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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第13章 神々の空へ
730/911

730.クラリスさんの手記

 ――あのときのことを考えると、私は未だに泣けてしまう。



 夜中に突然大きな地震が襲ったあの夜――

 ……私たちは不安に怯えながらも、どこか心は冷静でいたような気がする。



 その理由を突き詰めていけば、私たちの主人、アイナ様がいたからだ。

 彼女は他の錬金術師よりも圧倒的な実力を持ち、これまでに神器という規格外の存在を3つも作り出してきた。

 そして一説によれば、絶対神アドラルーン様の加護まで受けているのだと言う。


 ……それがどこまで本当の話なのかは分からない。

 ただ、彼女はそれを信じさせる実力も、実績も、どちらも併せ持っていた。



 そもそも彼女に仕える私たちは、彼女のことを全面的に信用し、信頼していた。


 昔は……王都ヴェセルブルクで仕えていたときは、確かにどこかで甘さを感じていたかもしれない。

 しかしその後、彼女は過酷な逃亡生活を送ることになる。


 そして再びマーメイドサイドで仕えるようになってからも、彼女は何も変わっていなかった。


 ……いや、たまに覗かせる冷たさ……。

 割り切り……とでも言うべきか。


 そういうものは、ちらちらと垣間見えるようにはなっていた。


 たまには少しくらい、怖くなるときもある。

 しかし凄絶な逃亡生活の話を聞いてしまえば、それも納得してしまう。

 何度も何度も命を狙われて、誰にも頼ることが出来なくて、仲間と一緒に長い距離を逃げてきた。


 そしてようやく訪れた新天地で、この大陸でも一目置かれるような、大きな街を作り上げたのだ。



 ……彼女は強くなった。

 私の想像も付かないくらい、強くなった。



 ……そう、思っていた。

 でも、それは私の思い込みだったのかもしれない。



 大地震のあった夜。

 遠くの方で、激しい音が鳴り響いていた。



 何も情報が入ってこないまま、私たちは長い長い夜を過ごしていた。

 でも、私たちは待つだけだった。

 その間、アイナ様は懸命に戦っているはず――


 ……何せ遠くから響いてくる轟音は、彼女の魔法のものだったのだ。

 あんな轟音を立てる魔法なんて、それこそアイナ様くらいにしか……。



 ただ、その音がしている間は、心配しながらもどこか安心していたのは事実だった。

 だって、それは彼女が生きていることを証明しているのだから。


 何と戦っているかは分からなかったけど、きっと私たちを守るために戦っているのだ。


 ……轟音がしなくなってからは、むしろ心配になってしまった。


 無事に『何か』を倒したのか。

 あるいは『何か』に倒されてしまったのか。



 キャスリーンさんに至っては、アイナ様とルークさんの心配をするのに大変そうだった。

 彼女の精神は、アイナ様の存在によって支えられている。


 ルークさんと結婚をして、もうひとつの支えが出来たものの――

 ……彼は彼で、アイナ様と一緒にいるはずなのだ。


 私はキャスリーンさんの手を握りながら、安心するように伝えた。

 ……しかし実際は、キャスリーンさんに言っているようで、自分自身に言い聞かせていたのかもしれない。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 ――朝。

 アイナ様の魔法の轟音が止んで、かなりの時間が経った頃。


 私は、温かいスープの準備をしていた。

 アイナ様たちの朝食を作っているところ……ではあるが、このお屋敷を守ってくれている第三騎士団にも朝食を作らなければいけない。

 温かい飲み物は何回か出してはいたものの、それだけではお腹は膨れてくれないのだから。


 そんな中、厨房の外からマーガレットさんが走ってきた。



「クラリスさん、アイナ様がお戻りになられました……!!」


 ……アイナ様は、無事だった。

 王都のお屋敷から突然消えたときのようには、今回はならないでいてくれた。

 私の中にあった大きな緊張も、ここでようやくゆるんでくれた。



『何があっても、私は絶対に戻ってくるから』



 アイナ様は、お屋敷を出ていくときの約束を守ってくれたのだ。


 私は嬉しかった。

 一報をくれたマーガレットさんも嬉しいはずだ。

 しかし、マーガレットさんの表情は形容し難いものだった。



「……どうかしたの?

 もしかして、アイナ様が怪我をした……とか?」


「い、いえ……。怪我とかでは無いのですが……」


 ……普段、はきはきと喋るマーガレットさんにしては珍しい。

 ただ、自分で言っておいて何だけど……、怪我であろうはずも無かったか。


 何せ彼女は世界一の錬金術師なのだから。

 そんな薬くらい、自分で一瞬で作ることが出来てしまうのだから。


「……?

 それでは私もご挨拶に行ってくるわ。

 続きの作業、よろしくね」


「はい……」


 ……最後の最後まで、マーガレットさんの様子はおかしかった。

 でもアイナ様のことだから、きっと挨拶をすれば、いつも通りに返してくれるはずだ。

 『ただいま』……ってね。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「……うえぇええ……。

 グリゼルダ……。グリゼルダぁ……」



 ……私が出迎えることになったのは、顔を上げながら泣きじゃくる、弱々しい女の子だった。


 彼女のまわりには、ルークさんやエミリアさん、それにセミラミス様。

 あとは第三騎士団の団員たちと、あとはヴィオラさんと――……知らない女の子が、団員によって背負われていた。


 全員無事――

 ……いや。きっとそうでは無い。


 あのアイナ様の取り乱し様……。

 もしかして、グリゼルダ様の身に何かがあったのではないだろうか。


 そう疑ってしまえば、もはやそうだとしか考えられない。

 マーガレットさんが言葉を濁してしまったのも、今のアイナ様を見てしまえば理解は出来る――



「……クラリスさん、どこか使っても良いお部屋はありますか?」


 ふと、顔馴染みの団員が話し掛けてきた。

 どうやら背負っている女の子を、ベッドで休ませたいらしい。


 私が団員と話している間にも、アイナ様はルークさんとエミリアさんに連れられて、そのまま上の階へと行ってしまう。



 ……ずっと、泣いている。

 その姿を見ているだけで、私の目からも涙が溢れてきた。



 ……でも、彼女の横には、彼女の仲間がいる。

 きっと今は大変なときだろうけど、あの二人がきっと、アイナ様を支えてくれるに違いない。



 ……それなら私は、私の仕事をしていこう。

 このお屋敷に暮らす人たちが、何の心配も無いように生活を支えていこう。



 私では、彼女の直接の助けにはならないのかもしれない。

 しかし、間接的に助けているという自負はある。

 それこそ他の4人のメイドたちだって、全員がプライドを持って働いているのだ。



 ……アイナ様は、いつも私たちを助けてくれる。

 だから私たちは、いつも彼女に報いよう。



 彼女には、いつもの笑顔を早く見せてもらいたい。

 ……恐らくは、とても贅沢な話なのだろうけれど。

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― 新着の感想 ―
[一言] メイドは強いな
[一言] これは、今のままじゃ被害を少なく奴を倒せないから神化フラグ・・・?
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