはっは! お前も覚悟しておくんだな!」


「そんなぁ……」


 和やかな会話が続く。

 ひとしきり話したいことを済ませると、ガッシュさんが気を利かせてくれた。


「それじゃアイナちゃん。オズワルドさんを呼んでくるからさ、ちょっと待っててくれな」


「はい、お仕事中にすいません」


「なんのなんの」


 ガッシュさんは意気揚々と鉱山の中へと消えていった。




 ――十分後、オズワルドさんが一人で鉱山から出てきた。


「やぁアイナさん、こんにちは」


「オズワルドさん、こんにちは。今日は最後のご挨拶にきました」


「おうおう、ありがたいね。何だかアルリーゴもいるが、それは置いておこう」


「アルリーゴさんの風当たりに愛が込められていますね」


「はははっ、やつとはもう挨拶を済ませてあるからな」


「そんなぁ、オズワルドさん。せっかく来たんですよ~?」


 ジェラードが少し寂しそうに言った。


「仕事辞めるってときにせっかく良い話をしてやったのに、そのあとノコノコ戻ってくるんじゃねぇよ!」


 ああ、なるほど。それなりの別れのシーンがあったのに、寂しさついでに付いて来ちゃったってことか。

 それはオズワルドさんとしても少し居心地が悪いかもしれないね。


「あはは。ジェラ……ごほん、アルリーゴさんもここを離れるのが寂しいんですよ。

 今日だって自分から来たいって言い始めましたし」


「ちょちょ、アイナちゃん! そういうのは黙っておくのがマナーだよ!」


「俺は気にしないから大丈夫だぞ。それじゃアルリーゴ、ちょっとアイナさんと話があるからお前は向こうに行っててくれ」


「うわぁ、塩対応……。分かりましたよ、もう!」


 そう言うとジェラードは、空気を読んだルークとエミリアさんと一緒に少し離れた場所まで歩いて行った。




「――さてと、アイナさん。何か話が前後してしまうが、アルリーゴの右腕を治してくれたんだってな。

 治ってからのアイツはとても明るくなって――俺もずっと心配していたんだが、これでようやく肩の荷が下りるってもんだぜ。本当にありがとう」


「いえいえ、これも何かのご縁ですし」


「ははは、事も無げにいってくれるぜ」


「それにしてもアルリーゴさんのこと、そんなに心配してらしたんですね」


「ああ……。アイナさんは、アイツの右腕のことは知っていたっけ?」


「ええ、何か仕事に失敗して、誰かに動かなくさせられたって……」


「そっか、知っていたか。まぁ治しちまったくらいだからな……。

 実はそこら辺の事情もあって、アイツはこの鉱山に送られてきたんだよ。俺は面倒見る係さ」


「そうだったんですか、長い間お疲れ様でした」


「ははは、どうってことないさ。

 それでな、アイツのこともコンラッドのおやっさんのことも、アイナさんにはすごくお世話になっただろう?

 だから何かお礼がしたくてな。何か欲しいものはあるかい?」


「え、別にそういうのは大丈夫ですよ」


「いやいや、気持ちだから! 何でも言ってくれよ」


 うーん、欲しいものかぁ……。

 あるにはあるけど、全部高いものだからなぁ……。


「鉱石関係でいうと、オリハルコンかミスリルが欲しいです」


「オリ……。いやいや、さすがに無理だから!」


「ですよねー」


「――あ、いや、待てよ。そこら辺の情報だけで良いなら……」


「え? 何かご存知なんですか?」


「おう。それじゃこの情報をお礼とさせてもらおうか。

 まずはミスリルな。これはな、メルタテオスを治める貴族サマが持っていると思うぞ」


「……メルタテオス?」


「うん? ここから王都までの中間くらいにある街だ。宗教都市メルタテオスって知らないか?」


 ああ、その辺りに大きな街があることは知っていたけど、そんな名前だったっけ? 地図で見覚えはあるはずなのになぁ。


「すいません、私はクレントスから旅を始めたもので」


「そうなのか、なるほど。

 話を戻すと、いつだったかこの街で珍しくミスリルが出たときにそのお方――アーチボルドって人が全部買い占めていったんだ」


「全部、ですか……?」


「まぁ量はそこそこだったけどな。二十キロくらいかな?

 金属の収集なんていうちょっと変わった趣味を持った人だから、まだ持ってると思うぞ」


「でも、そんな人が手放しますかね?」


「ふふふ、そこを踏まえて話をしているんだ。

 そのアーチボルドって人なんだが、最近ハゲに悩んでいるらしい。ずいぶんとお金を出していろいろとやっているらしいぞ」


「は、はぁ。私は別にハゲてても差別はしませんよ!」


「いやいや、そういうことじゃなくて。アイナさんは錬金術師なんだろ? 髪を生やす薬を作れるなら、交換とかできるんじゃないかな」


「!!」


「メルタテオスは宗教都市なんだが、たくさんの宗教がひしめき合っている場所なんだ。

 どこかの宗教に助けを乞うては裏切られ、の連続らしい。まさに神頼みをしたくなるレベルなんだろうなぁ」


 オズワルドさんはしみじみと噛み締めて言った。

 大丈夫、オズワルドさんはまだそんなにハゲてないですよ。


「それじゃ、メルタテオスではちょっと頑張ってみますね。薬は作れるか分からないですけど――」


「ははは、アイナさんに作れないなんてものがあるのかね?

 あ、それともうひとつ。オリハルコンの方なんだが――」


「え? もしかして何かご存知なんですか!?」


「いや、これはただの噂なんだが……。何やらこの国の王様が持っているらしい……ぞ」


「……王様、ですか」


 本当だったらすごいヒントではあるけど……。国のトップだから持っていてもおかしくは無いし……。

 でも――


「うーん、さすがに王様から頂戴する流れがまるで見えませんね……」


「やっぱりそうだよなぁ。それじゃ俺のお礼はミスリルの情報まで、ということで頼む」


「はい、それだけでもとても助かりました!」


「おう、それは良かった。

 ――さて、それじゃアイナさん。他の連中にも挨拶してってやってくれないか?」


「え?」


「ほら、アイナさんには崩落事故のときにお世話になっただろう?

 何回か告白されるかもしれないけど、ちょっと寄っていってくれないかな?」


「ははは、まさかそんなー」




 このあと、他の三人と合流して鉱山の中でご挨拶。

 オズワルドさん主催で急遽作られた『アイナさんに告白コーナー』では実に七人もの人が声を上げ、無事に全員玉砕していった。


 ついでにその影でジェラードも二人から告白されていたのは内緒だよ。

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