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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第13章 神々の空へ
746/911

746.ヴィオラさん②

 ヴィオラさんと別れたあと、私はセミラミスさんの部屋に向かった。

 今回は直接お話が出来たことだけ伝えて、引き続き私が様子を見ることになった。


 次は明日になるのかな

 少し遅くなったけど、これからエマさんのお見舞いにも行かなきゃいけないからね。



 急いでエマさんのお見舞いに行くと、彼女の体調は昨日と同じような状態だった。

 今日は雑談をすると決めていたから、難しい話は一切無し。


 話をしていて、エマさんは私と同じ世界の出身だと言うことが確定した。

 そもそもの趣味が全然違ったから、あまり話は合わなかったけど――

 ……しかし一般的なことであれば、同じ知識を共有していた。


 私は同郷の仲間は特に要らない……とは思っていたけど、昔の話が出来ると言うのは、想像以上に楽しいものだった。

 タナトスとも出会いが違えば、もっとこんな話が出来ていたのかもしれない……。

 ……まぁ、今さらなんだけど。


 それなりに話をしたところで、また明日に来ることを約束してから、私は帰ることにした。

 雑談ばかり……と言うことをエマさんが気にしてしまったので、明日はまた別の話をすることなった。

 それなら、私も聞きたいことをしっかりまとめておこうかな。


 ……悲しいことを言ってしまえば、エマさんはいつまで生きていられるかが分からない。

 それこそ明日にでも死んでしまうのかもしれないのだから、聞けることは早目に聞いておかないと……。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 夕食後、私は自分の部屋でくつろいでいた。


 今はリリーとミラも一緒だ。

 でも、このあとはまたセミラミスさんの部屋で作業があるらしい。


「二人って、とっても働いてくれてるよね……。

 今はどんなことをやってるの?」


「えっとねー。

 私は、はわわのお手本通りにお絵描きをしてるの!」


 『はわわ』と言うのは、リリーがセミラミスさんを呼ぶときの名前だ。

 そろそろこれ、注意をしても良いのかなぁ……。

 でも、本人たちは気に入っているみたいなんだよね……。


「……って、お絵描きをしてるの?」


「なの!

 何か、不思議な文字……らしいの!」


「へー……?

 魔法用の文字とか……なのかな。

 ミラの方は何をしてるの?」


「私はセミラミス様の指示に従って、いろいろな言葉を書き連ねていますわ。

 呪文に最適な構成を探す……と言っておられました」


「ほほー……。

 うーん、私には分からないなぁ……」


「私も分からないの!」


 リリーは笑顔で言い切った。

 もしかしたら、私と『分からない』と言うところで一緒だから……なのかもしれない。


「ヴィオラさんがいれば、本来はもっと効率的に出来る……とも言っておられましたわ」


「なるほど……?

 少し、泥臭い作業なのかな……」


「泥ー?

 ママー、たまには泥遊びもしたいのーっ」


「え? は、話がすっ飛んだね……。

 んー、そうだねぇ。もう少し、暖かくなったらかなー」


 季節は春になった頃……ではあるが、グリゼルダがいなくなった影響か、やはり寒さが出てきた気がする。

 凍て付くほどでは無いが、さすがに泥遊びは控えておきたいところだ。



「ところで、セミラミスさんの部屋には何時くらいに行くの?」


「今日はやることがあるって言ってたから、それが終わってからなの!」


「やること?」


「はい、研究の重要なところだそうで……。

 慎重にやる必要があるからと、私とリリーは休憩させて頂いているのですわ」


「あ、そうなんだね。

 セミラミスさんも、頑張ってくれてるなぁ……」


 ……彼女は今、かなり必死にやっているはずだ。

 何せグリゼルダから、多くのことを託されてしまったのだから。


 それに加えて、今回の戦いは彼女の目指すところへの第一歩。

 戦いの先には、水竜王になるための道が待っている。

 ……いや、待ってはいないか。セミラミスさんがこれから、一歩ずつ切り開いていくのだから……。



 トントントン。



 不意に、扉がノックされる音が聞こえてきた。

 扉を開けると、そこにはセミラミスさんが立っている。


「あ、セミラミスさん」


「お邪魔します……!

 私の作業が終わりましたので……、二人をお迎えに来ました……」


「だってさ、二人ともー」


「なの! はわわの部屋に行くの!」


「あ、リリー! 私も行きますわ!」


 リリーとミラは、争そうようにしてこの部屋から出て行ってしまった。

 この辺り、難しいことはやっていてもさすがに子供か……と思ってしまう。


「それではセミラミスさん、二人のことをお願いしますね」


「かしこまりました……!

 ……ところでアイナ様、お願いがあるのですが……」


「え? 何ですか?」


 思い掛けない、セミラミスさんからのお願い。


「……実は先ほどまで、シェリルさんから託された水晶玉の……解析を行っていたんです……」


「ああ、虚無属性の発動情報を書き込んだって言う……。

 ……もしかして、上手くいっていなかったんですか……!?」


 水晶玉は、シェリルさんが命を賭して遺してくれたもの。

 まさか、記録に失敗していたなんてことが――


「……あ、いえ……。

 そうでは無くて……あの、一番最初のところに、おかしな文章があって……」


「おかしな……?」


「『デナ・ダラ・ゴルレモーラ・グライブ』……。

 そんな文章が、一番最初に記録されていたんです……」


「……んん? 何語ですか……?」


「分かりません……。

 文字自体は私たちが使っているものだったのですが……、単語からして全然違っていて……。

 ……言語と言うか、暗号なのかも……?」


「発動情報の一部……だったりはしないんですか?」


「最初のその部分は……、全体的な情報を記録するところでしたので……。

 ……だから、発動情報とかでは……、無いとは思うのですが……」


「ふむ……?

 えっと、それで私はどうすれば……?」


「はい……。

 研究自体は進めることは出来るのですが、少し心配になってしまって……。

 ……だから、ヴィオラさんに……心当たりが無いかだけ、聞いてもらえないでしょうか……」


「ああ、そう言うことでしたか……。

 分かりました。……えっと、もう一回、言って頂けます?」


 さっきの流れで、さすがに一発で覚えられるほど記憶力は良くない。


「……と、思いまして……。

 メモを持ってきました……!」


 そう言いながら、セミラミスさんは小さな紙を渡してくれた。

 そこには綺麗な文字で、先ほどの謎の文章が書かれている。


「……ん、分かりました。

 それじゃ、ヴィオラさんに聞いてきますね」


「お、お願いします……。

 私も、行った方がよろしいでしょうか……」


「ああ、大丈夫です。

 みんなに迷惑を掛けてるときって、みんなの顔が見にくいものなんですよ。

 ……私も、そうでしたから」


「わ、分かりました……。

 それでは、よろしくお願いします……」


「はーい!

 それじゃ、セミラミスさんは部屋で待っていてくださいね!」


「はい……!」



 ……時間は夜。

 でもセミラミスさんは急いでいたし、こんな時間ではあるけど、ヴィオラさんのところに行ってみることにしよう。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 トントントン。



「ヴィオラさーん。起きてるー?」


 日中と同じように、私は扉の前からヴィオラさんに呼び掛けた。

 これからはすぐに出て来てくれる……とは言っていたものの、もしかしたらもう寝ているのかもしれない。

 そうしたら、今日は素直に諦めることにしようかな。


 しかしヴィオラさんはまだ起きていたようで、しばらくすると出てきてくれた。



「おー……、アイナじゃん。

 こんな時間に、どうしたんだ……?」


「ごめんね、寝てた?

 ちょっとゼミラミスさんが聞きたいことがあるって……。

 で、私はその中継役……みたいな感じ」


「ああ……、セミラミスにも迷惑を掛けているからな……。

 すぐに分かることくらいなら……まぁ」


「ん、ありがと。

 えっとね、『デナ・ダラ・ゴルレモーラ・グライブ』……って、何のことか分かる?」


「はぁ……?

 えぇっと、『左側、下から7番目の手紙』……だろ?」


「え、分かるの!?

 セミラミスさん、こんな言葉は見たことが無いって言ってたけど……」


「そりゃ、俺とシェリルが作った暗号だからな……。

 ……ん? あれ? ……どうしてセミラミスが、その暗号を知っているんだ?」


「シェリルさんが遺してくれた水晶玉の……一番上の方に、記録されていたみたいだよ」


「シェリルの……?

 『左側、下から7番目の手紙』――」


 ……ヴィオラさんは少し考えたあと、ハッとしたような顔をしてから部屋の中に駆け込んでいった。

 入り口からその様子を見ていると、彼女はタンスから大きな箱を取り出して、急いでそれを開けていた。


 ……その中にあったのは、手紙の束。

 ヴィオラさんは慌てて数えながら、ひとつの封筒を手に取り、両手でそれを握りしめた。


 そんな光景を見ているうちに、私の足は自然とヴィオラさんの方へと向かってしまう。



「……ヴィオラさん、それって……」


「俺が……、俺がシェリルに出した手紙なんだ……!

 シェリル、返事は全然くれなかったけど、もしかして……!!」


 ……しかしヴィオラさんは、その封筒を開けようとしない。


 もしもそこに何も無ければ……。

 そう思うと、恐ろしいものがあったのだろう。


「……きっと、大丈夫だよ」


「そ、そうかな……。そう……だよ、な……。

 それじゃ……」


「ん」


 ヴィオラさんは静かに封筒を開けて、中から便箋を取り出した。

 それを見た瞬間、ヴィオラさんの目には、見る見るうちに涙が溜まっていく。


「……っ!!

 これ……。これ!! シェリルの手紙だ……っ!!

 な、何だよ……。全然返事をくれないと思ったら、こんなところに隠していやがったのかよ……!!」


 ……そのまま便箋を抱き締めるヴィオラさん。

 私は途端に、この場所にいるのが申し訳なくなってしまった。


「……私、戻るね。

 何かあったら、呼んでね」


「お、おう……。

 ……うん……、ありがとな……」


 私は音を立てないように部屋を出て、そして静かに扉を閉めた。



 ……まさかこんなルートで、シェリルさんの遺言の場所を知ることになろうとは。

 でもこれがきっかけで、ヴィオラさんも立ち直ってくれると……嬉しいな。

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― 新着の感想 ―
[一言] ちゃんと、お別れできたらいいな
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