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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第13章 神々の空へ
751/911

751.第四の神器②

「――……どうしてこうなった……」


 今日は転生記念日。

 私がこの世界にやって来てから4年がまるっと経過して、今日からめでたく5年目に突入することになった。


 そんなメモリアルな日に、めでたく第四の神器を作成――

 ……する予定だったのだが、何故か今、私はガルルン教の聖堂に立っていた。


 しかも突然のことではあるが……。

 本当に突然のことではあるが、ウェディングドレスなんてものを着ていたりする……。



 ……本当に、どうしたこうなった……。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 話を遡れば、ジェラードが神器に求めた新しい要望がそもそもの始まりだった。


 その要望とは、『世界の声』で神器の存在を世界に知らせないこと。


 ジェラードの諜報部隊は、あまり表には出て来ない組織だ。

 その関係で、神器のことも可能であれば秘密にしておきたいのだと言う。


 短期的に見れば、ゼリルベインにも存在を隠せるだろう。

 ……神様は例外、とかであれば話は別だけど……。


 長期的に見れば、対外的な交渉のカードには出来なくなるが、逆に言えば秘密兵器と成り得る。

 これはこれで、とても良い立ち位置のようにも思えてしまう。


 その辺りを踏まえると、私はジェラードの要望には(おおむ)ね賛成が出来た。

 ルークとエミリアさんも同様で、特に指摘されるような問題は無かった。


 そこまで話がまとまれば、あとは英知さんに確認をするだけだ。

 私は客室での話を終えると、自分の部屋に戻って、『英知接続』で英知さんに会いに行くことにした。



「――こんにちは」


 相も変わらずの白い世界。

 英知さんも、未だ会うことの出来ていない錬金術師の姿を借りている。


「こんにちは!

 今日は質問があって来ました――

 ……って、何だか忙しかったですか?」


 普段は悠然と構えている英知さんではあるが、今日は少し慌ててきたような印象を受けてしまった。

 この白い世界、どこかに片付けるようなものがあるとも思えないけど……。


「いえ、大丈夫ですよ。

 それで、今回はどのような御用でしょう」


「えぇっと、ですね――」


 私は英知さんに、ジェラードの要望を伝えてみた。


 出来ないなら出来ないで仕方が無い。

 難しい条件が付くのであれば、今回は見送っても別に構わない。

 何しろ私は、今日の転生記念日に神器を作ってしまいたいのだ。


「……はい、可能ではあります。

 ただ、いつもと少し違う条件がありまして……」


「え、出来るんですか!?

 うぁー。アゼルラディアからやっていれば、私の旅ももう少しは楽になれたのに……」


「いえ、最初の神器では不可能でした。

 少しややこしいのですが、アイナさんが獲得した『神器の錬金術師』という称号の特典だと考えてください」


「むむ?

 そうすると、フィエルナトスとクリスティアでは問題なく出来たんですね!」


「はい、そうなります。

 ……ただ、アイナさんの魂と直接的に接続する必要があるので、存在を隠せるのは最大でひとつまで……になります」


「ふぇ? 魂と、直接……?」


「魂と言うか、『存在』と言った方が近いでしょうか。

 例えばアイナさんが……少し太ったとして」


「え? はぁ」


「その太った分のお肉……。

 それはアイナさんの一部ですよね。アイナさんが、増えたわけでは無い……」


「それはそうですね……」


「簡単に言うと、そんな感じです。

 これから作る神器をアイナさんの存在の配下に入れてしまえば、世界への告知は無しに出来ます」


「い、イメージが付かないなぁ……。

 ちなみにそれをやると、私には何か影響があるんですか?」


「いえ、アイナさんの方には特に」


「……と言うと、神器の方には何か影響が?」


「はい。アイナさんの一部……と言うことになるので、アイナさんが死んでしまえば、神器も同時に消滅します」


「ふむ……。

 私は不老不死だから、ずっと大丈夫そうですね!」


「……不老不死は完全なものではありません。

 アイナさんも、そろそろお気付きでしょう?」


「まぁ……。

 死ななくても、滅びはするんですよね。

 ゼリルベインの攻撃で、私は消えてしまうかもしれない……」


「そうなれば、もちろん神器も消滅してしまいます。

 ただ、それ以外には特に制限はありませんし、対価もありません。

 神器を作るときに、『魂との契約』の文言を織り交ぜるだけで可能ですよ」


「おぉ、結構お手軽な……。

 ちなみにその『契約』って、今までに使った『宣言』みたいなものですよね」


「はい。暗記しなくても読み上げれば大丈夫なので、今日中には余裕で間に合うでしょう」


「おっと、見透かされていましたか……。

 でも、分かりました。ちょっと考えてみます!」


「契約の文言は、鑑定で確認してくださいね」


「はい、ありがとうございまーす!!」



 ……そんな感じで、ジェラードの要望は十分に実現可能な範囲だったのだ。

 で、次はそれをジェラードに伝えてみたところ――



「……『魂との契約』。

 何だか凄い話になっちゃったね……」


「でも、私がどうにかなるわけでもありませんし。

 むしろ神器の方にペナルティが生まれてしまうわけで」


「アイナちゃんがいなくなったら……ってことだよね?

 それなら何の問題も無いよ」


「え? 神器が無くなっちゃうんですよ?」


「まぁ、それは大きなペナルティではあるけど……。

 でもそのときは、アイナちゃんがいなくなってるんだよね?

 それなら僕は、そんな世界に未練は無いからさ」


「えぇ……。

 もしそうなったとしても、ジェラードさんは頑張って生きてくださいよ……。

 私も出来るだけ、滅びたりはしないようにしますから」


 滅びること自体、普通に考えれば難しそうなことではある。

 何せ希少な、虚無属性の攻撃でも食わらなければいけないわけだし。


「……困ると言えば、アイナちゃんの復讐には神器を使えない……ってところかな。

 それはかなり、困りそうだなぁ……」


「ちょっと、勝手に滅ぼさないでくださいよ!?」


「あ、ごめんごめん。

 でも、アイナちゃんは勝手にいなくならないんだよね。

 だからさ、僕としては問題は無いよ」


「何だか少し引っ掛かりますけど……。

 それじゃ、ジェラードさんの要望通りにしておきますか」


「うん、ありがとう!

 ……それにしても、『魂の契約』……かぁ。

 何だか、結婚に似てるような気がしない?」


「え? は、はぁ……」


 私の微妙な反応にも関わらず、ジェラードはぐいぐいと食い付いてきた。


「せっかくだしさ、結婚式を挙げてみない!?」


「は? 誰と誰の、結婚式ですか?」


「僕とアイナちゃん!」


「却下します」


「え!? えぇーっ!!!!?」


「えぇ……。

 いや、むしろここで承諾すると思ったんですか?

 仮に承諾したとしても、準備が必要ですよね?」


「ウェディングドレスならあるよ!」


「何で!?」


「こう言うこともあるかと思って!」


「何で思うんですか!?」


「世の中には、可能性が満ち溢れているからさ!!」



 バターンッ!!!!


 そんなことを廊下で話していると、突然エミリアさんの部屋の扉が力強く開け放たれた。



「アイナさん、話は聞かせてもらいました!」


「盗み聞き!?」


「ジェラードさんが相手だと言うのはちょっとアレですが!

 私もアイナさんの、ウェディングドレス姿は見てみたいです!!」


「えーっ!?」


「エミリアちゃん!!

 ウェディングドレス姿の女の子がいるなら、相手の男も必要だよね!?」


「ルークさんならまだ納得は出来ますが、ジェラードさんはちょっと!!」


「ぐはっ!?

 ででででも! ルーク君はもう、結婚してるじゃん!!」


 ……まぁ、妻帯者に結婚式っぽいことをやらせるのは流石にね……。

 ルークとキャスリーンさんなら問題ないとか言いそうだけど、やっぱりそう言うわけにもいかないし……。


「仕方ありません……。

 それなら私が、アイナさんの相手を務めましょう!!」


「ちょっと待って!?

 そもそも僕の神器の話なんだよね!? だからここは、やっぱり僕が相手じゃないと!!」


「そんなことをしたら、ルークさんがジェラードさんの息の根を止めに来ますよっ!?」


「……ぐっ!?

 その状態のルーク君には……、勝てそうに無い……ッ!!」


 白熱するジェラードとエミリアさん。

 何だか私、ひとりだけ置いていかれているような気がする……。


「あはは……。

 それじゃ結婚式とかウェディングドレスの話は無し……の方向で」


「何を言ってるんですか!!」

「何を言ってるの!?」


「えぇーっ!?」


「それでそれで?

 ジェラードさん、どんなウェディングドレスを作ったんですか!?」


「サイズのこともあったからさ、バーバラさんに作ってもらったんだよー」


 ……バーバラさん、と言うのは元・白兎亭の裁縫士さんだ。

 彼女もマーメイドサイドに引っ越してきているのだ……けど。


「おぉー! それは期待大じゃないですか!!

 見せてくださいよーっ」


「え? あ、うん。

 それじゃアイナちゃんにも見てもらおうかなー♪」


 ……そう言うと、ジェラードは彼のアイテムボックスからウェディングドレスを取り出した。

 大量の布で、ボリューム満点。


「お、おぉー!

 凄いですね、アイナさん! とっても綺麗ーっ!!」


「ま、まぁ……確かに?」



 ウェディングドレスと言えば、昔はまぁ憧れていたものだけど……。

 でも今は、結婚しないって決めているからなぁ……。

 だから、着る機会なんて無いわけだけど……。


 そんなことを考えていると、しばらく目が留まってしまっていたようで――



「ほら! アイナちゃんも興味がありそうだし!!」


「おぉー! やっぱりアイナさん、着てみましょうよーっ!!」


「え、えぇー……」



 ――……とまぁ、そんな感じで話はごろごろ、ごろごろと進んでいってしまったのだ……。

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― 新着の感想 ―
[一言] ジェラード、グッジョブ。 そしてエミリアさんとキマシタワー!
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