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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第13章 神々の空へ
785/911

785.再会

 気が付くと、私は灰色の世界にいた。


「……ここ、どこ……?」


 そんな言葉が思わず口を突いて出る。


 しかし嫌な気分はしない。

 それどころか、ここにはずっといたいとすら思えてしまう。



 何も無く、誰もいない世界。


 空を見上げながら歩いていると、単純な灰色では無いことに気付いた。

 ……白と、黒の、集合体。



 テレビやモニターのように、よくよく見れば全てが点で構成されている。

 その数は大よそ半々。

 ……いや、まだ白の方が多い感じか。灰色の程度で言えば、まだまだ明るい灰色だし――



「――アイナさんっ!!」



 ふと、声がした。

 遠くの方の、私の右側から。



「え? あれ? 英知さん?」


 未だ見ぬ錬金術師の女の子。

 いつも通りその姿を借りた英知さんが、私の元へと走って来た。


「すいません、探しました……!

 申し訳ありませんが、こちらへ……」


「は、はぁ……。

 あれ? 英知さんがいるってことは、私は『英知接続』を使って……?」


「いえ……。

 以前もやったことがありますが、私の方からお呼びしました。

 ただ、接続時の障害が多くて……上手く座標が合わせられなくて」


 いつもなら真っ白な世界。

 今回は灰色の世界。


 ……障害?


「あ、もしかして虚無の力が……?」


 私はようやく、少し前の出来事を思い出した。

 朝起きて、しばらくしてから漠然と夢の内容を思い出すように……。

 しかし一度思い出してしまえば、あんなに鮮烈な出来事はなかなか忘れられない。


「……はい。

 アイナさんの身体には、ゼリルベインの神格を中心として、神力が押し寄せてきています。

 今は……ここの時間の進み方は少し違いますので、ひとまずはご安心ください」


「英知さんが助けてくれたんですね……。

 本当に、ありがとうございます。

 でも私、これからどうして良いのか分からなくて……」


「……解決策は、ありますよ」


「あ、あるんですか?」


「そのために、アイナさんに会ってもらいたい方がいるんです」


「え? 私に……? ここで?」


「はい」


 もうしばらく歩いて行くと、私たちの前に突然白い壁が現れた。

 横にどこまでも、上にどこまでも、広く広く続く壁。


 そして私たちのすぐ目の前には、一枚の扉があった。

 ……この世界、こう言うものも存在したんだ……。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 扉を開けた先は、小さな部屋になっていた。

 白いテーブルと白い椅子だけがある、白い部屋。


 ……あれ? そう言えばここは、灰色にはなっていないのかな……。

 この白さ、何だか懐かしいもののように感じてしまう。


 そして椅子のひとつには、見慣れた姿の女性が座っていた。



「――ようやく来たか。遅いぞ!」


「は……? え?

 ぐ、グリゼルダ……!?」


 ゼリルベインとの戦いで死んでしまったグリゼルダ。

 戦いのあと、しっかり(とむら)ってあげたのに――


「うむ、久し振りじゃのう。

 元気にしておったか?」


「え? えええ?

 ちょっと待って、グリゼルダって死にましたよね!?」


「不躾じゃのう……。

 まぁ確かに、妾はもう死んでおるよ。お主の前にいるこの妾は、妾が遺した妾の一部……と言う感じじゃな」


「ややこしい! ……でも、何でここに?」


「今際の際に言ったじゃろ?

 どうしようもなく困ったときにな、もう一度くらいは……と」


「た、確かに言っていましたけど……。

 さすがにあれは、言葉の綾かと思いますよ!?」


「ふふふっ、そうかのう?

 ……さて、妾にも時間が無いのじゃ。本題を進めることにしよう」


「あ、はい……。

 何だか死んだあとまで、すいません……」


 目の前でしっかり喋っているのに、そう言ってしまうのも不思議な気分だ。

 それにやっぱり、どこか申し訳なさを感じてしまう……。



「アイナの身体には、ゼリルベインによって虚無の神格が埋め込まれた……んじゃよな?

 英知の管理人から聞いてはおるが、神力が集まってきておるんじゃろう?」


「そのようで……。

 最後の最後、私も何か変なことを考えていたような気がします……」


「それは力に呑み込まれておる証拠じゃよ。

 もちろん、このままいけば困ったことになるわけじゃが……」


「ふえぇ……。

 ……あ! 英知さんから解決策があるって言われているんですよ!

 グリゼルダが教えてくれるって!」


「うむ。英知の管理人でも、時間を掛ければ分かることじゃろうがな。

 しかしアイナの話をたくさん聞いている分、妾の方が話が早いと思ったのよ」


「はぁ……」


「まずは確認なんじゃが、アイナの神器、神煌クリスティア……。

 これはもう、願い事が叶えられる状態になっておるよな?」


「あ、はい。ゼリルベインと戦う準備の一環で、何とかギリギリ……。

 でも最後の方、やたらと熟練が溜まるのが速かったんですよね」


「ほう……? ルークの分が、あぶれでもしたかのう……?

 しかし幸いじゃな。それなら、助かることは出来るじゃろ」


「もしかして、願い事で神格を外す……とか?」


「いや、逆じゃ」


「……へ?」


「願い事は、そもそもは『神の力を振るう』と言うことに他ならない。

 神の力に対抗する際、まともに神の力をぶつけても上手くはいかん。

 ……上手くいく場合もあろうが、今回は確率に賭けるわけにはいかないじゃろ?」


「はい……。

 少ない確率であっても、私は世界を滅ぼすなんてことになったら嫌だし……。

 みんなに、嫌な選択肢を選ばせるのだって嫌だし……」


「妾としても、アイナにはそんなことはさせたくないのでな……。

 アイナよ。お主はな、神器の願いを使って……神になるんじゃよ」


「は、はぁ?

 中途半端な神様のままなら、しっかり神様になれ……と!?」


「ああ、違う違う。

 むしろそう言う意味では、中途半端な神になれ……と言うことじゃな」


「?????」


 グリゼルダの言葉に、私はますます意味が分からなくなってしまった。


「……ほれ、以前戦った英雄……。

 シルヴェスターと言ったかの」


「ああ、はい。

 神器を使って、神様になろうとしていましたが……」


「あやつがやろうとしていたことを、そのままやれば良いんじゃよ。

 神の遺物を、神器を介して取り込むんじゃ」


「神の遺物? そんなもの――」


「持っておるじゃろ?

 妾の目は誤魔化されんぞ。アイテムボックスの中に、ほれ」


「え?

 グリゼルダって、他人のアイテムボックスの中身を見れたんですか?」


「おっと、ここだけの秘密じゃぞ?

 さすがにこれは、嫌な目で見られてしまうのでな!」


「秘密も何も、グリゼルダはもう死んでるじゃないですか……」


「む、それもそうか……。ならばもう、どうでも良いわ♪」


 明るく笑うグリゼルダに呆れながら、私は記憶を辿っていった。

 神の遺物……。神の遺物……。


 ……あ。

 もしかして、『神の骨・肆』とか言うアレ?


 そもそもは王都に構えた最初のお屋敷、とある部屋の天井裏に隠されていたもの――


「……グリゼルダ。

 遺物ってもしかして、骨……みたいなもの……?」


「うむ、それじゃよ。

 それをな、神器の願いでアイナ自身に取り込むんじゃ」


「えええ!? ちょっと待ってください!?

 第四神って水の神様だから――

 ……私、水と虚無の神様になっちゃうんですか? さすがに私、無敵になっちゃいませんか!?」


「2つの神格を併せ持つなんぞ、今まではあり得ないことじゃが……。

 しかしな、しっかりオチは付くんじゃよ」


「オチって」


「水の神になった際、身体の方は神力に負けないようになるじゃろう。

 しかし1つの身体に2つの神の力はやはり大きすぎる。

 ……じゃからな。水の神の力で、虚無の神の力を相殺させてしまうんじゃよ」


「ああ……。

 1プラス1、イコール2……では無くて。

 1マイナス1、イコール、ゼロ……にする、と」


「うむ。それだけで身体も精神も、あり余る神力だって、無事にぜーんぶ解決じゃ♪」


「なるほど……っ!!

 ……でもそれ、2つの神様の力を持っているのに、発揮できる力は何も無い……ってことですよね?」


「だから最初に言ったじゃろ? 中途半端な神じゃ、とな♪」


「は、はぁ……。

 中途半端と言うか、名誉神様……みたいな感じですかね……」



 そうこう話しているうちに、部屋の中は少しずつ暗くなっていった。

 辺りを確認してみれば、徐々に黒の領域が増えていっているようだ。


「……思いがけず、障害のまわりが速いのう……。

 アイナよ、話は以上じゃ。そろそろ元の世界に戻るが良い」


「え……。もう……?」


「名残惜しいが、これでお別れじゃ。

 それと……。妾のために、たくさん泣かせてしまって申し訳なかったのう」


「う……。それを言われると、また悲しくなっちゃうじゃないですか……。

 でも……、また、会えますよね?」


「さぁて、さすがに分からんな。

 そもそもこの妾だって、本体では無いんじゃぞ?」


「ああ、そう言えばそうでした……。

 ……でも、会えて嬉しかったです。本当に嬉しかったです……!!」


 部屋はさらに暗くなっていく。

 英知さんの姿はいつの間にか無く、ここには私とグリゼルダだけが取り残されていた。


「それではさらばじゃ。いつまでも息災でな。

 ……お主のことは、ずっと娘のように思っておったよ」


「わっ、私だって――」



 私の頭を優しく撫でるグリゼルダ。

 笑顔の彼女に、私の言葉は届くことが無かった。


 ……私の精神は、一気に現実に引き戻されていったのだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] まさかの再会だな とりあえずこれで安心かな? でも、自由アーティファクト錬金ができなくなるのは残念
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