731.マーガレットさんの日記
「はい、毎度ありっ!!
オマケしておいたから、また来てねっ!!」
「わー、ありがとうございますっ!
また来ますねっ!!」
「いつでもおいで!」
……今日は買い出し。
買うものが少ないことと、気分転換をするため、私は一人で外出をしていた。
つい一昨日、この街は大きな地震に襲われた。
そしてそのまま、何者かによって攻撃を受けていたらしい。
でもそれも、無事に撃退することが出来たそうだ。
話によれば、私のお屋敷に暮らす人たちが主となって、どうにかやり遂げたのだと言う。
……とっても誇らしい。
メイドという職業は、あくまでも裏方である。
しかしその分、仕えている人たちが活躍すると、自分のことのように嬉しくなってしまう。
気持ちの面でもそれだけ、メイドは自分の主人に寄り添ってしまうものなのだ。
しかし逆に、その分だけ――
……つらい。
今、お屋敷の中は悲しい空気で包まれている。
グリゼルダ様が、今回の戦いで亡くなられたと言うことだ。
葬儀は後日、執り行われるらしい。
私たちメイドも、グリゼルダ様にはとてもお世話になっていた。
だからこそ、その葬儀には全員が参列を申し出たのだ。
エミリアさんは、泣き疲れた表情でそれを承諾してくれた。
……アイナ様は、部屋からは全く出てこない。
エミリアさんが付きっきりで、彼女の面倒を見てくれていた。
同じ部屋に一緒だったリリーちゃんとミラちゃんは、今はセミラミス様の部屋で寝泊まりをしている。
小さいのに、何の不満も漏らさない。
……本当に、あの子たちは、本当に良い子だ。
逆に、どこか末恐ろしいものも感じてしまうけど……まぁ、そう言えばあの子たちも、ダンジョンなんていう不思議な存在なんだったっけ。
……あと、もうひとつ。
ヴィオラさんも、塞ぎ込んでいる。
アイナ様と同じく、彼女も自分の部屋から出てこない。
仲の良いセミラミス様が声を掛けても、部屋からは何の反応も無いようだった。
……そしてそのセミラミス様も、かなり憔悴した表情をされている。
彼女はグリゼルダ様のことを心底尊敬していたのだ。
私が直接何かを聞いたわけでは無いが、グリゼルダ様がお屋敷に来ている間は、セミラミス様の振る舞いもそんな風にしか見えなかった。
そのグリゼルダ様は、もういない。
そう考えると、私の心も強く締め付けられてしまう……。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
……私は街の中央広場に寄ってみることにした。
先ほど買い物に寄ったお店も、実はここへ来る途中の道にあったのだ。
外出する時間はある程度は任せてもらっているけど、それに甘えて仕事をサボるわけにはいかない。
だから無駄なく、目的を達せられるように気を付けていかないと。
しかし、私はどうしても中央広場に寄ってみたかった。
ここはアイナ様たちが、最初に戦っていた場所――
「――何、これ……?」
私の口からは、驚きの言葉が出てきてしまう。
ここには綺麗に整備された広場と、しっかりと作られた建物があったはずなのに――
……その一部が、見事なまでの更地になってしまっていた。
もちろん既に、復旧の手は入り始めてはいるが――
……こんなことをしでかす敵と、アイナ様たちは戦っていたのか。
荒れたわけでも、壊れたわけでも無い。
……あったものが、消えている。
そう考えた瞬間、私の背筋には冷たいものが走った。
『荒らされる』は、理解できる。
『壊される』も、理解できる。
しかし『消される』というのは、一体どう言うことか……。
まわりには私と同く、不安に思っている住人が集まっているようだった。
そんな住人たちは、第二騎士団の団員から説明を受けている。
さり気なく後ろにまわって、話を盗み聞きしてみる。
……残念ながら話の内容は、お屋敷にいた第三騎士団の団員が話しているものと、ほぼ同じ内容だった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ただいま戻りました!」
お屋敷の厨房に入って、まずは元気に挨拶をする。
こう言うときこそ、挨拶は大切なのだ。
「お帰りなさい!」
元気に返してくれるのはミュリエルさん。
私の元気にしっかりと付いて来られるのは、純粋に言えば彼女だけ。
クラリスさんはクール。
ルーシーさんは物静か。
キャスリーンさんは可愛い。
だから私としても、ミュリエルさんが一番相性が良いのかもしれない。
「頼まれていたもの、買ってきました。
でも、こんな薬っぽい根っことか……、何に使うんです?」
「これは……秘密兵器です!」
「え? お料理に使うんですか?」
「そ、そんなっ!?
私の作るお料理が兵器だとでも!?」
「いえ、そう言うことでは無くて……。
ミュリエルさんが使い道をはっきり言わないときは、大体お料理のことじゃないですか」
「……なるほど!」
確かにミュリエルさんの料理は不味い。
いや、どこかを褒めようとしても、見事なまでに不味い。
たまーに、たまに。
本当にたまに、めちゃくちゃ美味しくなるときはあるんだけど……。
でも美味しいときって、誰か代わりに作ってもらっているんじゃないかな……。
だって、同一人物が作ったなんてどうしても思えないし……。
「また、彼氏さんに作ってあげるんですか?」
「えっ!? ち、違いますよーっ!!」
ミュリエルさんの彼氏さんは、今は第三騎士団の所属になったレオボルトさんだ。
このお屋敷にはちょくちょく警備に来てくれているから、きっと良いタイミングで食べてもらうのだろう。
……そんな微笑ましい惚気話も、今の私にとっては癒しになる。
この冷たく沈んだ空気の中、気持ちだけは明るく保っておかないといけない。
クラリスさんも頑張って、明るく振る舞ってはいるんだけど――
……やっぱりどこか、空回りをしていると言うか。
クールそうに見えて、案外と感情が豊かだからね、あの人も……。
……しかしその思いは、まわりにはしっかり伝わっている。
アイナ様たちがつらい時間を過ごしている分、私たちがなおさら頑張らなくてはいけない。
もちろん、メイドの仕事は仕事として受けている。
……でも今は、それ以上に頑張りたい。みんなの力に、しっかりとなってあげたい。
……ただ、私たちはメイド。
なるほど、クラリスさんが空回り気味になってしまうのも、何となく理解は出来てしまうか……。
私から小包を受け取ったミュリエルさんは、いそいそと何かの準備をし始めた。
まだ昼だけど、もう仕込んでいくのかな。
……しばらく休めば、また忙しい時間が来てしまう。
それなら私も、ミュリエルさんを見習って……。
今のうちに、いろいろなことをしておこうかな。




