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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第13章 神々の空へ
784/911

784.継承

 ――私はゼリルベインの攻撃を受けて、激しく吹き飛ばされてしまった。


 多分、宙を浮いて、3回、4回……それ以上は転がされたと思う。

 しかし身体の痛みはそれほど感じられず、左目にばかり強い違和感を覚えていた。



 熱い?

 ……冷たい?



 痛い?

 ……苦い?



 ――……気持ち悪い。



 身体の自由が効くようになったあと、私はとっさに左目を押さえてしまった。

 少し触れただけで、当然のように激痛が走る。


 慌てて放した手の中には、私の血がべっとりと付いていた。

 それを見ているのは、右目だけ。


 つまり、私の左目は――




「アイナさんっ! アイナさああんっ!!」


 エミリアさんが、私のところに走ってやって来た。


「……エミリアさん、私――」


 呆然とする私を尻目に、エミリアさんは私の顔を凝視してくる。


 でも、視線が少し外れている。

 ……ああ、私の左目を見ているのか。


「今、ヒールを……っ!

 ……あ、ヒールは、どうなんでしょう……。

 でも、急がないと……っ!!」


 ヒールという魔法は、実は完璧なものでは無い。

 対象者の回復力を加速させる魔法だから、失われた機能を回復させる力までは持っていないのだ。


 むしろ下手に癒してしまえば、取り返しが付かなくなることだってあり得る。

 例えば手術をすれば治るはずだったのに、ヒールを掛けたせいで変に癒着してしまった……とか、そう言う話が分かり易いだろうか。

 そんな理由もあって、エミリアさんはヒールを使うのに躊躇しているのだ。


 それなら私の薬はどうなのか……。

 怪我なら一瞬で治るだろうけど、普通のポーションでは身体の欠損までは補ってくれない。

 だからポーションを掛けて治るか、と言われれば……やってみないと分からないところではある。


 でも、ヒールよりは可能性はあるはず……。


「だ、大丈夫です……。

 ひとまずポーションで……」


 私は高級ポーションをアイテムボックスから取り出して、頭の上から被った。


 左目に直接掛けるのが怖かった……と言うのもある。

 口に含んで飲み下すことが難しそう……と言うのもある。

 しかし、使い方で効果はそこまで変わらないのだから、何の問題も無いはずだ。


 しばらくすると、左目の痛みは引いてきた。

 熱さや冷たさ、気持ち悪さは残っているものの、ひとまず痛みだけは……。



「――……あれ?」



 恐る恐る左目に軽く触れてみると、何となく光を感じた。


 まさかと思いながら、力を強めに入れてみる。

 かなりの違和感はあるが、何とか左目を開くことが出来た。

 そして焦点はまだ合わないものの、景色はしっかりと――



「……み、見える……?

 エミリアさん、見えます! 左目、大丈夫でした!!」


 私の嫌な予感は外れた。

 問題は何も無い。傷が浅かったのか、ポーションの効果が届く範囲だったのか。


 どちらにせよ、『見る』と言う機能さえ失っていなければ、あとは薬でどうにでもなる。

 何せ私の薬は世界一なのだから――



 ……しかしエミリアさんの反応は、予想外のものだった。



「あ、アイナさん……!?

 その目、一体……どうしたんですか!?」


「……え?」


 思い掛けない言葉に、私は言葉を失ってしまった。


 エミリアさんは慌てて手鏡を出してきた。


 不思議に思いながら、私はそれを覗いてみる。


 ……そして私は、そこに映ったものに驚愕する。



 金色。



 私の瞳の色は、元々は赤色だった。

 しかし今、鏡に映っている左の瞳は金色。


 右の瞳は赤色のままだから、いわゆるオッドアイと言うやつになるんだけど――



「……何、これ……」



 もちろん、ポーションの効果にこんなものは無い。

 身体の方が変に反応して、こう言う副作用が出ると言うことも無いはずだ。



 ……ゼリルベインに何かをされた……?

 そう考えるのが自然だろうが……。



「そ、そうだ! まだ戦いの最中……!

 ゼリルベインは……!?」



 しかしその戦いも、既に終わりを迎えていた。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 私は何とか起き上がり、エミリアさんと一緒にゼリルベインのところへと戻っていった。

 身体を損壊させていたゼリルベインは、既にルークとジェラードによって倒されていた。


 神剣アゼルラディアが――

 ……ゼリルベインを貫いて、地面に突き立っている様は、見ていて恐ろしいものがあった。



「アイナ様、ご無事で――

 ……っ!?」


 ルークは私を見て絶句した。

 ジェラードも同じだった。


 私の金色の瞳に驚いているのだろう。



「……まだ、生きてるの?」


「は、はい……!」


 ルークが慌てて返事をしたあと、ゼリルベインは私を見上げてきた。

 そして苦しそうな声で、ゆっくりと話し掛けてくる。


「ふ……ふふ……。

 上手く、いったようだね……。どうだい、アイナさん……。

 今の気持ちは……」


「最悪、ですね。

 ……この左目、あなたのせいですよね?」


「気に入って……もらえたかね……?

 ……くくくっ。あーっはっはっはっ!!」


「何がおかしいんですか……。

 それに、この目は一体――」


 苛立ちを隠せない私に、ゼリルベインは満足気に語り始めた。


「私の目的は……この世界を、滅ぼすことだった……。

 しかし残念ながら……、アイナさんに邪魔をされてしまった……。

 ……でもね、前の戦いのあと、思うところが出来たのだよ……」


「思うところ……?」


「アイナさんは、アドラの爺様の使徒だろう……?

 言うなれば、創造主の系譜に当たるのだ……。

 だからこそ、脆弱な人間なのに……多くのユニークスキルを持つことが出来ていた……」


「でも、アドラルーン様の使徒は他にもいたんでしょう?

 あなたが殺してしまったそうだけど……」


「エマから……聞いたのかね……?

 しかし……アイナさんほど、特異な例も無い……。

 錬金術は創造の力……。無からは無理だが、有から有を作り出す……、それは君だけの力だ……」


「それが何か……?」


「反面、私は有を無に還す存在だ……。無を導く者……。

 そこでね……、興味が湧いたのだよ……。

 その相反する性質を……、同居させたらどうなるのか……とね」


「……っ!?

 まさか、虚無の力を私に……!?」


「くくくっ、虚無の力……ごときでは無いぞ……。

 君たちの活躍によって、虚無の神は殺された……。

 故に、空席となるはずだった神格を……そのままくれてやったのだ……!!」


「は、はぁ!?」


「いずれ、その神格に引き込まれる形で……神力が流れ込んで来よう……。

 しかし神格は与えたが……、身体は脆弱な人間のままなのだ……」


「ちょっと待って!?

 そうしたら、私は一体どうなるの!?」


「……神力に振り回されて精神がやられるか……、身体が異形のものに変質するか……

 どちらにせよ……。この世界を……、創造と虚無の力で、暴れる存在となるだろう……。

 しかもアイナさんは、不老不死――」


「そんな……酷い……っ!!」


 エミリアさんの嗚咽が聞こえる。

 ……これはもう、酷いを通り越して最悪だ。


「アイナさんの仲間たち……。君たちは……どうするかね……?

 アイナさんと共に生きて、世界を滅ぼすか……?

 アイナさんと敵対して、世界を守るか……?

 ふははっ、どちらにしても楽しいことになりそうだ――」



 そこまで聞いて、私の頭には血が上ってしまった。

 そして思いがけず――



「あなたはもう黙れ……ッ!!

 アルケミカ・クラッグバーストッ!!」



 ヒュパアアアアアアアァンッ!!!!!!



 私はゼリルベインに、感情のままに止めを刺してしまった。

 ……最後はあっけない、そんな幕切れ。



 そして後に残ったのは、いつもと違うアルケミカ・クラッグバーストの感触。

 地面に付けられた魔法の痕。


 物理的に穿たれた穴……では無く、問答無用で消し去ったような穴……が、深く深く空いてしまっている。



「な、何これ……!?

 これって私の力……? まさか、虚無の力――」



 今まで忌み嫌っていた力が、いつの間にか自分の魔法に取り込まれている。



 ……嫌だ。

 私はこんな力、欲しくは無い。



 こんな力を使って、したいことなんて何も無い――



 ……いや、世界を滅ぼすのか。



 そうだ、これは世界をホロボすチカら。



 コのチカら……。

 セカいヲ、ほロボす、たメノ、モの――

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― 新着の感想 ―
[一言] ア)た、助けてー!英知さーん! 英)はい、中二病御用達の封印眼帯~
[一言] 最後にとんでもない置き土産していきやがった!
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