781.決着
隙を突いて放たれたルークの必殺技は、ゼリルベインの身体の左半分を吹き飛ばした。
恐らくはアルケミカ・アニヒレーションで崩壊中だったからこそ、そこまで効いたと思うんだけど――
「……くっ!?
私としたことが……っ!!」
それでもなお、意識があるのはさすがだ。
ゼリルベインは何とかバランスを取っているが、私の攻撃を受けた右腕からは何かを吹き出し続けている。
……多分、神力。
神力だけで顕現していたゼリルベインの身体を崩壊させて、その形を無きものにさせていく。
理屈の上で言えば、吹き出した神力を集めてもゼリルベインにはならないはず……!
「――私たちの勝ち、です!!」
私は高らかに勝利を宣言した。
あとは不意の攻撃に備えて、ある程度の時間をやり過ごしてしまえば問題ない。
防御にまわるのであれば、四人もいるこちらの方が有利なのだ。
「こんな傷ごとき――
……いや、これは無理か……。
ふははっ! まさか錬金術師風情が、このレベルの魔法を使うことが出来るとは……!」
予想に反して、ゼリルベインの表情は明るくなっていった。
自身に付けられた傷を、楽しんでいるようにすら見えてしまう。
しかしゼリルベインがどんな反応を示そうが、もはや私たちの勝利は揺るぎない。
……最悪なことが起きたとしても、きっと相打ちまでで収まるだろう。
「ルーク! ジェラードさん!
あとは守りに徹しましょう!!」
「かしこまりました!」
「おっけー!!」
「……ふっ、賢明な判断だ。
おめでとう!! 君たちは神に勝利したのだ!!」
ゼリルベインはそう言いながら、両手を上げるようにしながら祝辞を述べた。
ただ、身体の左側はもう無いし、右腕も途中でもげているんだけど……。
「グリゼルダの仇。
神様たちの仇。
アドラルーン様の――そして、あなたが生み出した転生者たちの仇。
これで、討たせて頂きました!!」
「うむ、実にめでたい……!
くははっ、本当におめでとう……! 君には、新たな可能性を示してあげよう……!!」
「――っ!?」
不意に、ゼリルベインが不穏な言葉を発した。
それを聞いて、ルークとジェラードが割って入ってくる。
「この期に及んで、まだ何かをするつもりですか?」
「僕のアイナちゃんには、手出しはさせないよ~?」
「おっと、君たちは酷いな。こんな私に、まだ剣を向けるのかね……。
くくくっ、まぁ良い……。それではこれで最後だ、悪あがきをさせてもらうぞッ!!」
ゼリルベインはそう言うと、突然強大な光に包まれた。
まさか――……とは思っていたが、どう見ても自爆技のようだ。
「みんな、エミリアさんのところに集まって!!」
「はい!!」
「うん!!」
ゼリルベインの様子を確認しながら、私たちは思うように動けないエミリアさんの元に集まった。
そしてゼリルベインが光を解放する瞬間――
「――アルケミカ・オブスタクルッ!!!!」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
目も眩むほどの光が1分も迸ったあと、その攻撃はようやく止んでくれた。
最後の最後で出した、守りの盾。
オリハルコン製の、ルークの『光の祝福』とジェラードの『影』を両方『共有』した、大きな大きな最強の盾だ。
「……ぷはぁ」
一息ついたあと、ルークが恐る恐る盾の向こう側を覗き込んだ。
「ゼリルベインは……、いないようですね……」
その言葉に、私は早々に盾を引っ込める。
視界は一瞬で開けて、私たちの他には誰もいないことが確認できた。
「やっと……、勝った……?
これで、もう本当に……勝った……?」
「……はい! 私たちの勝利です!!
アイナ様、やりましたよ!!」
「やったね!!
これで僕たちにも、ようやく平和が訪れるよーっ!!」
私はルークとジェラードと一緒に喜んだ。
しかし次の瞬間、エミリアさんのことももちろん思い出す。
「エミリアさん、やりましたよ!!」
「はいっ! みなさん、お疲れ様でした!!
……ちなみに私、戦いが終わっても……、魔法を維持しないといけないんです……」
「あ、そうですね……。
一旦は解いても大丈夫そうですけど、それだと出口まで移動できませんからね……」
出口の位置を確認してみれば、いつの間にやらずいぶんと離れてしまっていた。
エミリアさんに作ってもらっている地面が無くなれば、出口まで移動するのは難しいだろう。
「アイナ様、これからどうしますか?」
「一応、鑑定を掛けていっても良いかな。
ゼリルベインが最後に何かを企んでいたみたいだったし……。変な罠が無いか、調べておきたいの」
ここら辺は、ゲームで養った用心深さになる。
ラスボスを倒したと見せかけて、一緒に私たちの世界に戻ってしまう……とか、冗談じゃないからね。
最後の詰めを誤っただけで、取り返しの付かない被害が出てしまう。
早く戻らないとミリサさんたちの命が危ないかもしれないけど、ここはしっかりと確認させてもらおう。
「かしこまりました。
何かお手伝い出来ることはありますか?」
「一人だけ離れるのはやっぱり怖いから……。
みんなで一緒に、見てもらっても良いかな?」
「それじゃ、エミリアちゃんもだね!」
「はい、油断は禁物ですので。
エミリアさん、ゆっくり行きますよー」
「はぁい♪」
そんなこんなで、私たちは四人で辺りを調べることにした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
――結論。
何も無かった!!
まずは四人の身体を調べてみて、それから辺りを一周調べてみて。
そして出口の下に移動してから、再び四人の身体を調べ直してみて。
ここまでやって何も見つからないのだから、きっと罠は何も無いのだろう。
「問題は無さそうですね。
……よっしゃー、勝ったぞーっ!!!!」
「はい! あとは日常に戻るだけです!」
「はぁ……。
僕はいまいち活躍できなかったけど、それでも平和は嬉しいや……。
それじゃ、そろそろ戻ろー♪」
「そうですね!
えっと、エミリアさんは……魔法を維持したまま、出口まで行けますか?」
「アイナさん! 連れて行ってください♪」
エミリアさんはまた、無茶なことを言い始めた。
まったく、どこまでもお姫様気分なのか。うん、可愛いけど!
「分かりました、それじゃ……。
アルケミカ・オブスタクル!」
私が魔法を使うと、大きな鉄の盾が上向きに現れた。
もう何度か使っていくと、盾は階段のように組み上がっていく。
「うわぁ、器用な真似をするね……」
「以前、ジェラードさんが足場に使えそう……って言っていたじゃないですか。
その応用ですよー」
「そう言えばそうだったね。
あはは、お役に立てて光栄だよ♪」
私たちは四人で慎重に、盾の階段を上っていった。
そして出口まで辿り着いて――
念のため、かんてーっ
……何も無し!!
「それじゃ、帰りましょう。
私たちの世界へ!!」
「はいっ!!」
「はーいっ!!」
「うんっ!!」
――こうして、私たちの『神々の空』での戦いは終わりを告げた。
あとは戻って、この喜びをみんなと分かち合うのだ……!!




