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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第13章 神々の空へ
734/911

734.キャスリーンさんの留書

 ――地震のあった日から、今日で5日目。


 アイナ様たちの活躍のおかげで、この街は守られたのだと言う。

 しかしその戦いの果てに、私たちが失ったものも多かった……。



「……はぁ」


「キャスリーンさん。

 溜息ばかりついていると、しあわせが逃げてしまいますよ」


 廊下のお掃除中、偶然通りがかったルーシーさんに注意をされてしまう。


「し、失礼しました……!」


「あまり、ぼーっとしないように気を付けてくださいね」


「はいっ!」


 ……気が付かなかった。

 見られたのがアイナ様でなくて、本当に良かった。


 ……いや。

 おかしなところを見られたとしても、たまにはアイナ様にお会いしたいな……。


 でも、旦那様もアイナ様にはお会い出来ていないって言う話だし……。


 でも、お食事はしっかり取られているみたいだし……。


 でも、お部屋から全然出てこないし……。


 でも、もう5日目になるわけだし……。


 でも、お部屋の前に行っても、何も音が聞こえてこないし……。



「……キャスリーンさん?」


「は、はいっ!」


 不意に、クラリスさんの声がした。

 見れば私のすぐ目の前に立っている。


 ……何たること。

 ルーシーさんに続いて、クラリスさんにまで見られてしまうとは。


「気持ちは分かるけど……。

 でも、私たちがしっかりしないと。ね?」


「す、すいませんっ!」


 ひとまず私は、クラリスさんが見えなくなるまで全力でお掃除をすることにした。

 ……手を抜くわけでは無いけど、今は何にしても手に付かない。

 仕事にはある程度の緩急を付けないと、こちらの身が持たないかもしれない……。



 ……ああ、ダメだ。ダメ。

 身体は大切にしないと。


 まずは自分を大切にする。

 アイナ様から教えてもらった、私の教訓だ。



 でも、出来るだけ頑張らないと。

 ……でも、アイナ様が心配だなぁ……。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 ――2日後。

 今日はグリゼルダ様の葬儀の日。


 グリゼルダ様のお墓は、人魚の島に作られることになった。

 あの方のお気に入りの場所……よりも、もう少し島の中に入った小高い丘。

 そこは海を見渡せる、この島の一等地。



「……あ」


 お屋敷のみんなが揃ったあと、少し遅れてからアイナ様とエミリアさん、旦那様がやって来た。


 ……久し振りのアイナ様。

 さすがに、元気が無い。

 いや、元気が無い以前に、とても弱っているように見える。


 ……つらい。


 私が大変なときに、優しく手を差し伸べてくれたアイナ様。

 だからこそ、今は私が手を差し伸べてあげたい。


 ……でも、それはきっと難しい話に違いない。

 私よりもずっとずっと近いエミリアさんや旦那様だって、それは難しいことなのだから。


 だから私は、メイドとしてアイナ様を支えるしかない。

 でも最近、全然集中できていない……。


 ……とても申し訳ない限りだ。

 とても、不甲斐ない限りだ。



 アイナ様は私たちに軽く頭を下げたものの、特に何を喋るということも無かった。

 ……寂しい。


 さらに10分ほどすると、セミラミス様がヴィオラさんを連れてやってきた。

 ……ヴィオラさんを見るのも久し振りだ。


 私は最低限しか話さないけど、彼女はまるで他人のように、今日は静かにしている。


 ……ヴィオラさんも、グリゼルダ様が亡くなったのがやっぱり悲しいのかな。

 あまり接点が無いような気もしたけど、きっとそうなのだろう。



 最終的にこの場所に集まったのは、アイナ様とエミリアさんと旦那様。

 初代国王予定のファーディナンド様。

 第一、第二騎士団の団長。

 この街を率いる大商人のポエールさん。

 ガルルン教の教皇のエイブラムさん。

 そして最後に、お屋敷に仕えるメイドが5人。


 こんな歴々たる顔ぶれの中、メイドを全員呼んで頂けたと言うのも、とても光栄に思う。



「――それでは、葬儀を執り行います」


 葬儀は、エイブラムさんの進行で始まった。


 ……葬儀とは言っても、そもそも光竜王様は人間の信仰に縛られない。

 ただ、何かしらの形にはしないといけないため、今回はルーンセラフィス教式の、簡略したもので行うそうだ。


 まずはお墓を開けて、その中にグリゼルダ様の遺体を入れる。

 ……まるで眠っているみたい。


 亡くなったときは大きな竜の姿だったらしいけど、そのあとはいつもの姿に戻ったそうだ。

 ボロボロだった身体もは、エイブラムさんたちが綺麗に整えてくれたらしい。


 私はそのボロボロだった姿を見ることは無かったけど……、それは私たちを守るために負ってくれた傷。

 傷はもう見えなくなってしまったけど、それを含めて、グリゼルダ様には深く深くお礼を言わせて頂きたい……。



 遺体を入れたあとは、ファーディナンド様や騎士団の団長たちが、口々に感謝を捧げていった。


 ……旦那様も、しっかりその勤めを果たしていた。

 他の団長よりもグリゼルダ様と接点が多かった分、いつもはクールなのに、ついつい感情的になってしまっていたようだ。

 そんな旦那様を見ながら、アイナ様とエミリアさんも沈痛な表情を浮かべていた。



 そのあとは、一人ずつ花を手にして、グリゼルダ様に手向けていく。


 ひとりひとり。


 ……これが、最後のお別れ……と言うことになるのだ。



 アイナ様は、最後まで花を手向けようとしなかった。

 逆に、ヴィオラさんは最初のうちに、早々に済ませてしまった。


 ……あれ?

 この差は何だろう。性格の違いなのかな……?



 旦那様が終わったあとは、エミリアさんが。

 そしてエミリアさんが終わったあと、最後に残ったのはアイナ様。



「……アイナさん、順番ですよ。

 最後は、しっかりお別れしましょう?」


「うぅ……」


 エミリアさんの言葉に、アイナ様は言葉を詰まらせていた。

 この一週間だけでは、気持ちの整理は付かなかったようだ。


 しばらく立ち尽くすアイナ様。

 でも、最後はようやく、ゆっくりではあるが、グリゼルダ様の墓前に向かった。

 そして一言二言、私には聞こえなかったけど、グリゼルダ様に話し掛けていた。



 ……そして、号泣。



 見ているだけで、胸が張り裂けそうになる。


 しかし、残された人たちは、新しい一歩を踏み出さなければいけない。

 でも……。



 ……ふと、私は旦那様と目が合った。

 彼も冷静を装ってはいるが、私からしてみれば、かなり動揺しているように見えた。



 葬儀が終わると、私たちはお屋敷に戻ることになった。

 でも、アイナ様とエミリアさん、旦那様だけはもう少し島に残るらしい。


 ……私も一緒にいたい。

 でも、お屋敷に戻って仕事をしないと。



 ……食べないかもしれないけど、アイナ様に美味しい夕食を準備しないといけない。


 いつでも主を支える。

 それがメイドの仕事なのだから。

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[一言] 一週間じゃ無理だったかぁ
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