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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第3章 鉱山都市ミラエルツ
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78.帰ってきた優男

「すいません、何かいろいろと……」


「いやぁ、アイナさんが遠くの存在になった気がしました……」


 魔法関連のお店を出ると、まずはそんな話から始まった。

 『安寧の魔石(小)』が金貨10000枚。『迷踏』の効果も付いてるからそこはマイナスだろうけど、それにしても予想外に何桁かお高いものだったのだ。


「あ、あのー。いまさらなんですけど『安寧の魔石』、どうしましょうね……」


「まさかあんなに高価なものとは……。でもアイナさんに差し上げたものだし、私はそのままで構いませんよ」


 エミリアさん、貴女は女神か!


「私も大丈夫です。アイナ様が望むものでしたらそのままどうぞ」


 ルーク、君は聖人か!


「じゃ、じゃぁありがたく……」


 うーむ、何と素敵なパーティに恵まれたことか。

 その内、何かあったら今まで考えていた以上の恩返しをしよう、うん。




「――さて、今日はこのあとは何をします? 私は特に行きたいところはないですけど」


「ちなみにアイナ様、お世話になった方に挨拶まわりはするんですか?」


「うーん? ミラエルツは長くいた割に、挨拶する人があんまりいないんだよね……。

 鉱山のオズワルドさんとガッシュさん、武器屋のアドルフさんくらい?」


「アイナさん、コンラッドさんは?」


「そこはかなり微妙なラインなんですよね。何だか依頼だけで関係した感じだし、お世話になった……のかなぁ?」


「そ、そうですね。正直なところ、あまり近付きたくないかもしれませんね」


 何といっても性格を変えちゃったからね。

 おかしな流れでコンラッドさんが薬を飲んでしまった部分はあるんだけど、それでもどこか申し訳ない気持ちもあるわけで。


「……うん、やっぱりコンラッドさんへの挨拶は無し、で」


「はい、そうですね……」


 他には冒険者ギルドにもかなりお世話になったけど、特に誰とも仲良くなったわけでもないんだよなぁ。

 クレントスのケアリーさんとは話をよくしたけど、ミラエルツの受付の娘はとても事務的だったし。


 ああ、そういえばケアリーさんは元気かな。ヴィクトリアにいじめられてないかな。


「――唐突に思ったんだけど、ヴィクトリアにこそ『性格変更ポーション』を飲ませたい」


「は、はは……。それは良いですね」


 ルークが珍しく物騒な物言いに同意する。彼も彼なりにいろいろされていたみたいだし、それは仕方ないよね。うん、ヴィクトリアの自業自得だ。


「ヴィクトリアさんって、どなたですか?」


「あ、エミリアさんはご存知ないですよね。クレントスを治める貴族のお嬢様なんですけど――いやもう、散々ちょっかいを出されたんですよ」


「はぁ、大変だったんですね」


 大変だったし、殺されかけたしね。というか完全に殺しに掛かってたからね。

 ああ、いますぐクレントスに戻ってやり返したい! でも戻るのは面倒だからいいか。……よし、それくらいの存在になってるぞ、よしよし。


「えぇっと、話を戻すと……挨拶まわりはそれくらいだから、明日でも良いかなって」


「それでは今日はのんびりぶらぶらとしますか? 適当なお店でいろいろつまんで行きましょう」


「ルークもそれで良い?」


「はい、大丈夫です。明後日からはまた旅路になりますし、英気を養っておきましょう」


「りょーかい! それじゃ今日はのんびりぶらぶらしましょー」


「それじゃアイナさん、こっちですよ! 良いステーキ屋さんを見つけたんです!」


「さっそくお肉ですか!」




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「胃がもたれます」


「私は大丈夫です!」


「知ってます」


 時間は夜、場所はいつもの宿屋の食堂。

 昼前からエミリアさんの主導で食べ回りツアーが始まり、何だかんだでいろいろと食べてしまった。


 私は小食だからあまり食べられなかったけど、ルークはなかなか良い食べっぷりを発揮していた。

 エミリアさんはいわずもがな。


「あれだけ食べて、まだ夕飯も食べられるとは……」


 そういう私の前には野菜ジュースしか置かれていない。

 エミリアさんとルークはいつも通りだ。


「おかげさまでとても楽しかったです! ルークさんも意外といけるクチだったので、それはちょっと驚きました」


「ははは、普段身体を使ってますからね。いざとなればこれくらいは」


 『いざ』とは。




「――さてと、今日は食事が終わったら解散で良いですかね?

 それで明日は挨拶まわりと最後の準備。明後日は出発――っと」


「はい」

「はぁい」


「それにしてもジェラードさんはまだ戻ってきませんねぇ……」


「心配してくれてたんだ? ありがとうアイナちゃん!」


「お?」


 唐突に話し掛けられ、声の方を振り向けばジェラードが立っていた。


「ああ、お帰りなさい! そりゃ心配もしますって!」


「お帰りなさーい」

「ご無事でしたか」


 エミリアさんとルークも口々に挨拶をしている。


「ああうん、ごめんね。あ、ここ座らせてもらうよ」


 そう言いながらジェラードは空いている席に座った。

 前回言った通り、ちゃんと気兼ねしなくなったね。これは良いことだ。


「――それで、ガルーナ村では何かあったんですか?」


「うん、あったというか、いたというか。あ、先に注文させてもらうね」


 ジェラードは夕食の注文をしてから一息ついて、そして話を続けた。


「えーっとね、ガルーナ村に行ったはいいんだけどさ、ちょっと慌ただしくてね」


「……慌ただしい?」


 ガルルンの量産体制が壮大なものになっていたとか、野菜の栽培が神憑り的なことになっていたとか――


「うん、王都からかなりの数の兵士が派遣されていてね。村人はその世話に必死だったよ」


「へ……?」


 ガルルンでも野菜でも無かった模様。……く、残念。

 それにしても――


「王都から、兵士……ですか? 何でまた?」


「その辺りの情報を集めるために少し滞在していたんだ。アイナちゃんたちがミラエルツを発つのを逆算してね」


「なるほど、明日一日は予備日みたいな感じでしたか」


「そうそう。ちょっと連絡手段が無かったから伝えられなかったけど、ぎりぎりまで残ろうかと思って」


「それにしても、何で王都から兵士が?」


「うん、何でもガルーナ村の疫病に関して、大聖堂の聖職者から報告があったみたいなんだ」


「あ、それは私がガルーナ村まで一緒にいた人たちですね」


 エミリアさんがメンバーとして参加していた聖職者の一行。

 そういえばエミリアさんは残していってくれたけど、王都に戻って報告をあげるって言ってたよね。


「もしかして疫病の調査ですか? もう何も残っていなかったと思うんですけど……」


「いや、疫病では無くてね。その報告の中にあったものに、王様が反応したらしいんだ」


「へぇ? 疫病以外で王様が反応するもの……? 何だろう?」


「アイナちゃんとルーク君は知っていると思うんだけど、あるとき村の子供が大怪我をしたそうなんだ。

 村人がその原因を調べに行ったところ、そこには何か怪しい宝石があったそうでね。

 でもそのあと、聖職者たちが探しても何も見つからなかったんだって。王様はこの怪しい宝石を、とても気にしていたそうなんだ」


「……それって、アイナ様」


「ああ、うん……」


 怪しい宝石――つまり『ダンジョン・コア<疫病の迷宮>』の話だ。

 村の子供のジョージ君が怪我をした次の日、私とルークは村人と一緒にその場所を調べに行った。


 そこで『ダンジョン・コア<疫病の迷宮>』を見つけたものの、ルークは怪我を負い、私は疫病に侵されてしまった。

 『ダンジョン・コア<疫病の迷宮>』は何とか私のアイテムボックスに叩き込んで事なきを得たんだけど、他の人から見ればその時点で所在不明ということになったんだよね。

 そのあと、私が死線を彷徨っている間に、聖職者たちはルークと村人と一緒にその場所を再度調べて結局見つけられなかった――という流れだ。


「アイナちゃんとルーク君との話もしっかり出てきたよ。ふふ、大活躍だったね♪」


「本当に死に掛けてましたけどね、そのときは……」


「もちろんエミリアちゃんの献身的な看病の話も伝わっていたよ♪」


「あ、あれは当然のことをしただけですから! そんなのまで残さないで良いのにっ!」


「……それでジェラードさん、何でその怪しい宝石を探しているかっていうのは分かりました?」


「うーん、そこまで話は伝わってなかったみたいだったよ。

 それと気になるだろうから先に言っておくけど、アイナちゃんとルーク君にも話は聞きたいみたいだったけど、何か優先順位は高くないみたいだったかな」


「そうなんですか? 多分、一番近くで見ていたんですけどね……?」


「目撃情報なら村人からもあったからね。既に旅立った人たちを探すのも骨が折れるだろうし。

 もちろん僕がアイナちゃんの仲間っていうことは伏せておいたから安心してね」


「言っちゃうといろいろと面倒くさそうですしね。ありがとうございます」


「いえいえ。それにしてもガルーナ村には結構いたのに、情報がそれくらいしか取れなかったのが悔しいなぁ」


「みんなが知らないなら仕方無いですよ。……あ、そういえばガルルンは?」


「そっちは十個くらいできていたよ。そのうちのひとつがさぁ……あ、いやなんでもない!」


「えっ、そこまで言っておいて!?」


「ははは、受け取りを楽しみにしておくんだね♪ それと村長さんも困ってたよ。『誰の手も空かなくてアイナ様に届けられない』って」


「……ああ、ランドンさんの困った顔が思い浮かぶ……」


「そういえばアイナ様、ガルルン……の受け取りのためにミラエルツに残らなくても大丈夫なんですか?」


「うん。実は冒険者ギルドで所在照会の登録――この宿屋にいますよって登録をしてたんだけどね。

 ミラエルツを発つときに、荷物を王都に送付してもらうように依頼を変えておかないといけないかな」


「アイナさん、いつの間にそんなことを」


「ふふふ。私もやるときはやる人ですよ。

 というわけでガルルンの受け取りの件は大丈夫~」


「分かりました。では明日は冒険者ギルドと、挨拶まわりですね」


「おや? アイナちゃん、明日は挨拶まわりかい?」


「はい、オズワルドさんとガッシュさんのところにも行きますよ。というか、それ以外だとあと一か所ですけど」


「へぇ、それは良いね。僕も付いて行って良いかな?」


「ジェラードさんは鉱山で働いてましたもんね。分かりました、一緒に行きましょう」


「ありがとう、ご一緒させてもらうよ」




 その後は歓談して、ちょっと遅くなった頃に解散。

 ジェラードとはしばらく振りということもあって、話をいろいろと咲かせてしまった。


 しかしそれにしても――この国の王様が『怪しい宝石』に興味を持つなんて?

 もしかして正体を知っていたり……するのかな? 私が持っていることは、私とルークしか知らないことではあるんだけど……。

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