780.直撃
「アルケミカ・クラッグバーストッ!!」
ズガアアアアアアアァンッ!!!!!!
「効かぬわっ!!」
私の魔法は引き続き、ゼリルベインには受け止められてしまう。
発動すれば一瞬後に当たる魔法にも関わらず、何と言う反応速度をしているのか。
「隙あり!」
「ふんっ!!」
ルークの攻撃も、残念ながら容易く受け止められてしまう。
「僕も続くよっ!!」
ザシュッ! ザシュシュシュッ!!
そんな中、ジェラードの攻撃だけはきっちりスルーされている。
唯一ダメージを与えてはいるものの、ジェラードの表情は微妙な感じだ。
……ジェラードって、何となく残念なところが結構あるんだよね。
私がしんどいときとか、助けてもらいたいときには高確率で不在にしていたり……。
でも、今回は一緒に戦ってくれている。
攻撃をスルーされたりしていて……やっぱりちょっと、可哀想な感じはするけど……。
とは言っても、貴重なダメージソースになっているのだから、今は一番活躍しているのかもしれない。
致命傷にはなっていないものの、それでもノーダメージよりはよっぽどマシなのだ。
以上を踏まえると、私は今、ルークのフォローをするべきだろうか。
私はジェラードの攻撃力を上げる手段を持っていないのだから、何の手助けも出来ない。
だから、ルークの攻撃を当てるフォローを――
……でもルークが近接してるときって、アルケミカ・クラッグバーストは撃ちにくいんだよね。
狙いが少しでも逸れてしまえば、ルークに当たる可能性だって大きいわけだし……。
……なら、ここは盾かな……。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
案外、機会が訪れるのは少ないのかもしれない。
隙が出来るとすれば、攻撃相手を切り替えるときくらい……?
ゼリルベインはジェラードよりも、ルークをずっと意識しているわけだから――
……ルークを吹き飛ばして、ジェラードに切り替えるとき。
それなら、その虚を突いてみれば……?
「うおおぉおぉっ!!」
「君の攻撃は見切ったよ。
それでは反撃だ」
ルークの攻撃を受け止め、ゼリルベインは剛腕をルークに叩き付けようとする。
いつもならルークはそれを剣で受け止めて、そのまま吹き飛ばされてしまうところだけど――
「アルケミカ・オブスタクルッ!!」
ガガガッ!!
「――ッ!?」
私の声と共に、ゼリルベインとルークの間に黒い盾が現れた。
これはジェラードの『影』の力を『共有』したもの。
ダメ元の賭けで試したけど、私の魔法を通せば『影』の力は使うことが出来るのか。
黒い盾はゼリルベインの剛腕を完全に受け止め、そして大きな隙を作った。
当然、吹き飛ばされなかったルークがこれを見逃すはずも無い。
「アイナ様、見事です!
――喰らえ、『重爆響崩撃』ッ!!!!」
ズゴオォオォオォオオオォォオオオンッ!!!!!!!!
「ぬぉ!? うおぉおおおぉおっ!!!!」
轟音と共に、ルークの必殺技が炸裂した。
その攻撃はゼリルベインの頭上から直下へと撃ち抜ける。
地面はやはり崩れも砕けもしないが、逆に言えば、全ての衝撃がゼリルベインに叩き込まれたことになる。
突然の展開に、今回ばかりはその攻撃を防げなかったようだ。
ゼリルベインは静かに地面に崩れ落ちた。
「やった!?」
「……いえ、まだです!」
「――……ぬぅ、見事だ……。
なるほど、これが仲間の……、連携の力……と言うものか……」
「えぇ……!?
あれを食らっても、起き上がれるの……!?」
まさにクリーンヒットだったにも関わらず、ゼリルベインは早々に身体を起こして立ち上がった。
その動きは緩やかだったため、ルークの追撃が数回、ゼリルベインに当てられる。
「……ふむ。実に良い……。
ふふふ、実に良いぞ……」
ゼリルベインはそう言いながら、ルークの攻撃を避け始めた。
ジェラードもフォローに入るが、その攻撃も避けるようになっていた。
……もしかして、何かを狙っている?
ルークの必殺技を以ってしても、未だ倒すには至っていない。
必殺技には回数制限があるから、残りを使ったとしても倒れるかどうかは分からない。
そう考えると、私はとても不安になってしまった。
それならダメ元で、この辺りで切り札を試してみることにする……?
「――逃がさんよ」
「うわっ!?」
そんな声がした。
見れば、ゼリルベインがジェラードの足を掴み、軽く振り回しているところだった。
「ジェラードさんっ!!」
アルケミカ・クラッグバーストを――
……とは思ったものの、狙いが逸れるのが怖いし、あとはジェラードを盾にされるのも怖かった。
ゼリルベインはそのまま、ジェラードをルークの方に投げ付けた。
ルークは残念ながら受けざるを得ず、二人は折り重なるように地面に倒されてしまう。
「さぁ、まずは君たちを消滅させてあげよう」
ゼリルベインは右腕を大きく掲げた。
あれは以前の戦いで見せた、消滅の攻撃――
……ご丁寧に、ルークたちはゼリルベインの身体に隠れた場所にいた。
私の盾に邪魔をされないよう、ゼリルベインがわざと隠しているのだろう。
残念ながら、私の盾は見えない場所には出せない。
つまり、図星と言うこと……。
しかし『光の加護』を持っているルークはともかく、ジェラードはかなり危ない。
だから、私の取る選択肢は――
「うわぁああああああっ!!!!」
アイテムボックスからナイフを取り出して、ゼリルベインに向かっていく。
アルケミカ・クラッグバーストでは誤射が怖い。あるいはいつも通り、防がれてしまうかもしれない。
「――うん?
気でも触れたかね? アイナさん自ら突っ込んで来るとは……。
よろしい、ならば君から消してあげよう」
そう言うと、ゼリルベインは私の方に振り返った。
そしてそのまま右腕を振り下ろす――
「バニッシュ・フェイトッ!!!!」
ゼリルベインのまわりに、キラキラとした光が取り巻いた。
それを共に、ゼリルベインの右腕は虚しく空を切る。
「――ッ!? 私の術を消しただと!?
しかしそんなナイフで、何をするつもりかね!?」
私はナイフを横に振りかぶった。
ただの属性ナイフ……と言うことは、既にゼリルベインには看破されているだろう。
もちろん、こんな攻撃を防ぐためには神力を使わないはず。
しかし、それこそが油断大敵なのだ。
「――アルケミカ・アニヒレーションッ!!!!」
チッ
私の奥の手。
単純な構造物の境界を崩壊させる、使いどころがほとんど無い錬金魔法。
ゼリルベインの油断を突いて、何とか腕にかすり傷を負わせることが出来た。
ここからは純粋な賭け――
「……ッ!?
な、何だ……!? 貴様、一体何をした……!?」
ゼリルベインの余裕の表情は一瞬で消え、その声には焦りが混ざった。
距離を取って観察すると、ゼリルベインの腕が――
……もげた。
「アイナ様! さすがです!!」
「決まったね!? よし、あとは僕たちに任せて!!」
ルークとジェラードはようやく立ち上がり、間髪入れずにゼリルベインを攻め立てる。
そして――
「――『重爆響崩撃』ッ!!!!」
ズゴオォオォオォオオオォォオオオンッ!!!!!!!!
ルークの必殺技が、再びゼリルベインに直撃していった。




