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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第13章 神々の空へ
750/911

750.第四の神器①

 エマさんが亡くなって、2週間ほどが経った。

 やはり寂しいところもあるが、それでも私たちは進んでいかなければいけない。


 今日は最近の情報交換を行うため、お屋敷の客室に4人が揃っていた。

 4人……と言うのは、私とルーク、エミリアさんとジェラードのことだ。



「……ようやく、街の混乱も収まってきた……って感じですかね?」


「そうだねー。

 収まったって言うか、慣れてきた……って言うのかな?

 不安なところはまだまだ残っているけど、目の前の生活を何とかしていかなければいけないからね」


 先日ダグラスさんから聞いたような、一時的な買い占めは既に無くなっていた。

 私が作ったポーションはほとんど売れたそうだから、作り損にはならなくて良かったかな。


「ふむぅ……。

 でも変な声が上がってこなくて良かったですね。

 本当のことが少しでも漏れたら、やっぱり混乱してしまいそうですし……」


 『神様が街を攻めてきた』……なんて話が広まれば、それこそ面倒なことになってしまう。

 騎士団の中でも情報を制限している今、そんな情報を普通の人に漏らすわけにはいかないのだ。


「そこはちょっとね……。

 僕の方で、ちょちょっとやっておいたよ!」


「……ちょちょっと?」


「詳しいことは、まぁ良いでしょ♪

 アイナちゃんたちだって、一生懸命やってるんだからさ。

 その邪魔なんて、誰にもさせないよ♪」


 そんなことを明るく言うジェラード。

 ……さすがにそう言うからには、面倒なことを言ってくるような人がいたのだろう。

 で、それをちょちょっとやってくれた……と。


「はぁ、了解しました。

 いろいろと想像は膨らみますが、詳しくは踏み込まない方が良さそうですね」


「そうそう! 話が早くて助かるよ♪」


 ……まぁ、きっと誰かは死んだのだろう。

 そう考えると、一気に生々しくはなってしまうけど。



「じゃ、ジェラードさんの諜報部隊はそんな感じだとして……。

 騎士団の方では、何か変わりはあった?」


「特にはありません。

 情報の制限を不安に思う声もありますが、それ以上に、アイナ様の人気が上がっているようですよ」


「……は? 何で?」


「あの晩、アイナ様は率先して行動を起こしていたじゃないですか。

 やはりこの街、引いては将来の国を守る騎士たちとしては、そう言う存在はとても尊く見えるものなのです」


「な、なるほど……?

 でもこの街、私が作ってきたから……って言うか、ねぇ?」


「それはそうかもしれませんが……。

 しかしこの街には、既に多くの方が暮らしています。みんな、この街は自分の街だと思っているんですよ」


「……ふむ、それは嬉しいなぁ……。

 うん、何となく理解は出来たよ」


「はい、ありがとうございます」


 マーメイドサイドは私のために作り始めた街だけど、たくさんの人生を巻き込んでしまっている。

 それならもう、この街は『私の街』ではなくて、『みんなの街』……と言うことになるのかな。


 ……まぁ、私と敵対する人には出て行ってもらうけど。



「それじゃ、エミリアさんの魔法師団はどんな感じですか?」


「はい! ついに責任者の1人が決まりました!

 責任者は3人を置く予定なので、残りは1人ですね!」


「おー……。と言うか、私はその話は聞いているんですよね。

 ルークとジェラードさんは、まだ聞いていませんよね」


「はい、私はまだ」


「僕もまだー。

 その責任者って言うのは、騎士団で言えば、ルーク君みたいな立ち位置になるんだよね?

 それなら、おかしな人を置くわけにもいかないよね」


「人柄、実力、ともに問題は無いですよ!

 それではエミリアさん、発表しちゃってください!」


「はい!

 何と! ヴィオラさんにお願いすることになりましたー♪」


「……え? このお屋敷にいる、ヴィオラちゃん?

 あの、引き籠……もとい、インドア派の?」


「そうですよー!

 ちょっと心配なところはありますけど、きっと大丈夫なはずです!

 ね、アイナさんっ!!」


「あはは、そうですねー」


 心配なところとしては、大人数の上に立たなければいけない……と言うところかな。

 魔法師団の方ではいつもの口調を改めて、丁寧語になっていたりはするけど……でも、お屋敷の中では以前の口調のままだったりもする。

 ……外に出ているとき、ぽろっと素が出ちゃわないと良いんだけどね。


「ヴィオラさんとは、少し意外でしたね……。

 確かに最近、お屋敷の外に出掛けているとは思っていたのですが……」


「夜は夜で、セミラミスさんの魔法の研究を手伝っているんだよね。

 ちゃんと休めているのか、そこも少し、不安かな」


 栄養剤はたくさんプレゼントしているけど、やっぱり疲れているときには休むのが一番だ。

 ……ただ、ヴィオラさんはいろいろと頑張って、不安や悲しみから逃げているようにも見える。

 だから私は、もう少し様子を見てみようかと考えている。



「ところで、アイナさんの方はどうなんですか?」


「えっと、いろいろと調整をしたり……とか、でしょうか。

 基本的には順調ですよ」


「なるほど、全然分かりませんね!」


「ぐ、具体性がありませんでしたね……。

 そうですね……、例えばファーディナンドさんと、国境の話をしてきたり……」


「国境、ですか?」


「国作りの方も順調ですし、そろそろ具体的に決めないとなぁ……と言うことで。

 もちろんヴェルダクレス王国の方からの抵抗があるでしょうけど、そこは海外の国と調整と付けていて……」


「おー♪

 それでそれで? アイナちゃんは、どこまで領土にしちゃうつもりなの?」


「前々から言ってはいますけど、ミラエルツまでは欲しいかなぁって。

 鉱山都市、欲しいじゃないですか」


「分かるぅ!

 それにあの街は、僕とアイナちゃんが出会った思い出の街だからね……。

 うん、あそこは絶対に頂こうよ!」


「で、それ以上の領土はさすがに望み過ぎかな……と言うことで。

 最終的にはその辺りになるように、ファーディナンドさんが上手くやってくれると思いますよ」


「あの人も、結構な実力者だからね……。

 でもヴェルダクレス王国が、すんなり領土を明け渡してくれるわけも無いよね?」


「大きな戦いになるか、他の国から圧力を掛けてもらうか……。

 でもそこは、ファーディナンドさんにぶん投げていますから♪」


「あはは、適材適所だねぇ♪

 それじゃ、必要があれば僕も手伝うことにするよ。

 戦争なんて、起こさないのが一番だしさ」


「ありがとうございます!

 これから来るだろう冷害対策もしてもらっていますし、ファーディナンドさんにはお世話になりっ放しですね!」


「お世話と言うか、あの人が王様になるんでしょ?

 それなら別に、押し付けておけば良いんじゃない?」


「あ! それもそうですね!」


「ぶっ、アイナさんもひどーいっ!!」


「ははは。未来の王様には、たくさん頑張って頂くことにしましょう」



 ……そんな話を、みんなで笑いながら進めていく。

 まだまだ問題は山積みだけど、少しずつでも、私たちは確実に前に進んで行かなければいけないのだ。



「あ、そうだ。

 これは割とどうでも良い話なんですけど……」


「はい? どんな話です?」


「実は明日、私の転生記念日なんです!

 ついに5年目に突入するんですよーっ」


「おぉー!」


「あ、そうなんだ? おめでとう!!」


「……つまり、私とアイナ様が初めて会った記念日でもありますね」


 流れるように割り込んできたルークの言葉に、ジェラードは途端に不満な顔を見せる。


「ぬぅ……。

 ルーク君、ずるい……!!」


「ははは。こればかりはジェラードさんには負けませんからね」


「ぐぬぬ……」


 過去に戻らない限り、出会った順番と言うものは変えようが無い。

 だから私と知り合った順番を競うのであれば、ジェラードは一生を掛けてもルークには勝てないことになる。


「あはは♪ 順番はともかく、これからもみんなにはずっとお世話になりますよー。

 ……そんなわけで、そろそろジェラードさんの神器も作ろうかなって思うんです」


「ぶぇっ!?

 あ、アイナちゃん!? どんなわけなの!?」


「え? あれ、ダメですか?」


「いや、嬉しいけど!!」



 ……『そんなわけ』。

 まぁ、ゼリルベインとの戦いも控えているし、悲しい感情もいくらか薄まってきたし……。

 あとは私の転生記念日、って言うのが一番大きいのかな?



「ジェラードさんが神器を持って、戦いに加われば……これはもう百人力ですね」


「きっと百人力どころじゃないですよーっ!

 えへへ、ゼリルベインとの戦いも大丈夫になりそうですよね♪」


 エミリアさんの言葉は楽観的にも聞こえるが、しかし『大丈夫』にするために神器を作るのだ。

 神器を作るのはジェラードとの前々からの約束ではあるけど、今は何より、ゼリルベインを討伐しなければいけないからね。


「でもさぁ……、ちょっと、ドラマが足りなくない……?

 ……いや、作ってもらえるのは嬉しいけど……」


「ドラマ……?

 と、言いますと?」


「神剣アゼルラディアは、光竜王様と初めて会ったときに作りましたね。

 そのあと、私たちは国王暗殺の冤罪を掛けられてしまいましたが……」


「神杖フィエルナトスは、ヴェルダクレス王国との戦争中でした!

 アイナさんが啖呵(たんか)を切って、そのまま敵を押し込めてやりましたよね!」


「神煌クリスティアは……、私がダリルニア王国に囚われていたときですか。

 苦し紛れの、逆転の一手でしたけど……」


「そうそう、そんな感じ!

 だからさ、僕の神器……。何でもない日にちょちょっと作るのって、何だかアレじゃない!?」


「はぁ……。

 気持ちは分かりますけど……」


「だから!

 僕は何か、シチュエーションを所望しますっ!!」


 ……語尾が丁寧語になる辺り、ジェラードの本気を感じてしまう。

 とんでもなく違和感はあるけど……。


「うーん……。

 それじゃ、何か考えておきますよ。シチュエーション……ですかぁ……。

 でも、折角なら明日に作りたいなぁ……。ほら、私の……5年目……」


「ぬぅう……。

 僕にとって、アイナちゃんの希望はすべてにおいて優先される……ッ!!

 おっけー、明日までに何か思いついたらお願い……、くらいでッ!!」


「わ、分かりました……。

 逆に、ジェラードさんの方から要望はありませんか?

 作る神器はもう決まっているので、それ以外で……」


「……あ!

 ちょっとね、出来たら良いなーって思っていたことがあったんだ!

 可能なら……程度で良いんだけど、ちょっと調べてみてくれないかな!」


「ふむ? それって一体、何ですか?」


「えっとね――」



 ジェラードの要望は、私にとっては予想外のものだった。

 彼の神器らしい、と言えば、確かに彼の神器らしい。


 しかしそんなことが、果たして出来るものなのか――

 ……どちらかと言えば追加の要件だし。


 うぅーん。ここは一旦、英知さんに質問してみることにしようかな……。

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― 新着の感想 ―
[一言] なんだ?性転換できるようにとか? いや、冗談だけれど。 でもさ、ジェラードが色仕掛けもできるようになったら、無敵じやない?
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