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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第13章 神々の空へ
735/911

735.受容

 ――時間が経てば、どんなことだって受け入れられる。

 それが愛する人の死だって、別の話では無い。


 この世界には、たくさんの人がいる。

 たくさんの人が生まれて、たくさんの人が死んでいく。


 だからこそ、たくさんの悲しみは生まれてしまうものなのだ。


 しかし、人はずっと悲しんでいるわけでは無い。

 愛する人の死は、ゆっくりかもしれないが、受け入れていく。


 そうでなければ、この世界は止まってしまう。

 だから、みんな進んで行ける。



 だから、私も進んで行かなくては――




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 ……頭では理解できるが、感情が理解してくれない。

 大切な人の死。グリゼルダの死。


 でも私は、乗り越えていかなくてはいけない。

 私だけが悲しいわけでは無い。


 グリゼルダはみんなの人気者だった。

 だからこそ、悲しんでいる人は多いはずだ。

 だからこそ、私だけが止まっているわけにはいかないのだ。



「……グリゼルダ……」



 お墓の前で、彼女の名前をつい呟いてしまう。

 私としては、『ヴェセルグラード』という名前よりも、ずっと身近で親しみのあった名前。

 でもこの名前を、彼女に向かって呼ぶことはもう出来ない――


 ……でも、立ち直らなきゃいけない。

 私の時間は、もう1週間も止まってしまっている。


 今は止まっている場合じゃない。

 少しずつでも、歩いていかないといけない。


 そうしなければ、グリゼルダに申し訳が立たない……。



「アイナさん……」


 グリゼルダの葬儀を終えたあと、お墓の前にはエミリアさんとルークが残ってくれていた。

 二人だって、もちろん悲しいに決まっている。

 だから、私ばかりが迷惑を掛けてしまうわけにはいかないのだ。


 ……まぁ、この1週間で随分と迷惑は掛けてしまったけど――



「……うん。

 ごめんなさい……、もう、大丈夫……に、なるつもり……、だから」


「……はい。

 すぐには無理でしょうけど、ゆっくりと……でも。はい」


「アイナ様には私たちがついております。

 いつでも頼ってください」


 エミリアさんとルークも、それぞれが優しい言葉を掛けてくれる。


「エミリアさん、ありがとうございます。

 ルークも、ありがとう。

 ……うん、散々泣いたから……もう、涙も出ないや……」


「アイナさん、私たちの分まで泣いてくれましたからね。

 えへへ、ありがとうございます」


「……えー?」


「確かに、私たちが泣いている暇はありませんでしたね。

 アイナ様、ありがとうございます」


「むぐ……。

 むしろ何だか、申し訳なさが増量中……」


 何となく目をこすりながら、私は可笑(おか)しさが込み上げてきてしまった。



「……あ!

 私、アイナさんが笑ったの久し振りに見た気がします!」


 エミリアさんは容赦なく、そんな指摘を飛ばしてくる。

 改めてそう言われると、やっぱり恥ずかしくなってしまうわけで……。


「い、いつまでも泣いているわけにもいきませんから……!

 ……グリゼルダもきっと、困っちゃいますし……」


「そうですよ!

 みんな、いつものみんなに戻って……グリゼルダ様には、天国から安心して見ていてもらいましょう♪」


「私も全力でお支えいたします。

 ひとつずつ問題を解決しながら、ゆっくりとでも進んでいきましょう」


 ……エミリアさんとルークの言う通りだ。

 グリゼルダが逝ってしまったのは、私たちを悲しませるためでは無い。

 私たちがこれからも笑顔で暮らしていけるように、そのために逝ってしまったのだ。


 感情を納得させるのはまだまだ難しい。

 しかしこれからの行動を、感情に支配されたままにしてはいけない。


 いつ再び、ゼリルベインが襲ってくるかも分からない。

 だからこそ、グリゼルダが作ってくれたこの束の間の時間で、ゼリルベインへの対応策を何とか考えていかなくてはいけないのだ。


「……うん、そうだね。

 ごめんね、1週間も。これから、たくさんたくさん頑張らないと!!」


「はい!」

「はーいっ!!」


 私の言葉に、ルークとエミリアさんは明るく返事をしてくれた。

 そのまま何となく、三人で片手ずつを出し合い、そして重ねていく。


 三人で組む円陣……。

 今は仲間もたくさんいてくれるけど、しかしそれでもこの三人は格別だ。


 ……だからこそ、この三人を中心にして、これからの困難に立ち向かっていくことにしよう。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 ……お屋敷に戻る頃には、時間は22時を過ぎていた。

 思いがけず、葬儀からはかなりの時間が経ってしまっていた。


「アイナ様、お帰りなさいませ」


 玄関のところで、クラリスさんが挨拶をしてくれる。

 隠そうとはしているが、やはりクラリスさんも疲れ気味だ。

 ……まぁ、主な原因は私のところにあったんだけど――


「……ただいま。

 クラリスさん、最近はごめんね。でも、これから頑張るから」


「……え?」


 私の突然の言葉に、クラリスさんは驚いてしまった。


「まだ吹っ切ることは出来ていないけど……、でも、ずっと泣いてばかりじゃいられないって……。

 ……それにまた、みんなのことを守っていかなきゃいけないし!」


 クラリスさんは両手で口を押え、涙目になってしまう。

 それだけ彼女に、心配を掛けていたと言うことだ。

 ……本当に、ごめんなさい。


「か、かしこまりました……。

 私たちも、全力でお手伝いをさせて頂きますのでっ!!」


「うん、ありがとう」


 何となく手を重ねることに味を占めた私は、ここでもクラリスさんの手を取ってみた。

 するとクラリスさんも、ぎゅっと握り返してくれる。


 ……そう言えば選挙のとき、候補者が有権者の手を握ったりするよね。

 あれはあれで、親近感みたいなものを植え付けるような効果があるらしいよ。


 それにしても手を取り合うのって、こちらも何だか嬉しくなってしまう。

 お互いの存在を、しっかり確認できると言うか――


「……私たちもクラリスさんに負けないように、アイナさんをしっかり応援しますから!

 ね、ルークさん!」


「もちろんです!」


 一時は仲違いをしていた二人だが、今はもう元通りだ。

 また大変な出来後が起こってしまっているけど、仲直り出来ていたのは幸いだったかな。




 ――ぐぅ



 それは、エミリアさんのお腹から聞こえてきた。




「……おっと!

 アイナさん。もしかして、ご飯の時間なのでは……!?」


「もう完全に過ぎていますけどね……!

 クラリスさん、夕食をお願いしても良いかな?」


「はい、もちろんです!

 至急、ご用意いたしますので!!」


 そう言うと、クラリスさんはペコリをお辞儀をしてから厨房へと走っていった。


 確かに、私もお腹が空いているかもしれない。

 そう思った途端、私のお腹も音を鳴らし始めてしまう。



 ……食事は大切だ。

 しっかりと食べて、今後に備えていこう。


 全部が決着したら、グリゼルダのお墓にお酒でも持っていこうかな。

 早く、そのときが訪れるように頑張らないとね……。

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