771.6週間経過
さらに1週間が経った。
その間に『アルケミカ・オブスタクル』の開発も進み、新たなる段階を迎えていた。
セミラミスさんに教えてもらった、仲間の力を『共有』すると言う機能――
……これを何とか、魔法に組み込むことが出来たのだ。
試しにジェラードの『影』の力を取り込んでみると、物理攻撃の耐性を見事に獲得することが出来た。
ただ、受け止める攻撃に何かしらの属性が乗っていると、元の防御力がものを言うようになってしまう。
例えば無属性の場合、薄い鉄の盾であっても簡単に防ぐことが出来る。
しかし少しでも属性が乗っていれば、ベースとなる盾の防御力が大きく影響する……と言う具合だ。
ルークの『光の祝福』の力を取り込んでも、基本的には同じことになるだろう。
虚無属性の攻撃は簡単に防げるけど、他の要素が入っていれば、やっぱりベースの盾に依存する……みたいな感じで。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
昼食が終わったあと、エミリアさんが話し掛けてきた。
「――アイナさん、思ったんですけど」
「え? どうしたんですか、急に」
「ルークさんとジェラードさんの力を、アイナさんの盾に取り込んでいたじゃないですか」
「はぁ、試しに……ですけど。
でも使うたびに、その人には近くにいてもらう必要がありますよ?」
力を魔法自体に組み込む……とは少し違うのだ。
どちらかと言えば、盾を出すたびにその力を借りて混ぜ込む……って感じ。
「なるほど、それはそれとして――
……私の力を取り込む件、なんですけど!」
「ああ。良く食べる盾、ですか?」
「むむっ! そんな盾が出来るわけないじゃないですか!
そもそもどんな盾ですか、それ!?」
「あはは……。
例えば『暴食の炎』の効果を付けて、触れている間はずっと魔力を奪ってくれる……とか」
「思わぬ前向きな答えっ!!
それ、凄く良いですね!!」
「あはは、そうですねー。
でも残念ながら、魔法の効果は乗せられないんですよ」
「えぇー……。
魔法の効果が乗せられたら、私と相性がとっても良い盾だったのに~……」
「まったくですね……。
そっちは時間があるときにでも、ちょっと研究してみますね。
ゼリルベインとの戦いは防御が出来れば良いので、戦いが終わった後になりますけど」
「えへへ、私を護ってくれる盾ですもんね♪」
「はい!
それで、魔法は一旦完成したから……あとは使い慣れていくだけ、かな?」
「なるほど……!
あ、それでですね!!」
「はい?」
「それなら私のユニークスキル、『魔法発動点無視』は共有できないのかなーって思いまして!」
「おぉ……?」
それは思い掛けない提案だ。
でもそれ、ちょっとイメージが湧かないなぁ……。
「ちょっと試してみませんか?
さっき思い付いて、それからずっと勉強に集中が出来ないんです!」
「むぅ、それは困りましたね……。
それじゃ、外で試してみましょうか」
「はーいっ!」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
お屋敷の裏庭に出てから、ひとまずは『魔法発動点無視』を共有した盾を出してみる。
「――アルケミカ・オブスタクルッ!!」
ガガガッ!!
「おぉーっ! これが私の力を持った盾……、なんですね!!」
「そうですね!
……えっと、それで?」
「え?」
「え?
……いや。それで、どう使うのかなぁ……って」
ひとまず盾は出したものの、『魔法発動点無視』の使い方が分からない。
何をどうやって試してみれば良いのやら……。
「その盾を持ったら、『魔法発動点無視』が使えるようになったりして……?」
「おぉー。それが出来たら面白いですね!」
「はい、試してみましょう!」
エミリアさんの言葉に、私は宙に出した盾に触れてみる。
私が出した盾は空中に固定されるから、普通に持つことが出来ないんだよね。
「それじゃ、いきますよー。
アクア・ブラスト!!」
私が魔法を唱えると、手元から普通に水の玉が飛び出した。
「……あれ?」
「ふむ……?
と言うか、私はそもそも『魔法発動点無視』を使う感覚を知らないんですけど……」
「魔法を出したいところに、意識を向ければ大丈夫ですよ!」
出したいところに、意識を……?
とりあえず近くの上空を意識してみて、そして改めて魔法を唱えてみる。
しかし残念ながら、今回は魔法自体に失敗してしまった。
「……ありゃ。
そもそも魔法が形を成さなくなってしまいました……。
多分これ、私は使えるようになっていませんね」
「えぇー、そんなーっ」
厳しい現実に、エミリアさんは落胆してしまう。
私が『魔法発動点無視』を使えるようになったら、それこそ戦略はかなり広がるとは思ったんだけど……。
「きっと、盾自体の能力になっているんでしょうね。
そうじゃないと、盾に触っている人が全員、ルークの『光の祝福』とかを使えることになっちゃいますし」
「なるほど、確かに……。
なかなか上手くは出来ていないものですね~……」
「でも、盾自体に何らかの能力を持たせれば……?
そうすれば、『魔法発動点無視』だって活きてくるかも……?」
「おぉ……!
例えば、攻撃をしたら雷魔法のカウンターが発生する……とか!」
「む、それは便利ですね!
でもそうしたら――」
……ちなみに『魔法発動点無視』の効果はこちら。
----------------------------------------
【魔法発動点無視】
本来の発動点を無視して、視界内の任意の場所を発動点として扱う
----------------------------------------
もしかして、視界内の敵味方全てがカウンターの対象になる……?
いやいや、盾には『視界』が無いから、そもそもカウンターは発生しなくなる……?
エミリアさんも私と同じことを考えていたようで、微妙な表情を浮かべてきた。
「……いまいち、でしょうか……」
「え? あー……うん、ちょっと想像が付きませんね……」
「ですよね……」
「まぁ私も応用が出来ないか、何か考えておきますよ。
ところでエミリアさん、勉強の進捗ってどんな感じなんですか?」
「あ、はい。
そろそろ実際に使ってみよう……って言うことで、セミラミス様に明日見てもらう予定なんです。
『神々の空』の門を開く魔法も、みんなで集まって練習をするそうですよ」
「ついにそこまで来ましたか……!
それじゃそっちは頑張ってもらうとして、残りの準備も進めていかないとなぁ……」
「そうですね! 頑張りましょう♪」
……戦いのときは、着実に近付いてきている。
しかし今のところ、準備は良い感じで進めることが出来ているのだ。
ゼリルベインが動き出す前に、どうにか全部、終われば良いんだけど……。




