740.朗報③
「――良かった! 無事で、本当に良かった!!」
ジェラードは私のところまでずかずかとやって来ると、そのまま私の手を取った。
最近私も誰かの手を握る癖が付いてしまったけど、相手から握られると言うのも何だか新鮮なものがある。
あまりの突然の展開に、ルークもいつものさりげない妨害は出来なかったようだ。
今回に限っては、ジェラードの勝ち……かな? ……珍しい。
「私たちは、何とか無事でした。
ただ、聞いているかもしれませんが……、グリゼルダが……その」
「……うん、報告としては聞いているよ。
凄い戦いを、みんなの力で乗り越えたんだよね……。
グリゼルダ様のことは、残念だけど……」
ジェラードは話しながら、涙目になってしまっていた。
やはり、かなりの心配を掛けてしまったようだ。
「……あとで、グリゼルダのお墓に案内しますね。
花束でも買って、お祈りを捧げてあげてください……」
「そうするよ……。
僕も、グリゼルダ様にはお世話になったから……」
ふとセミラミスさんに目をやると、彼女は突然の展開に少し困っているようだった。
そうそう、話の真っ最中にジェラードが乱入してきたんだよね。
「えーっと……。
セミラミスさん、これからどうしましょう?」
「そ、そうですね……。
少し、休憩にしますか……?」
私の言葉に、セミラミスさんも緊張をほぐして言ってきた。
「……あ、ごめん。
僕、感情のあまり、問答無用で入ってきちゃったけど……。
大切な話をしていたんだよね?」
「でも、区切りとしては結構良かったかも……?」
「そうですねー。
朗報を両方、ちょうど聞き終わったところでしたし」
私の言葉に、エミリアさんも同意をしてくれる。
2つの朗報を踏まえて、今後はいろいろと考えていくことになるのだ。
だから区切りとしては、一旦良かったのかもしれない。
「……朗報?
何か、良いことでもあったの?」
「今後の戦いに向けて……って言うところで。
ちょっと絶望的なところがあったんですけど、活路が見い出せた……と言いますか」
「へぇ……?
ねぇねぇ、その話、僕も混ぜてもらって良いかな。
みんなの最近のことも聞きたいしさ!」
「分かりました。
セミラミスさんも良いですか?」
「……はい、もちろんです……!」
こうして話し合いには、ジェラードも加わることになった。
ジェラードにはまず、今までの話を共有することにしよう。
そもそもジェラードの最近のことだって、私たちは何も知らないわけだからね。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「――マジか……」
そう言うと、ジェラードはソファーに体重を預けた。
そのまま天井を仰ぎ見ながら、しばらく何かを考えているようだった。
……まぁ、気持ちは分かるかな。
「突然、神様が襲ってきた……って言っても、ねぇ?」
「あはは。そうですよねー♪」
私はエミリアさんと、顔を合わせて笑い合う。
あまりに現実味が無くて、作り話だと言われても仕方が無いレベルの話だからね。
「……でも、神様を追い払ったんだよね……。
グリゼルダ様のお力があったとは言え、グリゼルダ様だけでは無理だっただろうし……」
「逆に言えば、追い払うことしか出来なかった……とも言えます。
だから次は完全な勝利を収めて、グリゼルダにしっかり報いないと……!」
「うん……。
僕もあちこち行っていたけどさ、もうこの街を離れないから!
アイナちゃんも安心してよね!」
「え、本当ですか!?
ジェラードさんって、いて欲しいときに結構いませんし。ねぇ、アイナさん?」
「えぇー……。
それをこっちに振るんですか……?
でも確かに、今回はジェラードさんにいて欲しかったですね」
戦力もそうだけど、情報操作のところでは特に。
ジェラードは仲間の中でも、多方面に応用が効く人材なのだ。
「そう言ってもらえると嬉しいよ!
まぁ、間の悪さは自分でも自覚してるけどさぁ……。
でも、まさかこんなタイミングで……ねぇ?」
「いろいろと性急な展開でしたからね。
……あれ? そう言えばジェラードさんは……もうどこにもいかないでも、大丈夫なんですか?」
行動範囲が売りのジェラード。
そして今は、彼の神器用の素材を探していたはず――
「……あ!!」
「わぁっ!?」
突然、エミリアさんが大きな声を出してきた。
何事!?
「アイナさん!!
『神々の空』に行く、四人目がいたじゃないですか!!」
「四人目……。
……あ、ジェラードさん?」
「んん? えーっと……?」
この辺りのことは、ジェラードにはまだ話していなかった。
伏せていた、と言うよりも、まだそこまで話が進んでいなかっただけなんだけど。
「えっと、ゼリルベインを倒すために、行きたい場所があって……。
……まだ確証があるわけでは無いんですけど、そこに行くためには神器が要るかも……と言うことで」
「そうですね。
ジェラードさんがいてくれれば、百人力です」
ルークもやはり、ジェラードの戦力が欲しいようだった。
実際、ジェラードはかなり強いからね。
「そう言えばジェラードさん、神器の素材はどうなりましたか?
何か目途でも――」
……私の言葉に、ジェラードは顔に笑みを含ませた。
おや、これは……?
「実は! ついに、その素材を手に入れてきたんだよ!」
「え、本当ですか!?」
「わーっ、すごーい!」
「ほう……。やりますね……」
思わぬ朗報に、私たちは沸いてしまった。
突然のジェラードの帰還に加えて、突然の朗報。
これは良い流れが来ているのではないだろうか。
「ちなみに、どこで手に入れたんですか?」
「秘密っ!」
「え、えぇーっ!?」
「ジェラードさん!
その素材、見せてもらえませんか!?」
「別に良いけど……見た目は、本当に骨……だよ?
エミリアちゃんが見ても、別に……って感じじゃない?」
「まぁまぁ、そう言わずに!」
エミリアさんに押されて、ジェラードは彼のアイテムボックスから小さな包みを取り出した。
そしてそれを広げて、テーブルの上にそっと置く。
「……骨、ですね」
「だよね? これはもう、本当に骨」
「あはは……。
一応、鑑定してみますか?」
それ、かんてーっ
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【死霊使いの骨】
死霊使いの骨
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……うん、やる気の無い系の説明文だ。
でもそれ以外、きっと説明のしようが無いんだろうなぁ……。
「確かに、ずっと探していたものみたいですね……!
ジェラードさん、お疲れ様でした!」
「うん、ありがとう!
それじゃアイナちゃん、これは預けておくね。
作れるときにお願い!」
「はーい、分かりました!」
……それにしても、最後の素材は何だか楽に手に入っちゃったかも?
いやいや、きっとジェラードはかなり苦労して手に入れてきたに違いない。
その苦労は具体的には分からないけど、私たちがジェラードがいなくて苦労した分はきっと、苦労をしてきたはずだ。
……第四の神器。
本当だったら、建国のときに併せて作りたかったんだけど――
……でも、それよりも今は戦力だ。
タイミングを見て、早めに作ってしまった方が良いのかな?
今作っても良いんだけど、全世界に知られちゃうからね……。
……さぁて、どうしたものか。




