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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第13章 神々の空へ
726/911

726.灰色の狂宴⑨

「――なるほど……。

 その魔法、確かに只者では無いな……!」


 ゼリルベインは苦虫を潰したような表情を見せた。

 今までの余裕が剥げて落ちてしまったかのように、笑みは失せている。


「今のは――」


「……アイナさんには、想像も付かない次元の話だ。

 もちろんそちらの、神器持ちの魔法使いにもね」


 ……え?

 今のエミリアさんは、この大陸の中でも最上位を争うほどの魔法使いなのに?

 そんな彼女を以ってしても、難しいなんてことが――


「アイナさん、気にしないで。

 私がこの魔法を使えるのは、私のユニークスキルのおかげだから」


 ……シェリルさんのユニークスキル、恐らくは『創造才覚<魔法>』。

 作るのと使うのとはまるで違う話だが、それでもシェリルさんにはきっと、高難度の魔法を使う才能がある――


「……安心するが良い。

 こんな魔法、教わったって誰にも使えやしないものだ。

 それこそ、作り出した本人にしか理解できないことも多いだろう」


「そう……。

 だからこの魔法は、誰にも遺すことが出来ない……。

 例えば、ヴィオラちゃんにだって――」


 ……そんな魔法が、この世界にはある。

 エミリアさんを見ていて十分に凄いとは思っていたものの、さらに上の世界が――



「『秩序』、『混沌』、『虚無』……。

 それらを理解した上で、そこから上の――遥か遥かな高みに存在するもの。

 ……ある意味、その魔法は神の力を越えている……と言っても良いだろう」


「そんなに……!?」


 ゼリルベインがそこまで称賛するのであれば、これはもうこちらの強力な武器になるに違いない。

 そう、このままシェリルさんの助けを得ることが出来れば――



 ……しかしこの世界は、そんなに上手くまわってはくれない。

 私は今回、それを痛感してしまった――



「……ごほっ!」


「え……?」


 突然、シェリルさんは口から血を吐き出した。

 それこそ何の前触れもなく、本当に突然――


「……うむ。

 さすがに『それ』は人間の扱う代物では無い。

 例えば神々の加護を受けた者――……転生者であれば、多少は違っただろうがね。

 ふふふ、健気なものじゃないか。一瞬の隙を作るために、自らの命を差し出すだなんて」


「い、言わせておけば……っ!!」


「……さて。それでは今のうちに、君たちを滅ぼすことにしよう。

 私の力もまだ戻りきってはいないが、それでも戦うことくらいは出来るからね」


 そう言うと、ゼリルベインはゆっくりとこちらへ歩いてきた。

 しかしそこに、ルークの強烈な一撃が入る。


「アイナ様に近付くな!!」


「……む、ぐぅ……っ!?

 思いのほか、あの魔法の影響が大きかったか……!?」


 ゼリルベインはルークの攻撃を受けて、後ろに大きく下がった。

 十八番の攻撃をしてこないところを見ると、攻撃面でもまだ本調子では無いのだろう。


「ルーク、エミリアさん!

 足止めをお願いっ!!」


「「はいっ!!」」


 私の言葉に、二人はゼリルベインに立ち向かっていく。

 そして私は、喀血してしゃがみこんだシェリルさんのもとに走る。

 ゼリルベインに弾き飛ばされていたセミラミスさんも、心配そうに彼女の様子を見ていた。



「シェリルさん、大丈夫!?」


「……心配を掛けてしまいました……。

 大丈夫――……と言えないのが、少し心苦しいのですが」


「そ、それなら薬を!

 えぇっと、どんな薬が良いのかなっ」


 私が慌てる中、シェリルさんはふらっと崩れ落ちた。

 シェリルさんの状態異常を鑑定して、それに効く薬を出して飲ませる。


「……これが、世界一の錬金術師さんの……お薬。

 最後の最後で、貴重なものが飲めました……」


「そんな、最後だなんて!

 身体はよくなりますし、ゼリルベインも倒します!

 だから、そんなことを言わないでくださいっ!!」


「……すいません。

 でも私、本当にこれが最後だから――」


「え……?」


 思わぬシェリルさんの言葉に、私は自分の耳を疑った。


「……私がこれまで、表に出てこなかった理由……。

 『私』の存在は、ユニークスキルに侵されて……もう、ぼろぼろでした。

 そんな状態で、私が前面に出てくれば……、最後の力を使ってしまえば、私はもう消えてしまう……」


「き、消える……!?」


「……アイナさんは、絶対神アドラルーン様の使徒……なんですよね?

 だから、ユニークスキルをたくさん持っている……」


「それをどこで――って、ヴィオラさん……ですよね」


「はい。全然表に出てこないのに、ヴィオラちゃんは私にずっと手紙を書いていたんです……。

 ……でも、私は途中で返事を出さないことに決めました。

 突然私がいなくなったら、あの子は絶対に心を壊してしまうから。

 だから、ヴィオラちゃんを助けるときのために……、最後のときのために、力を残しておいたんです……」


「力を……」


「……ユニークスキル。

 世間には良いところしか伝わっていないけど、先天的に持って生まれた人間は、かなりの確率で壊れてしまう……。

 本来はそれだけ、メリットとデメリットが大きいものなんです……」


 ……メリットと、デメリット。

 ゼリルベインの最後の転生者、タケルにいたっては精神崩壊を起こしていた。

 転生者と言う特殊な存在でさえ、無理をすればああなってしまう。

 それくらい、ユニークスキルには害悪もあると言うことか。


「……ユニークスキルを持っているのは、シェリルさんなんですよね?

 シェリルさんの精神を壊さないように、ずっと身体をヴィオラさんに預けていた……?」


「いいえ……。この身体の主人格は、ヴィオラちゃんなんです……。

 彼女は逆だと思っていますけど、幼い頃に……彼女に害を及ぼしていたユニークスキルを、私が引き取って……」


「そ、そうなんですか!?」


「……はい。だから、ユニークスキルと一緒に消えるのが、私の運命なんです……。

 ……セミラミス様。まだ、いらっしゃいますか?」


「はぅ!?

 は、はい……! ここに……!」


 シェリルさんの目は開いているが、どうやら見えなくなってきているようだ。

 これは身体の異常と言うよりも、精神や魂の異常なのか――


 ……私がそんな考えを巡らせていると、シェリルさんは袖の中から小さな水晶玉を取り出した。

 そしてそれを、セミラミスさんに静かに渡す。


「こ、これは……?」


「虚無の神が……、術を使ったときの情報が書き込まれています……。

 もしここで、倒すことが出来なければ……。

 ……私の代わりに、アイナさんたちを導いてもらえますか……?

 それと、ヴィオラちゃんには絶対、生き残ってもらうように――」


「もももっ、もちろんです……!

 た、確かに、お預かりました……!」


「ヴィオラちゃん、セミラミス様のことをとっても気に入っているんですよ……。

 手の掛かる子ですが、どうか……よろしく、お願いします……」


「……はいっ! ……はいっ!!」


 セミラミスさんはシェリルさんの手をしっかり握り、力強く何度も頷いた。

 シェリルさん、まさか本当にこのまま――


「……そしてアイナさん。

 私はもうすぐ消えてしまうけど……、どうかこの世界とヴィオラちゃんのことを……」


「も、もちろんっ!!

 私に全部任せて、シェリルさんは安心してくださいっ!!」


「……ありがとうございます。

 今まで、ヴィオラちゃんを助けてくれたことも……、これからの約束をしてくださったことも。

 どうか、お元気で……」



 ……そこまで言うと、シェリルさんの身体からは一気に力が抜けた。

 身体には異常が無いから、いずれは目を覚ますだろう。

 しかしそのときは、シェリルさんはもう消えている――……のだと、思う。



「……うぅ、うぅぅ~……。

 私は……。ヴィオラさんに、何て顔向けをすれば良いのか……」


 セミラミスさんは両手で顔を覆いながら、泣き声を出した。

 シェリルさんのことは、きっとヴィオラさんからたくさん聞かされていたに違いない。


「私も悲しいです……。

 でも、今日のことはヴィオラさんにしっかり伝えないと……。

 だからそのためにも、私たちはこの戦いに勝たないと……」


 ……結局はそこなのだ。

 理想的に言えば、ゼリルベインをここで倒す。

 最悪でも、ここから追い払うことが出来れば――


「……アイナ様。

 シェリルさんから預かったこの水晶玉……、預かっていてもらえませんか……?」


「え? それは良いですけど……、何で?」


 水晶玉はセミラミスさんが託されたのだから、彼女が持っていれば良いと思うんだけど――


「……ここからは私も参戦します。怖がってなんて、いられません……。

 私だって、それなりに魔法は使えますから……。

 だから……万が一にでも、水晶玉を無くしてしまうと……はい」


「……分かりました、お預かりします。

 早くゼリルベインを倒して、早くお屋敷に帰りましょうね!」


「はい……!

 私、あのお屋敷が好きなので……、絶対に……!!」



 ヴィオラさんを安全そうな場所に寝かせたあと、セミラミスさんは彼女のまわりに結界を施した。

 今のゼリルベインであれば、少しくらいの時間稼ぎにはなるだろう……とのことだ。



 ……戦闘準備は完了。

 それでは私たちも、神との戦いに戻ることにしよう。

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[一言] シェリルさーーーーーーん!
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