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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第13章 神々の空へ
741/911

741.海を眺めて

 ……第四の神器が、現実のものになってきた。


 と言うか、素材はもう揃っている。

 だから今にでも作ることは出来るんだけど、果たして今作っても良いのだろうか。


 神器を作れば、『世界の声』がそれを世界に伝えてしまう。

 ゼリルベインがそれに反応して、早々にちょっかいを出してきても困るのだ。

 ……本人が動けなかったとしても、例えば転生者がまだ残っているとか……。


 その辺りについてはみんなで相談をして、エマさんに話を聞いてみよう、と言うことになった。


 エマさんはゼリルベインと一緒に、この世界にやってきた。

 つまり彼女は、ゼリルベインの転生者たちを全員知っているはずなのだ。


 ……そんなわけで、話し合いは一旦解散。

 各自それぞれ行動をしてから、再び夜に話し合いを持つ予定だ。



 このあと、私はジェラードと一緒にグリゼルダのお墓に行くことにした。

 ルークは騎士団の方をまわるらしい。

 エミリアさんも、それならばと魔法師団の様子伺いに。


 今日は情報収集って感じになるのかな?

 ……私も、お墓参りのあとにはエマさんを訪ねることにしよう。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「アイナさあああああああああんっ!!!!」


 お屋敷を出たところで、大きな声が響いてきた。

 どこからどう聞いても、これはテレーゼさんのものだ。


「……あ、おはようございます」


「はい! おはようございますっ!!」


「わぷ!?」


 挨拶をしながら、テレーゼさんはそのまま私に抱き付いてきた。

 その抱き付くパワー、スピードは共に一級品だ。


「アイナさーんっ!!

 わーんっ、心配したんですよぉーっ!!」


 テレーゼさんは抱き付いたあとも、頬をぐりぐりと押し付けてくる。

 ……今までよりも、全体的にパワーアップしているような気がする。


「あはは……。

 すいません、ちょっといろいろ……ありまして」


 そう言うと、テレーゼさんは名残惜しそうにようやく身体を離してきた。


「……心中、お察しいたします……。

 グリゼルダ様……のこと、ですよね」


 私に引きずられてか、テレーゼさんも神妙な顔をしてしまった。


「……この1週間、私も塞ぎ込んじゃったんですけど……。

 でも、グリゼルダはそれを望んでいないかなって。

 だから、私は早く立ち直らないといけないかなって……」


「うぅ~……。

 アイナさん、ほどほどに……無理はしないでくださいね……」


「うーん、分かりました!

 無理しない程度に無理します!」


「えぇーっ、何ですかそれーっ!?」


 ……さすがに今は、無理をしなければいけない時だ。

 ただ、あまりに無理な無理は止めておこう。

 良い感じの無理までで、何とか頑張ることにしよう。


 ……何を言っているんだ、私は。



「……あの、すいません。これからちょっと出掛けるので……。

 テレーゼさん、毎日来てくれて、ありがとうございました。

 また今後、ゆっくりお話させてくださいね!」


「ふみゅ……、分かりました!

 美味しいお菓子を用意しておきますから、絶対に遊びに来てくださいね!」


「はい、是非!

 近々、また連絡しますので!」


「はーい! 楽しみにしてますっ!!」


 そんな約束をしてから、私はテレーゼさんと別れた。

 こんなときではあるけど、息抜きの時間くらいは必要だろう。

 メリハリって言うのは大切だからね。



「……っと、ジェラードさーんっ?」


 いつの間にか姿を消していたジェラードを呼んでみると、近くの木の影からひょっこりと出てきた。

 忍んでる……。ジェラード、とっても忍んでる……。


「終わった?」


「終わりましたけど、そんなところで何をしてるんですか……」


「いやぁ、テレーゼちゃんとは久し振りに会ったんでしょ?

 それなら僕は、お邪魔かなーって」


「そんな気を遣わなくても良いのに……。

 あれ? 第三騎士団の人たちは?」


「ああ、あっちあっち。

 みんな空気を読んでくれたみたいだよ!」


「そんな、全員で気を遣わなくても……」


 ……団員たちの足並みも、無駄に揃ってしまっているようだ。

 この辺り、ルークの指導の(たまもの)なのだろうか……。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 第三騎士団の団員には浜辺で待ってもらって、人魚の島には私とジェラードだけが渡った。

 この島は基本的に外敵は来ないから、護衛は要らないのだ。


 ……とは言っても、今まで最終的な監視はグリゼルダが行っていた。

 だから以前に比べれば、少しは危なくなってしまうだろう。


 マイヤさんを始め、すれ違う人魚たちの表情は暗い。

 自分たちを守ってくれていたグリゼルダの、突然の訃報。

 それを考えれば、当然のことなんだけど……。



 そんな中、私とジェラードはグリゼルダのお墓の前までやって来た。


 私は昨日、来たばかりだけど……。

 たった一日しか経っていないけど、何だかずいぶん久し振りな感じがしてしまう。


 ジェラードは途中で買ってきた花束を、お墓の前にそっと置いた。

 そして膝を付いて、目を閉じて祈りを捧げる。



 ……私はその間、遠くをふと眺めてみた。

 ここは島の中の小高い場所にあるから、海が良く見える。


 とても良い場所だ。

 せめてグリゼルダも、少しくらいは喜んでくれると良いんだけど……。




「――……アイナちゃん、大丈夫?」


「え……?」


 少しぼーっとしていると、祈りを捧げ終わったジェラードが話し掛けてきた。


「……涙、出てるよ……?」


 その言葉に頬を拭ってみると、確かにいつの間にか、涙が出てしまっていたようだ。


 特に悲しいとか、寂しいとか――

 ……いや、それはもちろんあるんだけど、今は全然意識をしていなかったのに……。


「ああ……、ごめんなさい……。

 やっぱりなかなか、切り替えが出来ないみたいで……」


 頭の中では切り替えたつもりではいた。

 いや、この場所に来るまでは切り替わっていた……とは思う。


 だから特に、問題は無い。

 ただ、ここに来たときくらいは、少しくらいなら泣いちゃっても良いよね。


「……うん。

 グリゼルダ様にはずっと、お世話になっていたからね……」


「……はい」



 私たちはそのまま、しばらく海を眺めて時間を過ごした。



 何をするわけでも無い。

 何を語るわけでも無い。



 冷たい風を浴びながら、それでもそんな時間が、私たちの悲しみを癒してくれるような気がしていた。

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[一言] 無理しないように無理する 結局無理する 誰かアイナちゃんに平穏を
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