736.次
立ち直ることを決意したものの、一瞬にして全てが上手くまわり始めると言うことも無い。
ひとまずその日は、夕食をとって、一人で眠ることにした。
……たまにはエミリアさんも、解放してあげないとね。
この1週間、何だかんだで毎晩引き留めてしまったわけだし……。
同様に、セミラミスさんにもリリーとミラを預けっぱなしだけど……。
でもここは今晩だけ、もう一夜だけお願いさせて頂こう。
よくよく考えれば、私が本当に一人で眠ることなんて、最近はまるで無いのだから。
こんなときくらい、たまには気分転換をしても良いよね。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
……そして気が付けば朝だった。
時間はいつも時間。
神煌クリスティアを付けて寝ているから、疲れの方もばっちり取れている。
この辺り、神剣アゼルラディアや神杖フィエルナトスでは真似が出来ないことだ。
……いや、真似は出来るんだけど。
ただ、ベッドの中で剣なり杖なりを抱きかかえることになっちゃうんだよね。
――トントントン
いつもの朝食に出る時間、扉からノックの音が聞こえてきた。
「はーい」
返事をしながら扉を開けると、そこにはエミリアさんとルークが立っていた。
「おはようございます!
朝食の時間ですよーっ!」
「アイナ様、おはようございます。
体調はいかがですか?」
……この1週間、食事をするにしても自分の部屋でとっていた。
二人の気遣いは、その辺りもあるのだろう。
「エミリアさん、おはようございます。
ルークも、おはよう。
……大丈夫。今日からはちゃんと、食堂で食べることにするね」
「それなら良かったです!
準備は出来てますか? それでは行きましょー♪」
私たちはエミリアさんに続き、食堂に向かうことにした。
……食堂。
いやぁ、何だか凄く久し振りの気がしてしまうなぁ……。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
私たちが食堂に着くと、メイドさんが全員揃い、準備も完了していた。
その光景に一瞬怯むも、私は挨拶をしながら席に着く。
ちなみにメイドさんたちとは、昨日の夜に全員とは会っていた。
ルーシーさんはお休みだったみたいだったけど、わざわざメイド服に着替えてまで来てくれたし……。
たくさん心配を掛けてしまったから、たくさん謝った。
でも、謝るのはそれまで……と言うことにもなった。
だから、今日はもう謝らない。
今日はもう、元気に挨拶をするだけなのだ。
「みんなは……まだいないか。
他には――」
……あとはセミラミスさんとヴィオラさん。
リリーとミラの合計4人だ。
「セミラミス様と……リリーちゃんとミラちゃん。
まだ来ていませんね」
エミリアさんが、さり気なく教えてくれる。
ヴィオラさんだけ抜けているが、いつも来ていないことを暗に伝えてくれたのだろう。
……まぁ、私も他人のことは言えなかったんだけど。
「セミラミスさんは毎朝来ているんですよね?」
「はい。
……あ、来たみたいですよ」
エミリアさんの言葉に釣られて食堂の入口を見てみれば、セミラミスさんが慌てながらやってきた。
そして私を見て驚く。
「お、おはようございます……。
……あ、アイナ様!」
「セミラミスさん、おはようございます。
最近、塞ぎ込んでいてすいませんでした。
今日からは元通り! ……になるように頑張りますので、よろしくお願いしますね!」
「はい……!
……嬉しいです……っ!」
そう言いながら、セミラミスさんは自分の席を通り抜けて、私の横に来てくれた。
私は立ち上がって、静かにセミラミスさんの手を握る。
……何だかこれ、最近癖になっちゃったなぁ。
「これから、いろいろ頑張らなければいけないことがたくさんあります。
また、力を貸してください」
「はい……。はいっ!
もちろんです……! ……それで、あの……」
「はい?」
「早速なんですが……、朝食のあと、お時間をよろしいですか……?
……出来れば二人で、少しお話したい……です」
「あ、そうですか?
えぇっと――」
私はついつい、ルークとエミリアさんの方をちらっと見てしまう。
重要なことであるなら、この二人にも一緒にお願いしたいところだけど……。
……でも、敢えて『二人で』と言っているのだ。
それならひとまず、私だけが話を聞けば良いのかな?
「分かりました、それでは客室ででも」
「……はい!
それが終わりましたら……。えーっと、どうしましょう……」
そう言いながら、今度はセミラミスさんがルークとエミリアさんをちらっと見た。
「二人にも話があるようでしたら、待っててもらいますか?」
「よ、よろしいですか……?
……早めに、お話したいことがありますので……」
……セミラミスさんとしては、もっと早くに話しておきたかったのかもしれない。
でもそうさせなかったのは私……と考えると、やはりここでも申し訳なさが出てきてしまう。
そもそもセミラミスさんだって、グリゼルダの死はかなりショックのはずなのだ。
それなのに、彼女は完全に心配する側に立っていたわけで。
「分かりました。
ルークとエミリアさんも、良いです?」
「はい、もちろんです」
「私も大丈夫でーす!」
「……だ、そうです。
それじゃご飯にしましょう――……って、そう言えばリリーとミラは?」
二人にも謝らなければいけない。
どう言う反応が来るか、内心びくびくしていたんだけど……。
「あ、実はまだ寝ていまして……。
昨日は夜まで、研究の方を手伝ってもらってしまったので……」
「え? リリーとミラに?」
「はい……。
特にミラちゃんは、情報の整理が上手いですよ……!」
「思わぬ特技が!」
「……ヴィオラさんがまだ本調子では無いので、本当に助かっています……。
あ、その辺りは後ほど……」
『その辺り』と言うのは、きっとヴィオラさんのことなのだろう。
セミラミスさんがずっと心配していたが、ヴィオラさんは部屋からずっと出てきていなかったそうだし……。
ヴィオラさんのことは心配だし、それにこの先の戦いでも、彼女の力は絶対に必要となるはずだ。
だから彼女が不調だと言うのであれば、私も何とかしなければいけないだろう。
「……分かりました。
それではひとまず、朝食を食べてしまいましょう」
「はい……!」
セミラミスさんが席に着くと、朝食が始まった。
今日は少し人数が少ないけど……、でもこれも、きっとすぐに元に戻るよね。
……うん、リリーとミラは寝てるだけだし。




