789.凄いお皿
次の日は、朝からお皿チャレンジ。
新人メイドのドローシアさんが割ってしまったお皿を、何とか修復しようと言う試みだ。
綺麗にまっぷたつになったから、断面は綺麗な方。
ここは錬金術を駆使して――
……ってまぁ、バチッとやるだけなんだけどね。
はい。
バチッ
いつも通りの音と共に、何とお皿が修復できてしまった。
錬金術のスキルを身に付けてから、もうすぐ6年。
今さらこんな技術があることを知るなんて……。
……ただの勉強不足なのか、想像力が弱いだけなのか。
でも、ちゃんと出来たのだから良しとしよう。
もしかして、これからは修復の仕事も受けられちゃうのかな。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
お皿を持って厨房に行くと、残念ながら誰もいなかった。
しかし誰かの気配が感じられたので、そのまま隣の倉庫を覗いてみると――
……そこにはマーガレットさんがひっそりと座っていた。
「あ、あれ……?
こんなところでどうしたの……?」
「……アイナ様!?
し、失礼しました! 今は休憩中でして……!」
「あ、うん。その辺りはお任せするけど……。
顔色が悪いよ? 大丈夫?」
「う……。
だ、大丈夫です、はい!」
「そう……?
それで、朗報があるの。昨日ドローシアさんが割っちゃったお皿なんだけどさ。
ほら、この通り! 直ったよ!!」
「えっ!?
ほ、本当だ! 凄いですね、これも錬金術ですか!?」
「うん、初めて試してみたんだけどね。
でもこれで元通りだから、キャスリーンさんとドローシアさんにも安心するように伝えてもらえるかな」
「はい、分かりました!
アイナ様のお手を煩わせてしまい申し訳ございませんでしたが、これで一安心です……!」
ちなみにこのお皿、修復をしたのと同時に錬金効果が付いてしまった。
気になる鑑定結果はこちら。
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【高級な皿(S+級)】
熟練の職人が技術と魂を込めて作った高級な皿
※錬金効果:物理耐性+10000%
※追加効果:魔法耐性+10000%
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……何だかもう、『壊されてたまるか』と言うお皿の意気込みを感じてしまう。
桁違いの耐性が付いてしまっているから、これはもうかなりの衝撃に耐えることが出来るだろう。
さすがにここまで頑丈であれば、数百年の時代くらいは平気で渡っていけそうだ。
「ところでさ、ドローシアさんの調子はどう?
私から見ると……まぁ、お察しの通りなんだけど……。教育係から見て、どうかな」
「うぅ……。
実はそれで、ちょっとへこんでおりまして……」
「あ、そうなの?」
「はい……。
昨日、アイナ様が厨房にいらしたときの話ですが……。
やっぱり私、何も出来なくて……。その間に、キャスリーンさんが全部解決してしまって……」
「そうだったね。
キャスリーンさんも、いつの間にか安定感が増してきたと言うか」
彼女を変えたのは結婚か、妊娠か。
あるいは他の何かかもしれないけど……。
「正直、キャスリーンさんのことは……その、後輩みたいに思っておりまして……。
それなのに私、抜かれちゃったなー、って……」
確かに昨日の、キャスリーンさんの手腕は見事なものだった。
本来であれば、教育係のマーガレットさんがあの役目を果たすことが出来れば完璧だったんだけど……。
「マーガレットさんはちょっと苦手そうだもんね……。
でも、クラリスさんが教育係に指名したんだもん。マーガレットさんも、今回が良い勉強になったんじゃないかな?」
「勉強……」
「うん。新人を教えるのも、注意するのも、自分のための勉強になるものだよ。
メイドのスキル……と言うよりは、人の上に立つスキル……って感じだけど」
「人の上に立つ……。
私、そう言うのは全然……。でも、キャスリーンさんだって全然……」
「ほらほらー。あんまりネガティブに考えないで!
キャスリーンさんは、いろいろな人生経験を踏んできているしさ。
だからマーガレットさんも比較はしないで、自分のペースでやれば良いと思うよ?」
「……そうですね、キャスリーンさんはもう少しでママになりますからね。
ああ、人生経験で完全に負けてるぅ~……」
「ネガティブに比較しないで!?」
「はぅっ!?」
いつも元気なマーガレットさんが、珍しいまでにへこんでしまっている。
でも、気持ちは分かるけど……勝ち負けを比較するところでも無いからなぁ……。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
しばらくマーガレットさんの話に付き合っていると、引き続き何とか頑張っていく……と言う形で収まっていった。
残念ながら私も魔法の言葉を出すことは出来ず、即解決……には至らなかった。
「――はっ!
アイナ様、申し訳ございません。こんな悩みにお時間を取って頂きまして……」
「大丈夫だよー。
でも、そろそろ昼食の準備だよね」
「そ、そうですね……。
……あれ? それにしては、ミュリエルさんもドローシアさんも戻って来ないですね……」
「ん? 二人はどうしたの?」
「今、お買い物に行ってもらっているんです。
本当は私とドローシアさんで行く予定だったのですが、その……、ちょっとミュリエルさんに代わってもらいまして……」
……なるほど。その空いた時間に、倉庫でひとり悩んでいた……と。
そう考えると、私も丁度良いところでお邪魔をしてしまったものだ。
「この時間帯で遅くなるだなんてね……。
何かトラブルでもあったのかなぁ……」
特に今回は、ドローシアさんが行っているのだ。
お店の商品を全部ひっくり返しちゃったりだとか、そんな光景が簡単に目に浮かんでしまう。
「私の馴染みにしているお店を紹介したのですが……。
……ああ、大丈夫でしょうか……」
「一緒に、見に行ってみる?」
「いえ! それよりも、昼食の用意をしなくてはいけません!
それが私たちメイドの仕事ですから!」
「そ、そう……?
それじゃお願いするけど、一人で大丈夫……?」
「……キャスリーンさんはお医者さんに行っていて、ルーシーさんはお店の方に……。
となると、お休み中のクラリスさんに手伝いをお願いするしか……」
「あれ? 今日はお休みが多い日なんだね」
「そろそろ慣れて来ただろう……と言うことで、ドローシアさんを完全に頭数に入れるようになったんです。
……その、今日から」
「まさに初日の悲劇!」
「ま、まだ悲劇と決まったわけでは……!?」
……あ、それもそうか。
ついつい、場の空気に流されてしまった。
「それじゃ折角だし、私が手伝うよ」
「え!? アイナ様にそんなことをさせるわけにはいきません!」
「でも私だって、ダンジョンに潜るときはいつも炊事当番だよ?
最近はお料理もしていないし、たまにはしたいかなーって」
「そ、そうですか……?
いやいや、ダメです。ここは私にお任せを!」
「まぁまぁ、そう言わずに!
よーし、頑張ろう! はい、たまねぎ」
「えっ、あっ、どうも……。
……とほほ。それではよろしくお願いいたします……」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
カカカカカカカカカカッ!!
ボワッ
チャチャチャチャチャッ!!
バチッ
ジュワーッ
シャシャシャシャシャッ!!
「……あ、あれ?
アイナ様って、そんなにお料理が上手でしたっけ……?」
「いやぁ、いつの間にかね……」
継続は力なり、と言うことわざもある。
私も今まで、ダンジョンの中では延々と食事を作り続けたわけだし……。
あとは包丁捌きとかにも、竜王の加護が地味に働いているのかもしれない。
とにもかくにも、そんなわけで今日の昼食は私のお手製。
お屋敷の人に振る舞うのは、かなり久し振りになるのかな。




