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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第13章 神々の空へ
729/911

729.灰色の狂宴⑫

 つい先ほどまで、私たちと話をしていたグリゼルダ。


 しかし彼女の巨大な身体は、ゼリルベインの『神牙破断』とやらに大きく斬り裂かれてしまった。

 無惨に開いた傷口からは大量の血が溢れ出し、私は目の前の突然の出来事を信じられないでいた――



「グリゼルダぁっ!!!!」


 慌てながらもアルケミカ・ポーションレインを使い、癒しの雨を辺りに降らせる

 エミリアさんも懸命にヒールを掛け始める。


 ……しかしグリゼルダ本人が言っていた通り、今の彼女にはそう言った(たぐい)のものは一切効かない。

 ゼリルベインを倒すため、外部からの影響を可能な限り受けないようにしていたのだ。


 満身創痍なのはゼリルベインも変わらないが、しかし彼はまだ動けてはいる――



「はぁ……っ! はぁ……っ!

 ……竜王風情が、よくも私をこんな目に……ッ!!」


 ゼリルベインは苛立ちを隠さず、ぼろぼろな身体ではあるが強く言い放った。


 そんな彼の声は、恐らくグリゼルダには届いていない。

 グリゼルダはそれこそ、身体の三分の一……いや、二分の一にも達しようかという致命傷を負っているのだ。


「……よくも、グリゼルダを……!

 許せない……ッ!!」


「……それはこちらの台詞だ!!

 ヴェセルグラードが私に、どれだけのことをしでかしたと思っている……!!

 くそ……、そもそも貴様が素直に死んでいれば良かったものを……っ!!!!」


 ゼリルベインの目的は私を殺すこと。

 それなら私も、ゼリルベインを滅ぼすことだけを考えてやる。


 ……次、なんて考えない。

 あとはもう、なるようになってしまえ――



「アルケミカ・クラッグバーストッ!!!!」



 ――ズガアアアアアアアァンッ!!!!!!



「ぐぁ……っ!!?」


 突然の、私からの砲撃。

 ゼリルベインはまともに食らい、大きく吹っ飛んだ。


 ……吹っ飛ぶ程度で済むのは流石だが、しかしダメージが入ったと言う手応えはある。



「アルケミカ・クラッグバーストッ!!!!」



 ――ズガアアアアアアアァンッ!!!!!!



「……ぐぉおっ!!?

 き、貴様――」



「アルケミカ・クラッグバーストッ!!!!」



 ――ズガアアアアアアアァンッ!!!!!!



「……ッ!!

 ま、まずい! さすがにこれ以上は――」



 グリゼルダとの戦いで、既に身体がぼろぼろのゼリルベイン。

 さらに私の攻撃を食らって、その動きはより鈍くなってきている。


 ……とは言え、私の攻撃よりもグリゼルダの攻撃の方が影響は大きかっただろう。

 それならば。だからこそ。私は、グリゼルダの努力に報いなければいけない――



「アルケミカ・クラッグバーストッ!!!!」



 ――ズガアアアアアアアァンッ!!!!!!



「ぐは……っ!?

 ……くそ、仕方あるまい……! まさか『あそこ』に戻ることになるとは……っ!!」


 ゼリルベインは何かを観念しながら、震える指先で宙に描く。


 光る文字。

 光る図形。


 ……あれは、魔法陣……?



「アイナ様、転移魔法陣ですっ!!」


 私の考えを捕捉するかのように、セミラミスさんの大声が聞こえてくる。


 転移魔法陣――

 ……もしかして、ここから逃げるつもり!?


「はぁ……っ! はぁ……っ!

 私がまさか、人間と竜王ごときから逃げることになろうとは……っ!

 しかし覚えておけ……! 私は再びこの地に戻り、貴様らを全員滅ぼしてやる……ッ!!」


「ここまで来て、逃がすわけには――」


 ……しかしゼリルベインの術は発動が早かった。

 私の声が届く前に、彼はこの場所から姿を消してしまったのだった……。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「うわあああああっ……!!

 グリゼルダ……! グリゼルダぁ……っ!!」


「……(やかま)しいのう……。

 アイナよ……。そう泣くで無いわ……」


 ……取り乱す私に対して、ようやく気が付いたグリゼルダはどこか冷静だった。


 既にゼリルベインはこの場所にはいない。

 ようやく訪れた、敵のいない安全な時間。

 しかしそれを得るために、私たちは大きなものを失おうとしているのだ。


「私……! 錬金術師なのに……!!

 ……こんなときに、グリゼルダの傷を治してあげられない……っ!!」


「……まぁ、のぅ……。これは……妾自身が選んでやったこと……じゃからなぁ……。

 名うての錬金術師だろうとも……、名うての聖職者じゃろうとも……、今の妾を治すことは誰にも出来ぬよ……」


「……そんなぁ……」


「それだけのことをやらねば……。覚悟をせねばな……。

 ……なぁに。最後にお主たちを……、守ることが出来て……、妾はしあわせじゃったよ……」




 王都にいるとき、偶然に出会った光竜王様。

 神剣アゼルラディアを一緒に作ってくれた。

 そのあとはどこかに転生していってしまったけど、『神託の迷宮』でまさかの再会を果たした。


 それからはずっと一緒。

 年がら年中、顔を突き合わせていたわけではない。

 しかしそれでも、大切なときや悩んだときには一緒にいてくれた。

 いろいろと、相談にも乗ってくれた。




「――セミラミスよ」


「は、はい……っ!」


 グリゼルダは静かに、セミラミスさんに声を掛けた。


「……すまんが、妾はもうここまでのようじゃ……。

 これからはアイナのこと、この大陸のこと……。

 そして、ゼリルベインの後始末……。

 ……お主に全て、任せてしまっても……良いかのう……?」


「そ、そんな……、私ごときが……。

 ……い、いえ。……分かりました。……全部、お任せください……!」


 セミラミスさんは悩みながらも、最後にはそんな言葉を絞り出した。


「ルークよ……。

 これからも大変じゃろうが……、セミラミスやエミリアと一緒に……よろしく頼むぞ……。

 何だかんだで、お主が一番頼りに……なるから……のう……」


「……はい。

 今までありがとうございました。……貴女のことは生涯忘れません。

 後世まで必ず、貴女の偉業は語り継がせて頂きます……」


「エミリアも……これから、頑張るのじゃぞ……。

 お主の願いも……。常に高みを目指し、精進していくように……」


「ふぇぇ……。あ、ありがとうございました……。

 うぅ、うぅ~……」


「……願い。

 そ、そうだ! 私の神器で、グリゼルダを復活させてあげますから!!

 まだ願いを叶えることは出来ないけど、もっと私が頑張れば――」


「……いや、それはダメじゃ……。

 お主の願いは、お主のために使え……。もしも妾のためになんぞ使いおったら……、そのときは赦さんからな……?」


「で、でも――」


「……妾はな、もともと……、ヴェセルブルクの神殿で……、最期を迎えるつもり……、だったんじゃよ……。

 しかし、アイナたちと出会えて――……それからは……、面白い……毎日じゃった……のう……」


「はい……!

 だから、私はもっとグリゼルダと一緒に、もっともっと一緒に――

 ……ほら! 将来、お酒を一緒に飲むって約束したじゃないですか!!

 こんなところで、死んでる場合じゃ……無い……でしょお……っ」


「……そう……泣くで無いわ……。

 お主が困ったとき……、どうしようもなく困ったときな。

 妾はおらぬが……、もしかしたら……、もう一度くらいは――……」


「……え?

 グリゼルダ? ……ねぇ? グリゼルダ……?」



 私の目の前で、グリゼルダの生命力は急激に消えていった。

 むしろ致命傷を受けていたにも関わらず、ここまで生きていられた方が奇跡だったのだろう。


 ……でも。

 私はもっと、グリゼルダと一緒にいたかった。

 それこそ何年も、何十年も、何百年も。


 みんなが死んでいく中、それでも私と一緒にいてくれる存在。

 しかしそんな彼女と、まさか最初に死別することになってしまうだなんて……。




 ――ゼリルベインの襲撃事件は、これを以って終了となる。



 何とか追い払うことは出来た。

 しかしこちらが失ったものは、とてもとても、とても大きなものだったのだ……。

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[一言] グリゼルダ 安らかに (ToT)
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