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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第13章 神々の空へ
756/911

756.新魔法②

 敵の、水で出来た竜――

 ……大きさはグリゼルダくらいだったとしても、私はグリゼルダから攻撃をされたことは無い。

 もちろん、転生前の光竜王様だった時代を含めてだ。


 そんなわけで、5メートルの暴れる何かに近付くと言うのは、やはり恐ろしいものがある。

 ゼリルベインよりも格下の存在だとは分かっていても、現実的なところで恐怖を感じてしまうのだ。

 未知の恐怖と言うよりも、痛みへの恐怖……なんだろうけど。



「――アイナ様!?」


 私が近付いて行くと、まずはルークが驚いた。

 何せ私は、基本的には後衛の人間だからね。


 引き続き水の竜が襲ってくる中、私は何とか避けながらルークと会話をする。


「いやぁ……。エミリアさんが『行け』って言って……」


「スパルタですね!?」


「同感……!」


 戦いの合間に、ルークはエミリアさんの方をちらっと見た。


「……そのエミリアさんは、何をやってるのでしょうか」


「何もしていないと思うよ……?

 自分ならすぐに倒せそうだから、私の魔法の練習にどうぞー……って」


「は、はぁ……。最近のエミリアさんは底が知れませんね……。

 そう言うからには、きっと自信があるのでしょう」


「そうだねぇ……。

 それで、ルークはどんな感じ?」


「ご覧の通り、斬っても斬ってもすぐに回復してしまいます。

 ただ、大きな技を放てば倒せるかもしれません」


「ルークの必殺技は、回数制限があるからね。

 この階で戻るつもりだから使っちゃっても大丈夫だとは思うけど――

 ……でも、エミリアさんから言われちゃったし。今回は私が何とかしてみようかな」


「アイナ様が、ですか……?

 アルケミカ・クラッグバーストは効かなさそうですが……」


 威力的には十分だけど、あれは一点突破の攻撃魔法だ。

 だから今回の敵は、貫いたとしてもすぐに元通りになってしまうだろう。


「だからね、この前話をした、新しい魔法で――って」


「新しい魔法……。

 なるほど、あれなら確かに向いていそうですね」


 ……その新しい魔法だが、実は汎用的なものではまるで無い。

 使える相手は限られるが、しかしその分だけ効果が凄まじい……と言うタイプなのだ。


 提供元のセミラミスさんとしては、この魔法はゼリルベインへの切り札として考えていたようだ。

 ただ残念ながら、ゼリルベインに効くかどうかは使ってみないと分からないのだと言う。


 でも、今回の敵なら打ってつけって感じなんだよね。


「そんなわけだからさ、ちょっとサポートお願い出来る?

 一人だと、良くても相打ちになっちゃいそうで」


 この魔法は射程が短い。

 具体的に言えば、私の腕が届く範囲が魔法の射程なのだ。

 だから最悪、攻撃を受けながらカウンター的に……と言う使い方も無くは無いのだが、私だって痛いのは嫌だ。


「かしこまりました。

 それでは私が注意を引き付けますので、アイナ様は隙を見て攻撃をしてください」


「うん、ありがと!」


 軽く打ち合わせをしてから、私はルークと距離を取った。

 ちゃんと距離を取ってくれる辺り、私が攻撃を避けることを信じてくれているのだろう。

 そもそも攻撃に当たっていたら、ルークも気が気では無いだろうからね。



 私は気配を押さえながら、敵に気付かれないように背後へとまわった。

 背後……とは言っても、後ろ側には大きな尻尾がある。


 しかもその尻尾でルークを攻撃しているものだから、大きな水の塊が目の前でびゅんびゅん動いている状態なのだ。

 私は攻撃の対象にはなっていないけど、それでも巻き込まれる危険性は十分にある。

 いやぁ、前衛って怖いところだね……。今更だけど。



 ……しかしそんなことを言っていても仕方が無い。

 私はアイテムボックスからナイフを取り出して、魔法の準備へと入っていく。


 他の錬金魔法はそれなりに慣れてきたから、とっさに発動させることはもう出来るけど――

 ……しかし今回の魔法は、まだまだ全然慣れていない。

 この時期の錬金魔法って、本当に使い難いんだよね……。


 ……っと、愚痴は置いておこう。

 今は集中、集中だ。



「アイナさん、頑張ってーっ♪」



 後ろから呑気な声援が聞こえてくる。

 これも信用と言えばそうなのかもしれないが、それにしても微妙な気持ちになってしまう。

 支援魔法はガンガン飛んでくるから、戦いに参加していないとも言い難いし……。


「っと、だから集中だってば、私ーっ!!」


 無駄に気が散るのは集中力が足りないせいか、外野のせいか。

 しかし今は戦闘! 私、この戦いが終わったら、お屋敷に帰るんだ――



 ……何かのフラグが立ちそうなことを考えながら、私はどんどん集中力を高めていく。

 複雑な手順を踏まえ、その意識を手にしたナイフに乗せていく。



 ふと、水の竜の動きが緩んだ気がした。


 この魔法は敵の身体のどこにでも、当たってしまえば大丈夫だ。

 しかしそれでも、身体に当てた方が効果はある。

 だから狙うのは、尻尾の生えた先、竜の背中部分――


 ……私は全力で走り出した。


 竜王の加護によって、向上した体力、走力、跳躍力。

 地面を思い切り踏みしめて、水の尻尾を駆けあがり、そして宙に跳ねあがって、そのままナイフを構えて――



「――アルケミカ・アニヒレーションッ!!!!」



 魔法を発動させながら、ナイフを竜の身体に突き立てる。

 ……が、突き立たらなかった。


 ルークがスパスパと、それはもうスパスパと斬りまくっていたから、てっきり柔らかいものかと思っていたけど……。

 その堅さは鎧のように、ナイフの刃を受け付けなかった。


 しかしこのナイフ、アドルフさん作の属性ナイフである。

 だからこそ、竜の身体には一筋の傷だけは付けることが出来たようだ。


 そしてその傷だけで、それだけが付けば、この魔法は成功となる――



 ……プシュッ



 私の手元から、そんな音がした。

 突き立てていたつもりのナイフは抵抗を失い、小さく付いた傷が、みるみるうちに大きく広がっていく。



 ……ブシャァッ!!!!



「うわぁっ!?」



 大きく広がった傷はそのまま裂け始め、そしてそれは身体全体へと広がっていく。

 水の竜――いや、もはや完全に水の塊か。


 その水の塊は大きな身体を崩壊させて、内部に蓄えていた水で辺りのものを全て押し流した。

 もちろん、私も。ちなみに、ルークも――




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「アイナさーん! 大丈夫ですかー!?」


 湖に落ちた私の元に、エミリアさんが駆け寄ってきた。

 結構深く潜ってしまったから、少しばかり水を飲んでしまったようだ。


「ごほっ、ごほっ……。

 ……はぁ、何とか無事……の、ような」


「あはは、お疲れ様でした!

 はい、ヒールをどうぞ♪」


「はぁ、ヒールをどうも」


 そんな感じで癒されていると、ずぶ濡れになったルークもこちらにやって来た。


「アイナ様、ご無事ですか?」


「私は何とか……。

 ルークは大丈夫? ああ、まずは乾かしちゃおうか。

 ……ドライング・クロース!」


 ルークの服と、ついでに私の服も。

 乾燥の魔法でさっさと乾かすことにした。


「それにしてもアイナさん、とっても格好良かったですよ!」


「私も見惚れてしまいました。

 あの魔法も、今回が初めての実戦だったんですよね」


「うん。でも、まさかあんなに効くとはね……。

 これはセミラミスさんに、ちゃんと報告しておかないと」


「そうですね!

 ……あんな感じで、ゼリルベインにも効いてくれれば良いんですけど」


「それだったら最高ですよねー。

 でもそうしたら、やっぱり押し流されちゃうのかな……」


「それは御免被りたいですね……」


 私の言葉に、ルークは苦笑いをした。

 水の竜であれだったんだもん。神様が相手なら、一体どうなってしまうことやら。



 ……『アルケミカ・アニヒレーション』は、錬金術から派生して、もう少し法則の概念に踏み込んだ魔法だ。

 具体的に言えば、『塊の境界』を『崩壊』させる、とんでも無い魔法。


 ただ、その『塊』が複雑な場合は効果がほとんど無い。

 今回の相手はほぼ水で出来た単調なものだったからこそ、ここまでの効果が発揮できたのだ。


 対して『神』はどうなのか。

 仮に『神』が『神力』の塊だと仮定するのであれば、この魔法が大いに効く可能性がある。

 それこそ今回のように、少しだけでも傷を付けてしまえば、それだけで戦いは終わってしまうのだ。


 この魔法だけに賭けるのは危険だけど、それでも希望の1つには成り得る。

 ……まぁこんな感じで、私たちは戦いのカードをたくさん準備していければ良いんじゃないかな?

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