770.5週間経過
さらに1週間が経った。
『水の迷宮』から戻ってきて、その後はまた前と同じ日々を繰り返している。
日常のことをこなしながら、魔法の修得を頑張ったり、剣術の修行を頑張ったり……。
ルークの必殺技とジェラードの特殊技のどちらが強いのか――
……そんな話もちらほら出ては来るけど、実際に試すわけにもいかない。
下手をすれば、命を落としてしまうのだ。
私の薬の回復効果が高いとは言っても、さすがに死なれては回復なんて出来ないわけで……。
と言うか、必殺技やら特殊技やらを使わなくても、危険は危険なんだよね。
神器を使って手合わせをしている……とは言うけど、それだけでも死んでしまう可能性はあるのだから……。
……そんな日々の中、私の魔法は随分と完成に近づいてきたような気がする。
「――アルケミカ・オブスタクルッ!!」
ガガガッ!!
勢いの良い音と共に現れたのは、白銀に金色と赤色を混ぜたような、不思議な色をした盾。
そう、これはオリハルコン製の盾なのだ。
「おぉーっ!
アイナさん、ついに完成ですかっ!?」
息抜きついでに、私の様子を見に来ていたエミリアさんも興奮して、はしゃいでしまう。
「はい、ようやくひと段落……ってところですね。
どれくらいの防御力があるかは分からないですけど……」
「それなら、私が魔法を使いましょうか?
アイナさんの魔法だと、もしかしたら消し飛んじゃうかもしれませんし……」
「いやぁ、さすがにアルケミカ・クラッグバーストでもそこまでは……。
どちらかと言えば単純に、弾き飛ばしてどこかに飛んでいく……って言う方が怖いですね」
「そうしたら……空からオリハルコンが降ってきた!
……とかになっちゃいますね♪」
「あはは……。それは驚きですよね、いろいろな意味で……」
さて。防御力を調べるにしても、少しずつ試していきたいところかな。
弱い攻撃から徐々に強くしていって、どこまで耐えられるか……みたいな。
「この前は、ジェラードさんの攻撃でも盾は壊れなかったんですよね?
そのときは鉄の盾だったと思いますけど」
「はい、そうですね。
……そっか。それならある程度強くても、壊れはしないかも?」
「今回は鉄どころか、世にも珍しいオリハルコンですからね。
さすがに段違いの防御力だと思いますよ!」
「うーん……。
それなら、エミリアさんの魔法で試してみたいかな……」
「やりますよー! 頑張ります♪」
「でも、さすがにお屋敷の近くだと危険ですよね……。
どこか郊外の、誰もいないようなところで試したいかなぁ」
「それなら行ってみますか!
気分転換に、少し魔法を使いたかったんですよーっ」
「穏やかではないストレス解消方法……!」
「まぁまぁ!
では人の来なさそうなところに行きましょうっ!
フロート・エクスペル!!」
「ちょわっ!?」
話の途中で、エミリアさんは容赦なく浮遊の魔法を使ってきた。
えぇ!? ここからずっと、外まで飛んでいくのーっ!?
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
……検証を終わらせた後、私たちは夕食までには戻ることが出来た。
行きも帰りも浮遊魔法。うーん、高いところを飛ぶのって、まだまだ怖いんだよね……。
「――それで、結果はどうたったのですか?」
夕食をとりながら、ルークが質問をしてきた。
ジェラードも興味がありそうに、さりげなく聞き耳を立ててくる。
「うん、全部防げたよ!
気持ちが良いくらいに♪」
「私はちょっと、悔しいです……!」
「でも、エミリアさんを護る盾ですよ?」
「私はちょっと、嬉しいです!」
……何と言う変わり身の速さ。
しかしそれがエミリアさんの良いところなのだろうか。
……いや、良いところなのかな。あれれ?
「僕のときは、鉄の盾は飛んでいっちゃったけど……。
オリハルコンの盾は大丈夫だったの?」
「はい、それはもう微動だにしなくて。
岩をぶつけても、むしろ岩の方が壊れていたので……。防御力はかなりあると思いますよ」
「ふむ、それは素晴らしいです。
あとは、虚無耐性……ですか」
「うん、それなんだよね。
あと、鉄の盾とかでもそう言う強さを付けていければなぁ……って」
私のその言葉に、セミラミスさんが後を続けた。
「そこまで開発を進められたのは……、さすがです……!
それで、虚無耐性……が欲しいのであれば、やり様は……2つ、あります……」
「え? 2つもあるんですか!?」
「はい……!
まず1つ目は、虚無魔法を制限する……構築式を入れること……。
それ自体が難しいので、アイナ様だと……ちょっと、どうなるか分からないのですが……」
「うぅ……。
エミリアさんに見せてもらいましたけど、確かに全然分かりませんでした……!」
「入れたところで、魔法の扱いがさらに難しくなるので……。
現実的なところを考えると……、それは、控えた方が良いかもしれません……」
「……と言うと、もう1つの方に期待せざるを得ませんね!」
「そちらは比較的簡単……です。
ただ、他の方の協力が必要に……なってきます……」
「他の方? ……手伝ってもらうってことですか?」
「はい……!
アイナ様が作られる盾に……、『共有』の効果を持たせれば良いのです……!」
「きょうゆう?」
「簡単に言うと……、他の方の特別な力を借りる……と言うことです……。
例えば虚無耐性……と言うのであれば、ルークさんの……レアスキル、『光の祝福』……ですね」
「え? もしかして、その効果を盾に乗せられるって言うこと……ですか!?」
私の言葉に、セミラミスさんは力強く頷いた。
ちなみに『光の祝福』の効果はこれだ。
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【光の祝福】
光属性・闇属性・虚無属性の状態異常、ダメージを無効化する
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……この力を獲得できれば、3属性に対しては無敵の盾になってしまう。
え、凄い。本当にそんなことが出来るの?
「私の力がアイナ様のお役に立てるようであれば、いくらでもお貸しいたしましょう。
そうすれば全部、解決してしまいそうですね」
「うん、ありがと!
……それで、『共有』って言うのは難しいんですか?」
「ここまで魔法を組み上げられたアイナ様なら……、問題ないかと思います……。
あとで構築式をお伝えしますので……、また、頑張ってみてください……!」
……『また』。
いや、難解な中を頑張るのはしんどいけど、ゴールは完全に見えてきたのだ。
それならもう少しくらい、頑張るのは何と言うことも無いだろう。
「分かりました、やってみますね!」
そんなやり取りをしていると、ジェラードがさり気なく入ってきた。
「……ねぇねぇ。
ルーク君ばかりじゃなくてさ、僕の力も使ってよ!」
おっと、ジェラードがまた対抗意識を持ち出してきたぞ……。
「えーっと、ジェラードさんの力……って、何ですかね。
素早い……とか?」
「盾が素早くなって、とうするの!?」
「うーん……。ぶつけるとか?」
「武器じゃん! それ、武器じゃん!!」
「むむむ。……そうしたら、影の力……ですかね。
セミラミスさん、神器の力も『共有』出来るものですか?」
「はい……。持ち主の許諾があれば、いけるはずです……。
……影の力を獲得した盾なら、恐らくは物理無効……のような感じになるかと思います……」
「え? それも凄いじゃないですか」
何だかんだで、物理攻撃と言うのはなかなか無効にはならないのだ。
オリハルコンの盾はそれに近い感じではあったけど、鉄の盾にそれを持たせられれば……かなり使えるかもしれない。
「ルークさんの力も、ジェラードさんも力も、どちらも凄いですね……。
それじゃアイナさん、私の力はどうでしょう!」
「エミリアさんの力……?
……良く食べる、とか?」
「えぇーっ!?
アイナさん、それってどんな盾になるんですかーっ!!」
「わ、私の方が聞きたいですよ……」
……でも、『良く食べる』と言うところにはツッコミが入らなかったね……。
うーん……。
エミリアさんならきっと、魔法の盾……みたいな感じになるのかなぁ。




