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夜は予定通り、ルークとエミリアさんと一緒にお話をすることになった。
ジェラードは残念ながら、彼の諜報部隊の方に顔を出しに行っている。
しばらくこの街を空けてしまっていたから、早目に情報を共有しておきたかったらしい。
「……と言うわけで、ジェラードさんは不在です」
「ジェラードさん、またいない……」
エミリアさんは、仕方の無さそうに笑った。
「ははは……。
きっと、私たちがそれだけ信頼されている……と言うことですよ」
ルークはエミリアさんに、そんなフォローを入れている。
確かにそれもその通りで、ルークとエミリアさんは、ジェラードの厚い信頼を既に得ているのだ。
「まぁ、ここでお話した内容はジェラードさんにも共有しておきますから。
内緒話は、内緒話のままにしておきますけど」
「はーい。それじゃ、お話していきましょー」
エミリアさんはウキウキと、改めて開始を宣言した。
「えぇっと……。
私はジェラードさんと一緒に、グリゼルダのお墓参りに行ってきました。
そのあとはエマさんに会って、いろいろと話を聞いてきましたよ」
「エマさん、大丈夫そうでした?」
「うーん……。ちょっと、私の錬金術では難しそうなので……。
……ただ、普通にお話は出来ていたかな」
それがいつまで続くのかは分からない。
でもひとまず、今日はそんな調子で終わってくれていた。
「なるほどです……。
それでエマさんのお話は、セミラミス様のお話とは違う感じでしたか?」
「全然、違う内容でした。
転生者の話が多かったんですけど――」
……私にとっては重要でも、二人にとってはそこまで……と言う内容もあった。
だから今回は、他の転生者はもう存在しない旨を中心に、二人には伝えることにした。
「ふむ……。
すると、転生者の襲撃はもう考えないで良いのですね……」
ルークは安心したように呟いた。
ある意味、この中では転生者たちと一番の関係があるのかもしれない。
何せルークは、騎士を率いて街の防衛に当たらなければいけない立場だからね。
「少しくらいは、気楽になれるよね」
「転生者の人たちって、想像が付かないことをしてきますからね……。
急にお屋敷の中に入ってきたり、容赦なく街壁を壊して入ってきたり……」
エミリアさんも、明るい感じで話を続けてくる。
でも何だか、エミリアさんの今の台詞って――
「……それ、人のことを言えませんよね……」
「「え?」」
私の言葉に、ルークとエミリアさんは聞き返してきた。
「いやぁ……。
だって私も、王都の錬金術師ギルドの副マスターさんのお屋敷を襲撃しましたし……。
そもそも王都には、みんなで街壁を壊して思いっ切り入って行きましたよね……?」
「あぁー……、そう言えばそうですね!
私も言ってて、『あれー?』とは思っていたんですけど。……てへ♪」
少し照れながら、エミリアさんは笑った。
改めて振り返ってみれば、私たちも厄介なことをしてきたのだと思う。
……でも基本的に、相手が全部悪かったわけだし……?
「まぁそんなわけで、街を守る方は少し楽にはなりますよね。
ゼリルベインも、しばらくは襲っては来られないでしょうし」
「あとの懸念としては、ヴェルダクレス王国でしょうか。
最近また政治情勢が悪化したらしく……。内乱も相当、多くなっているそうですよ」
「どんどん増えていくねぇ……。
オティーリエさん、まだ死なないでくれると助かるんだけど……」
正直、ヴェルダクレス王国がダメダメになっているのは、マーメイドサイドの発展の一助になってくれている。
有能な人材が、何だかんだでこっちに流れてきているわけだからね。
……そう考えると、私たちの方にも領土をもっと分けてもらいたくなってしまう。
私たちはまだ建国をしていないから明確には言えないけど、やっぱりミラエルツまでは欲しいかなぁ……。
そうすれば、海の向こうに輸出するラインナップが充実する。
それに、この街で作る武器の質も上がるだろうし――
「……うーん。
私としてはやっぱり、いろいろと思うところはありますね……。
オティーリエ様のことは、もうどうでも良いんですけど」
これは私の台詞……では無く、エミリアさんの台詞だ。
エミリアさんも以前と比べれば、なかなか言うようになってしまった。
ここら辺、私っぽい言い回しが移ってしまったと言うか。
「エミリアさんにとっては、王国の中心――王都はずっと、育ってきた街ですからね。
それに、知り合いもたくさんいるでしょうし……」
「そうなんですよーっ。
でも最近、この街で再会を果たすこともあるんですよ。
今日も知り合いの方とお会い出来ましたし!」
「おぉー! それは良かったですね!」
……ただ、話を聞いてみるとそれは普通の人だった。
残念ながら、今後の戦力になるような人では無い――
……って、そう言う話では無いよね。
再会できたこと自体が素晴らしいことなのだ。
だからここは、素直に喜ぶところなのだ。
「とにかく、この街の防衛計画は少し楽になりそうです。
至急と言うことでなければ、ゆっくりと確実に作っていけば良いのですから」
雑談が進む中、ルークが良い感じで軌道修正をしてくれた。
「そうだねー。
ところで、ルークの方は? 騎士団に行っていたんだよね?」
「はい。第一、第二騎士団と情報共有を行って参りました。
ファーディナンドさんの方からも、手厚い予算が出る話を頂いていて――
……と言う話は、今は置いておきますか」
「そこら辺は完全に任せているからね……。
もし言い難いことがあれば、私が代わりに伝えてあげるからね」
「ありがとうございます、今は大丈夫ですのでご安心ください。
それ以外には――……特に、有用な情報はありませんでしたね」
「ふむ……。
ま、大体の情報は私たちの方が持っているからね……」
襲ってきた本人たちと一番話しているのは、私たち。
彼らを知っている人物――グリゼルダやセミラミスさんと一番話しているのは、私たち。
だからもう、むしろ私たちが情報を上げる側になってしまっているのだ。
「さて、私はそんな感じでしたが……。
エミリアさんの方はいかがでしたか?」
「特に、何もありませんでした!」
無いんかーい!
……と言うツッコミは、私の頭の中だけにしておこう。
魔法師団は騎士団よりも体制が全然出来ていない。
だからこの辺りを求めてしまうのは、実はかなり無理があるところなのだ。
「まぁ、魔法師団は実戦部隊ですからね……」
「そうなんですよー。
研究とかもやってみたいんですが、そもそもそこは魔術師ギルドの領分ですし……。
……あ、そうだ。研究と言えば、セミラミス様がいろいろ始めたそうですね!」
「それ、夕食のときに出た話ですよ……」
「むむ、そうでしたっ!」
ちなみにその最中、リリーとミラにはセミラミスさんのお手伝いをお願いしていた。
二人も結構乗り気で、今後は可能な限り手伝うことになっていた。
……関連で、ヴィオラさんはまだ部屋から出て来てはいなかった。
今日はもう遅いから、明日にでも話をしてみることにしようかな。
……話せるかな? ちょっと不安……。
「――さて、今日はそんな感じですかね?
少し疲れちゃいましたし、早いですけどもう終わりますか?」
「そうですね。特に議題が無ければ、それも良いかと」
「私も了解でーす。
何事も無いときは、さっさと寝ることにしましょう♪」
……そんな感じで、今日の話し合いは終了。
特に盛り上がるところも無かったけど、最近みんな、疲れているからね。
神器で癒せない部分は何とか各自で癒して、早々に次の段階に向かわないといけない。
次の段階……。
私にとってはまず、それはヴィオラさんの復活……になるのかな。
いろいろなことは、何だかんだで全てが関連し合っている。
ゼリルベインを倒すという大きな目標を達成するために、私たちは1つずつでも、着実に物事を進めていかないといけないのだ。




