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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第13章 神々の空へ
743/911

743.エマさん②

 エマさん。


 タナトス。


 ヒマリさん。


 ベルフェゴール。


 ショーコさん。


 タケル。



 ――これが、ゼリルベインが生み出してきた転生者たち。


 なるほど、確かに6人いる……。

 エマさんの言う通り、転生者の人数は、神様の人数と同じになっていた。


 ちなみにゼリルベイン本人は、そもそも転生者を生み出す力は無かったそうだ。

 だからこそ、7人ではなく6人――



「……それに加えて、絶対神アドラルーン様の転生者である私……ですか?

 と言うと、この世界にはもう、転生者はいない……?」


「はい、そのはずです。

 また時代を経て、世代が変われば、再度生み出すことは出来るそうですが……」


 昔の話で言えば、コジローさんの故郷の祖先が転生者……という話もあった。

 そんな感じで、時代が変われば話はきっと別になる。

 しかし、今この時代の転生者としては打ち止めになるのだろう。


 ……つまり、私とエマさんが最後の転生者。

 そう言うことになってしまうのかな。


「少し、心配だったんですよ。

 ゼリルベインをここまで追い詰めましたけど、また新しい転生者をけしかけられないかな……、って」


 でもこのまま、ゼリルベインが手の者を送り込めないと言うのであれば……、私は遠慮なく、神器を作ることが出来る。

 次の戦いに向けて、ジェラードの神器を作ることが出来るのだ。



「……ひとつだけ。絶対神アドラルーン様の場合は例外のようでした……。

 時間を空けずに、同時に何人も送り込める……と言う話で」


「え。

 そ、それならもっと送り込んでくれれば良かったのに……!!」


 きっと絶対神アドラルーン様は、ゼリルベインとの戦いのために転生者を……私を生み出したはずだ。

 それなら私ひとりだけではなく、もっとたくさんの転生者を生み出してくれれば良かったのに……?


「実は、絶対神アドラルーン様は何人かを転生させていたそうなんです……。

 でもゼリルベインは5人ほど、殺したと言っていました」


「……は?」


「私には良くは分からないのですが……。

 この世界に突然、歪な強さを持つ者が現れると、それを察知出来たそうです」


「な、何それ……?

 え? 歪な強さ……?」


「転生者と言うのは、この世界には突然現れますよね……?

 常人とはかけ離れた力が、突然この世界に現れるのです。

 そこに不自然さを感じることが出来る……、そうで」


「ふむ……」


 エマさんは私に説明をしようとするが、彼女自身も良く分かっていなさそうだった。

 確かに神様の感覚なんて、理解する方が難しいだろうからね。


「……世界の架け橋。

 この世界と、私たちの世界の接点……。

 そこを監視することで、ある程度分かるそうなんですが……」


「……なるほど、凄いですね……。

 って、あれ? でも私、ゼリルベインにはずっと襲われてきませんでしたけど……」


「アイナさんの場合は、その……。

 ……戦闘力としては、弱かったので……、はい」


「え、えぇーっ!?

 そう言う理由なんですかーっ!?」


 ……いや、逆か。

 戦闘力を高くすると殺されてしまう。

 だから絶対神アドラルーン様は、私を弱いまま転生させたのだ。


 でも本当に弱いだけだと何の役にも立たないから、普通の強さとは少し違う、技術職のスペシャリストを生み出そうとしていた……。

 ……それが、錬金術師。


「今でこそ、アイナさんはゼリルベインと戦うほどに強くなりました……。

 でもそれは、この世界で得た力……ですよね?

 さすがにゼリルベインも、そう言うのは見つけることが出来ない……とボヤいていました」


「はぁ……。なるほど……」


 ……何だかもう、絶対神アドラルーン様の手のひらで転がされていた気分しかしない……。

 実際のところ、ゼリルベインのことは結構なところまで追い詰めているし……、ことは理想的に進んでいる、のだろうか……。


 そう考えると、最初から全部教えてよー……とも、なかなか言い難いところになってしまうか。

 教えてくれなかったからこそ、今があるわけだし……。

 でも、かなり運が良かったんだろうなぁ。……私も、絶対神アドラルーン様も。


 ……逆に言えば、ゼリルベインとしては運がかなり悪かったことになるのだろう。

 (から)()で生み出されたような私に、自身の存在がかなり脅かされてしまっているのだから……。


「だからまた、また別の転生者が……。

 絶対神アドラルーン様の転生者が、アイナさんのところにひょっこりと現れる可能性もありますよ」


「でももう、そう言うのはいないので慣れちゃってますからね……」


 ……転生者だからって、気が合うとは限らない。

 それに最初こそ懐かしい話は出来るだろうけど、ずっとそんな話をしているわけにもいかない。


 だから別に、私はどうしても同郷の仲間が欲しい……とは思っていなかった。

 案外さばさばしているとは思うけど、そもそもそう言う仲間が欲しいのであれば、もう少しタナトスにも執着していただろうしね。


「アイナさんには、この世界に仲間がたくさんいますから……。

 きっと、寂しくは無いのかもしれませんね。

 でも、それこそがアイナさんの頑張ってきた証……なんだと思います」


「えへへ♪ そう言って頂けると、やっぱり嬉しいですね♪」


 良いことも悪いことも、嬉しいことも悲しいことも、しあわせなことも不幸なことも。


 この世界ではいろいろな出来事があった。

 だからこそ、私はこの世界には愛着を持っている。

 だからこそ、この世界を滅ぼさせたくは無い――



「……ごほっ、ごほっ……。

 ……す、すいません……。少し、話し過ぎてしまいましたね……」


「あぁーっ! こちらこそ、すいません!

 体調、しんどかったですよね……!?

 薬をいくつか置いていきますので、先生と相談しながら飲んでみてください……!」


 ……さすがに一発で治らないのであれば、その辺りはエマさんを診てくれている先生に委ねたかった。

 私が横からあーだこーだ言うと、ややこしいことになっちゃいそうだからね。


「ありがとうございます……。

 ……あとは、何か伝えなくちゃいけないことはあったかな……」


 エマさんは引き続き、頭を動かしてしまっている。

 少ない時間で何を優先させるか。

 しかしそこで悩まさせると言うのも、少し本末転倒のような気がしてしまう。


「今日はもう、大丈夫ですから。あんまり無理はしないでください。

 また明日、お見舞いに来ますから」


「……あ、そうですか?

 分かりました、お待ちしてますね……!」


 エマさんはそう言うと、私に向かってにっこりと微笑んでくれた。

 今日は出来なかったけど、明日はもう少し楽しい話をしても良いかもしれない。


 病床にいるとき、真面目な話ばかりだと気が滅入ってしまう。

 真面目な話は必要ではあるけど、それだけである必要も無い。


 ……明日は何の話をしようかな。

 今日のうちに、ネタ出しくらいはしておくことにしよっと。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「お疲れ様♪」


 私がエマさんの部屋から出ると、ジェラードが明るい声で話し掛けてきた。

 テレーゼさんのときと同様、今回も気を遣って、部屋の外で待ってくれていたようだ。


「……いや。入ってくれば良かったのに」


 第三騎士団の団員たちは別として、ジェラードの一人くらいなら別に問題は無さそうだし……。

 今回は結局、最初から最後まで、エマさんは私としか会っていないような形になってしまっていた。


「うーん、僕が会ってもね……。

 むしろ向こうの方が、やっぱり気を遣いそうだし……?」


「そうですかね……?」


 ……まぁ、そうなのかな。

 エマさんからすれば確かに、突然変な色男が来襲してしまう形になるわけだし……。


「それで? 良い話は出来た?」


「はい、真面目な話だけになっちゃいましたけど……。

 でもまた明日もお見舞いに来て、そのときは別の話もしてみようかなー……って」


「彼女も、この街には知り合いはいないだろうしね。

 きっと喜んでくれるよ」


「……あ、そっか。

 唯一の知り合いの、ゼリルベインがいなくなったわけですから……」


 ……ゼリルベインは敵、である。

 しかしエマさんにとっては、つい先日までは仲間だったのだ。

 いや、仲間と言うか……、加護をくれていた主……だけど。


 ただ、良くも悪くも、エマさんにとっては圧倒的な存在だったはずだ。


 それが突然いなくなって……。

 この世界での後ろ盾が、突然無くなってしまって……。


 ……そう考えると、彼女は今、とても不安であるに違いない。

 それに加えて、もう治らないような障害を身体に負ってしまったわけだし……。


 いくら転生者だとは言っても、精神的には案外未熟なものだ。

 何せ元々、普通の人間が転生をして来ているのだから……。



「……それじゃ、アイナちゃんが支えてあげないとね♪」


 私の顔に、その辺りの不安が出てしまったのだろうか。

 ジェラードは優しく、そんなフォローをしてきてくれた。


「……そうですね!」



 エマさんは奇跡的に、生き残ってくれた。

 しかし、いつまで生きられるのかは分からない。


 それならせめて、生きてくれている間くらいは……。

 ……明るい気持ちでいられるように、私も何とかしてあげないといけない……、よね。

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[一言] おおぅ、意外な真実が
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