表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第13章 神々の空へ
758/911

758.勇者と魔王①

「――っと、これで今日の分はおしまいかな?」


 目の前のケースに入れられた、たくさんの『野菜用の栄養剤』。

 ファーディナンドさんが打ち出した冷害対策のひとつで、これから第一騎士団に納品されていくものだ。

 第一騎士団に一旦集約して、そこから人の手を介して、最後には農家に届けられる……と言った具合になる。


 さすがに配達までを、騎士団がやるわけにはいかないからね。

 それに民間の業者を使えば、そちらにも仕事が発生していく。

 この街も大きくなったのだから、しっかりと経済をまわしていかなくてはいけないのだ。



「……はぁ。師匠がいると、一瞬で終わっちゃいますね」


 レティシアさんが、感心しながらお茶を持ってきてくれる。

 仕事が終わったあとの、工房で飲むお茶の何と美味しいことか。

 ……まぁ、バチッとやっただけなんだけど。


「でも、みんなの実力も上がってきたと思うよ。

 それならたまには、こう言う楽な日があっても良いでしょ?」


「はい、他のことが出来て助かります!

 錬金術師ギルドで本を借りて読んでいるんですけど、いろいろと試してみたいこともあって!」


「へー。

 うん、勉強熱心で素晴らしい!」


 残念ながら私は、錬金術においては勉強したことがほとんど無い。

 調べ物はそれなりにしてきたけど、錬金術自体はスキルとしては最初から最強だったのだ。

 だから錬金術をひとつひとつ学んでいけるのは、少しだけ羨ましかったりする。


「えへへ、ありがとうございます♪

 さて、それでは後のことはお任せください!」


「あ、そう?

 それじゃ納品とか立ち合いはお願いしちゃうね」


「はーい!」




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「――さて、と」


 お店を出て、まずは深呼吸。

 少し肌寒い感じはするが、まだまだ過ごしやすい気はする。


 今は春。

 本来だったらもう少し暖かいはずだけど、グリゼルダ不在の影響は確実に出てしまっている。


 セミラミスさんが水竜王になってこの辺りを加護してくれる……と言うのが、本当の解決になるのかな。

 それまでは人間の力で、どうにか悪影響が出ないようにして頑張らないと……。


 とりあえずいろいろ考えた結果、私はポエール商会に行くことにした。

 ポエールさんはグリゼルダの件があってから……会ったのは一度だけだったかな。

 そのときは、わざわざお屋敷まで私の様子を見にきてくれたんだよね。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「いやー、アイナさん! お久し振りです!」


 ポエール商会の拠点の客室で私が待っていると、ポエールさんが明るく元気に入って来た。

 多少大袈裟ではあるが、そんなところにもついつい優しさを感じてしまう。


「すいません、ご無沙汰してました。

 グリゼルダのことはもう受け止めたんですけど、そのあと『水の迷宮』に潜ったりしていまして」


「おお、そうだったんですか。

 あのダンジョンも、今は攻略がどんどん進んでいますからね。

 アイナさんは、ルークさんとエミリアさんとご一緒に?」


「はい、その三人で行っていました。

 修行のためなので、アイテムはほとんど持って帰りませんでしたけど」


「うぅ、私としてはとてももったいなく感じてしまいます……。

 ところでアイナさんたちは、どの辺りまで行くことが出来るんですか?

 30階……いや、40階くらい?」


「今って、一般の冒険者はどの辺りまで行けているんですか?」


「そうですね……。

 ベテラン勢で33階……と言うのが公式記録だったかと思います。

 かなり手酷い怪我を負って帰って来たらしいのですが」


「おー、凄いですね。

 あの辺りの敵って、かなり強いから仕方が無いですよ」


「おお! そう言うことは、33階はもう到達したんですね。

 それならやっぱり、もう40階くらいには?」


「えーっと……。

 この前は、80階まで行ってきました」


「……は?」


「80階」


「……おふぅ。

 そうですね、いや、そうですよ。アイナさんたちですもんね。いや、さすがです」


 身を乗り出していたポエールさんは、重力に従うようにソファーに座り込んだ。

 80階と言うのは、40階の2倍だ。いや、今さら説明も不要だろうけど。


「ちなみに80階には、綺麗な湖がありましたよ」


「ほぉー……。

 私は絶対、そんなところには行けませんからね……。

 いや、そもそもそこまで行ける人って、他にはいるのでしょうか……」


「うーん、どうでしょう?」


「アイナさんは言う間でもなく、世界一の錬金術師ですし……。

 ルークさんはもはや、世界に名立たる冒険者ですし……。

 あとはエミリアさんだって、『千瞳の大賢者』を倒した魔法使いでもありますし……」


「……あ、そうだ。

 エミリアさんも魔術師ギルドに、ランクの昇格申請を出していたそうなんですよ。

 この度それが認められて、Sランクになっていましたね」


「お、おぉ……!? それは凄い……!!」


「でも、私とルークはS+ランクじゃないですか。

 だからまた、そこでズルいズルいー……って♪」


「えぇ……?

 Sランクの時点で、全世界の上から7位以内なんですよ……?

 それで不満なんですか……?」


「いやぁ……。

 Sランクに不満と言うか、私たちと同じじゃないところに不満と言うか」


「な、なるほど……。

 ひとまずアイナさんがS+ランクから落ちることは無いでしょうから、エミリアさんには頑張ってもらわないといけませんね……」


「そうですね。

 でも、未だに魔法をがんがん修得していっていますから……。

 いずれはS+ランクも夢では無いのでは?」


「ふむ……。

 あの手のランクは、最上位の方は『名声』と言う部分が大きいですからね……。

 大きなことを成せれば、きっと近道になると思いますよ」


「……大きなこと。

 例えば、どんなことですか?」


「そうですねぇ……。

 ……魔王を倒す、とか」


「ま、魔王!?」


「おっと、変な例を出してしまいましたね。

 今はもう、お伽噺としか伝わっていませんが――

 ……かつての時代、世界を陥れんとする『魔王』と言う存在がいたそうです。

 それで、それを倒すのは正義の『勇者』だった……って感じですね」


「……ん。

 そう言えば以前、光竜王様からも聞いたことがあったような……」


 それは300年くらい前の話。

 ヴェルダクレス王国の建国時、光竜王様はその地下に封じられた。

 確かその前後で、勇者や英雄が多く生まれた……って言っていなかったっけ。


「おお、そうでしたか……。

 さすがにグリゼルダ様――いや、転生前のことだったのですかね?

 確かに光竜王様でしたら、何かご存知だったかもしれません」


「そうですね……」


 光竜王様は結局、人間に封じられちゃったんだよね。

 その人間と言うのは、ヴェルダクレス王国の初代国王なんだけど……。


 ……そうすると、光竜王様と光神ゼルゲイド様がゼリルベインと戦ったのは……もっと昔の話なのか。

 それじゃ、勇者だの魔王だのは、ゼリルベインとは関係が無いのかな……?


 あれ? でもそのときって、神様はもう全員いなくなっていたんだよね?

 いやいや、もしかすると絶対神アドラルーン様の仕業……?


「……ははは。

 アイナさん、ずいぶんと難しく考えているようですね」


「え? そ、そう見えましたか?」


「私も子供の頃、そう言うお伽噺には興味がありまして……。

 調べたところによると、神様の力を持つ宝石……と言うものがあったそうなんです。

 それを魔王が奪ってしまったので、勇者が取り戻しにいく……なんてお話が多かったですね」


 ……と言うと、神様は直接出てこないのか。

 それなら全員、いなくなったあとでもまぁ……って感じかな。


 良い神様の6柱と、悪い神様の1柱……つまりはゼリルベイン。

 その時代、この7柱の神様はこの世界に影響を与えることが出来なかった……。

 ……そしてその間に、勇者だの魔王だのがいろいろと登場していた……と?


「……ふむ。

 でも最近は、そんな話は出て来ないんですよね?

 それじゃ私とは、何の関係も無いかな」


「ははは。

 私たちにとっては、この街を救ってくれたアイナさんこそが『勇者』なんですけどね」


「あはは♪ 私はただの錬金術師ですよー」



 正直、私は『勇者』だなんて言われても嬉しくは無い。

 私はもっとひっそりとこっそりと、街の中に埋没するような錬金術師になりたかったのだ。

 ……もはや、全世界に名前が轟いてしまっているわけだけど……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] なんかそのうち出てきそう
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ