782.続行
私たちが光のキラキラに飛び込むと、来たときと同じような浮遊感が襲って来た。
でも、これは一瞬。
このあときっと、私たちはみんなの出迎えを受けることになるだろう。
そしてみんなで、ゼリルベインを倒したことを喜び合うのだ。
……そう思っていた。
……そう疑わなかった。
しかし残念ながら、そうはいかなかったのだ……。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「うおおぉおぉっ!!」
「何としてでも守りきれ!!」
「アイナ様たちが戻ってくるまでは――ッ!!」
目を閉じていた私に、荒々しい声が聞こえてきた。
剣を切り結ぶ音、魔法の音までもが一緒に聞こえてくる。
「――えっ!?」
私は慌てて目を開けた。
そこは、『神々の空』への門がある場所。
門を支えるセミラミスさんとヴィオラさん、若いマリサさんはここにいる。
そこまでは一緒。
しかしそれ以外の人は、『何か』と戦っているようだった。
「アイナ様……っ!!」
「アイナ! おせーぞっ!!」
「アイナさんよぅ、待っていたんだねぇ!!」
「え? え? ただいま戻りました――
……けど!? 一体、何が起きているんですか!?」
三人は私たちの姿を確認すると、門を支えるのを止めた。
その瞬間、大きくそびえていた光の柱は立ちどころに無くなってしまう。
ようやく解放された三人は汗を流しながら、かなり息を荒くしていた。
「ついさっき……、突然ここに、侵入者が現れて……!
それで……、騎士団と、魔法師団のみなさんが、応戦をしてくれていまして……」
「侵入者……!
アイナ様、私は支援に向かいます!!」
「ん、僕も行くよ!
アイナちゃんとエミリアちゃんは、ちょっと話を聞いておいてね!
その間に、僕が倒しちゃうけど!!」
ジェラードが言っている間に、ルークは早々に戦いの場へと向かって行った。
それを見て、ジェラードも慌てて後を追い掛けていく。
「それにしても、ここって厳重に守られていましたよね……?
敵は何人なんですか?」
「俺は一人しか見てねーぞ……?
でもここから動けなかったし、正しいかと言われると、ちょっと分からないなぁ……」
「そ、そうですよね……。
でも、門が狙われなくて、本当に良かったです……」
「そいつはどうかねぇ。
私にゃ、敢えて攻撃しなかったようにも思えるんだよねぇ。
……うん? どうしたんだい、エミリアよぅ」
「え? いやぁ……。
やっぱり、若いマリサおばーちゃんは新鮮だなぁ……って」
「ふっふっふっ、ぴちぴちで新鮮だろ!?」
「いえ、そう言う意味では無かったんですけど……」
「おっと、そうそう。
アイナさんよぅ、私も戦いに参加したいところなんだが……。
そろそろミリサたちもヤバイみたいでねぇ。
申し訳ないけど、元の姿に戻らせてもらうよ」
「分かりました。
すいません、それなりには急いで帰って来たんですけど……」
「それで、アイナ様……。
その、ゼリルベインは――」
「はい、倒してきました!!
だから侵入者を退治したら、みんなでお祝いをしましょうね!!」
「本当ですか……!? やった……!!」
「おー! 倒したんだな!!」
「ひっひっひっ……。さすが私が見込んだ御人だねぇ……」
……あ、マリサさんが元に戻ってる。
戻るときは一瞬なんだ。特に光とか、放たないんだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「――ルーク、大丈夫!?」
「アイナ様!!
申し訳ございません、侵入者を見失ってしまって……。
今は気配を探っているところです!!」
「え……?
ルークに時間を掛けて、そんなことをやらせるほどの実力者なの……?」
「僕も頑張っているんだけどね、全然気配が分からないんだよ……。
それよりもさ、怪我人が多いんだ。アイナちゃん、治してあげられないかな?」
ジェラードの声にまわりを見てみれば、確かにかなりの人数が倒れてしまっている。
そんなことにすら気付かないなんて、私もダメダメだ。
「そうですね、それじゃ一気に――
……アルケミカ・ポーションレインっ!!」
私の声と共に、癒しの雨が降り注ぐ。
範囲的には全体が入っているし、とりあえずはこれで大丈夫だろう。
「亡くなった方は……、いなさそうなのかな?」
「はい。ただそれも、恐らくはわざとでしょう……」
こんなところまで侵入する実力があるのに、誰も殺していないのだ。
それにセミラミスさんたちを攻撃していない時点で、やはり何かの意図を感じてしまう……。
「――ふむ。
アイナさんの魔法は、やはり素晴らしいものだね」
不意に、そんな声がした。
私たちの真後ろ――
慌てて振り返ると、そこには見慣れない青年が一人いた。
しかし、どこか見慣れた雰囲気も感じてしまう。
「アイナさん……。
何だか、おかしくありませんか……?」
エミリアさんがこっそりと言ってくる。
そう言えば何かがおかしいような気もするけど――
……いや、まずはこの青年の正体だ。
「あなたは一体、何者ですか!?
何で私たちを攻撃するんですか!?」
「ふふっ。
私としても、まさかこんな場所に出て来るとは思わなかったものでね……。
さっきまで戦っていたのに、まだ気付いてくれないのかね?
確かに、多少は若くなってしまっているが――」
「……え?」
その言葉で特定できるのは、一人しかいない。
『神々の空』で倒したゼリルベイン――
……そう言われてみれば、確かに彼の面影を残している……!?
「まだ生きていたのか……!!」
「しぶといねぇ………!!」
ルークとジェラードが、私とエミリアさんの前に割って入る。
さらに、怪我から治った騎士や魔法使いたちも――
……いや、騎士や魔法使いたちの参戦は無かった。
「あ、ああぁっ!!
アイナさん、みんな止まっちゃっていますよ!!」
「えぇっ!?」
改めて周囲を見てみれば、私たち四人と、ゼリルベイン以外は『止まって』しまっている。
それこそ、まるで時間が止まっているかように――
……当然それは、セミラミスさんたちも同様だった。
「ふふふっ。今回はアイナさんに用事があったものでね。
しかし安心しておくれ。全員、殺してはいないから。
細やかながら、アイナさんへの配慮だよ」
「そ、それはどうも……。
それよりあなたは、何で生きているんですか!?
私のあの攻撃を受けて――」
「ああ、あの魔法は見事だった。
不完全ながら、以前戦った……何と言ったっけかな? 私を良いように扱ってくれた魔法使い……。
彼女の魔法と、同じものを感じたよ」
その魔法使いとは、もちろんシェリルさんのことだ。
彼女と比較してくれるなんて、かなり光栄ではあるが――
「それよりも!!」
「ああ、失礼。
確かに私は死んだ。しかし『死』は『滅び』では無い。
つまり――」
「つまり……?」
「忌々しいことではあるが、私は人間に転生を果たしたのだ!
故に、まだ戦える……。
これが最終戦だ! もうしばらくだけ、付き合ってくれたまえ!!」
「――ッ!!」
……あんなに念を入れたのに。
念を入れている間に、まさか転生をされてしまうだなんて……。
やっぱりラストバトルなんて言うものは、どう足掻いても素直にはいってくれないものなんだね……。




