74.『なんちゃって神器』の剣
コンラッドさんの依頼を無事(?)終え、それから一週間は冒険者ギルドの依頼を順調にこなしていった。
今日も今日とて依頼の報告を終えて、今は冒険者ギルドの前で立ち話をしているところだ。
「はい、今日もお疲れ様でした。えぇっと……このまま宿屋に戻っても良いんだけど、ちょっとアドルフさんのお店に寄ってみません?」
「そうですね。私たちの滞在もあと三日というところですし……アイナさんの剣、そろそろできる頃ですかね?」
「すごい楽しみなんですよ! ……まぁ私は使えないんですが、でもオーダーメイドって心がときめきますよね!」
「あはは、分かりますよー。私もこの十字架、オーダーメイドしたものですけど、そのときはとても楽しみでしたし」
そう言いながら、エミリアさんは十字架を取り出して見せてくれた。
「おぉ……素敵な十字架ですね。ちょっとアクセサリっぽい?」
「あまり華美なものはダメですけどね、これくらいなら良いでしょう?」
「とてもさりげなくて良いと思います! ああ、そういえばアーティファクト系の何かも作ってみようと思ってたんだ。忘れてた……」
そんな言葉にはルークが反応した。
「そういえば最近、錬金術はされていないんですか?」
「うん、コンラッドさんの一件で何やら燃え尽きてしまって……」
「ああ……。そのあとがまたすごかったですもんね……」
守銭奴で有名だったコンラッドさんは、『性格変更ポーション』によって金払いのやたら良い貴族さまへと変貌してしまった。
翌日に突然発表された鉱山夫たちの賃上げが話題となり、ミラエルツもにわかに活気付いている。
具体的には、宿屋の食堂での酒盛りみたいなのが増えたかな。賑やかな場所がさらに賑やかになり、カオスな状態もちょこちょこ見ることができた。
「いや、でもまさかああなるとは……。そのきっかけを私が作ってしまったと考えると、ちょっと錬金術からは離れたくなってね……」
「しかしこれが好循環の始まりであれば、アイナ様の名前もずっと伝えられていくことになるでしょう。
現にオズワルドさんやガッシュさんたちは、アイナ様が何かやったのではとすぐに聞きにきましたし」
「そんなことで名前を伝えられてもなぁ……」
「どちらにしてもアイナ様はただのきっかけに過ぎないと思います。そんなに気に病まれなくても」
「そうですそうです。はい、ヒール」
何故かエミリアさんがヒールを掛けてくれる。
何ですかコレ、気休めですか?
「それにしても、あれからもう一週間も経ったんですね、何とも早いことで……。
ちなみに滞在もあと三日の予定ですけど、冒険者ギルドの依頼はいつまで受けます?」
「うーん、二日くらいはお休みでも良さそうですよね? 最後はいろいろ見て回りたいですし」
「私もそれくらいが良いかと思います」
「うん、それじゃ明日はまた依頼を受けて、明後日から二日はお休みと出発の準備に充てましょうか」
「はい」
「はぁい」
「ではそれで決定で! それじゃアドルフさんのお店へ行きましょー!」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「こんにちはー」
「いらっしゃい。お、アイナさんか」
私の挨拶を返してくれたのはアドルフさん。
いつものことながら、お客さんは一人もおらず。
「お久し振りです。剣の方はいかがですか?」
「おう、できあがってるぜ!」
そういうとアドルフさんは店の奥に行って、鞘に納められた剣を持って戻ってきた。
「さぁこれだ。どうだい、持ってみるかい?」
「はい!」
アドルフさんから剣を受け取ると――
「――重ッ!!」
剣の重さがまともに腕に圧し掛かって体勢を崩す。
一瞬後にその重さからは解放されたが、アドルフさんとルークが剣を支えてくれていたからだった。
「はっはっは、すまないな。でも、とりあえず最初は買い手のアイナさんに持ってもらいたかったんだ。
それに、剣の重みも分かったことだろう?」
新品のものは誰よりも先に触りたいのは確かに!
でも剣の重みは……分かる必要、あったかなぁ?
「よし、それじゃルーク。お前さんが持ってみてくれな」
「え? はい」
ルークは剣を受け取り、鞘から刃を抜いた。
その刃は白銀色に輝き、装飾と宝石(ガラス玉)がさりげなく、しかし美しく煌めいている。
「おお、これはかっこいい!!」
「……ふむ、これは素晴らしいですね」
「確かに確かに! 英雄っぽさがすごいですよね!」
「ははは、なかなかの大仕事だったぜ。でもたまにはこんな仕事もしないとな」
「想像以上です、ありがとうございました!」
「なんのなんの。それでな、一応一通りの説明をしておくからな」
「え? はい、お願いします」
アドルフさんは先日私があげた紙に剣の絵を描いて、説明を始めた。
「概ねのところは当初の話通り作ったから安心してくれ。
それでな、ちょっと挑戦したことがあって、それが成功したから伝えておくんだが――」
「挑戦?」
「ああ。まず、ここに魔石スロットを埋め込んでみた」
「へ?」
「神剣デルトフィングっぽいものとはいっても、さすがに神器じゃないしな。
それにそもそも魔法剣にも使えないナマクラ剣だから、これくらいは良いだろう」
「え、ええ。別にそれは問題無いんですが――」
「ちなみにスロットは5個付いたぞ!」
「「「えっ」」」
「いやぁ、成功するかどうかは10%くらいだったんだが、これには俺もびっくりだ。はっはっは!」
普通に使えない武器になんてものを付けてくれるんですか。いや別に困ることは無いから良いんだけど。
「ちなみに……神剣デルトフィングには、魔石スロットはありましたっけ?」
「いや、魔石スロットは付いていないぞ。話によれば神器の他の二つもそうらしい」
「へ、へぇ~……」
「まぁそれは賭けでやっただけだから良いんだが――」
ちょっとアドルフさん。金貨30枚のシロモノで賭けをやらないでください。
「他にもここに、宝石を埋める穴があるだろ?」
「はい。ひとまずガラス玉を入れてもらっている感じですか?」
「うん、今入れているのはガラス玉なんだけどな。そこも良い感じで魔力経路が繋がったから、ちょっと細工をしてみた」
「細工ですか? ぱっと見、特に何も変わったことはないような……?」
「装飾的にはな。本当だったらただの飾りにする予定だったんだが、そこはちょっと特殊な石を入れられるようにしておいたぞ」
「特殊な石?」
「魔力経路から魔力を取り込んで、そこで力を蓄積させるんだ。
簡単に言えば、川の途中に大きな池を作ったようなイメージかな。つまり刃自体により多くの魔力を宿せる、というわけだ」
「おお、良く分からないけどすごい……!」
「ただまぁ先日言った通り、神器と魔法剣は魔力の流れ方が違うから――魔法剣には使えないから注意してくれ」
「はい」
「ちなみに切れ味も最初に言った通り、しっかりナマクラになったからな。
いや、今回はここ数年で一番良い仕事ができたんだが――しかし戦闘では役に立たない剣で……とはなぁ……」
そう言いながら、アドルフさんは頭をぼりぼりと掻いて笑った。
いくら良い仕事が――持ち得る技術で最高の仕事ができたとしても、どこか腑に落ちないのだろう。
「――役立たないことなんてありません! いつかこの剣が、世界最強の剣になるんです!」
「うん……? そうかい? ま、期待しておくよ。アイナさんには何か目的があるみたいだしな」
「お任せください!」
もしもこの剣で神器を作ることができたなら、まずはこのお店に凱旋しよう。
ふふふ、そしてアドルフさんの驚いた顔をみんなで見るのだ!




