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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第13章 神々の空へ
725/911

725.灰色の狂宴⑧

「……ほう?

 先ほどとは、見違えたようだが?」


 ゼリルベインはそう言いながら、右腕に纏わり付いた炎を振り払った。

 それだけで炎が消えてしまうというのも、何だか凄い光景だけど……。


「シェリルさん、ここは危険です!

 セミラミスさんと一緒に、早く逃げて――」


「……逃がすと思うかね?

 私の腕を燃やした愚か者には、罰を与えないといけないな」


 そう言うと、ゼリルベインは再びシェリルさんとの距離を一気に詰めた。

 ルークはそれを追い掛けて、私とエミリアさんも慌てて魔法を追従させる。


 私は誤射が怖くて、普通の氷魔法になってしまったけど――

 ……しかしそれらをモノともせずに、ゼリルベインはシェリルさんの前に立ちはだかった。


「さ、させません――きゃぅんっ」


 セミラミスさんは果敢に護りに入るも、あっさりとゼリルベインに弾き飛ばされる。

 それなりに強い彼女をあんなにも軽くあしらうだなんて――……これが格の違いというものか。



「……さぁ、神に手を上げた罰だ。

 死にたまえ」


「――炎()って、空を舞え」


「な……!?」


 シェリルさんがそう呟くと、ゼリルベインはそれに従うように弾き飛ばされた。

 私たちが今までにされたように、何の前触れもなく、大きく宙を飛ばされてしまったように――

 ……しかも同時に、ゼリルベインの身体は再び炎に包まれていた。



「い、今のは……?」


 ゼリルベインに追加の攻撃を入れながら、エミリアさんは驚きを隠せないでいた。


 ……魔法というものは、魔法名をトリガーにして発動させるものが多い。

 そんな中、シェリルさんの魔法は何かが違うようだった。


 ルークはこの隙に、シェリルさんとゼリルベインの間に移動を完了させた。

 これでシェリルさんが、無防備に攻撃されることは無くなっただろう。



 ゼリルベインは一回転をしてから、地面に着地した。

 そして再び、一気に炎を振り払ってからシェリルさんを睨み付ける。


「……一度ならず、二度までも。

 しかし今の魔法――……いや、魔法……なのか?」


 ゼリルベインも、シェリルさんの魔法を不思議に思っているようだ。


「エミリアさん、合流しましょう!」


「はいっ!」


 全員が集まってしまえば、ゼリルベインの攻撃で一気に全滅をしてしまうかもしれない。

 しかしあまりにも散っていてしまえば、個別に撃破されることも想像に難くない。


 ……今は不安要素が多い。

 だからとりあえず、私はまとまっておくことを選択することにした。



「……なるほど。

 アイナさんの魔法とは、また異質のものだ。

 ふはは、思いがけず楽しませてくれる」


 ……楽しんでくれたなら、今日はもう帰ってくれませんかね?

 そんな声が、私の中で聞こえてくる。


「シェリルさんっ!」


「アイナさん、ご無事ですか……?

 こんなときだけど、またお会い出来て嬉しいです」


「確かに、こんなとき過ぎますよ!?

 もっとゆっくりお話をしたかったのに……!

 だからここを何とか乗り越えて、たくさんお喋りしましょうね!!」


「……ふむ、もう終わったあとの話かね?」


「本当に、あなたにはもうお帰り頂きたいんですけど……。

 どうか、聞き届けて頂けませんかね……?」


「ははは、交渉かね?

 しかしこちらから求めるものは何も無い。

 この街はこの大陸に、新たな風をもたらしてしまっている。それがもう、目障りなのだよ」


「よく頑張った――

 ……とは、認めてはくれないんですね」


「アドラの爺様なら、きっと手放しで喜んでくれたと思うがね。

 しかし私の目的は、あの方とは真逆なのだ。そこは仕方が無いと言うものだろう」


 ……ダメか。

 ようやく話す時間が生まれたと言うのに、何も好転することは無さそうだ。

 やはりここは、戦うしか――


「……そう。アイナさん、戦うしか無いんです。

 今回がダメでも、次があります。だからまず、ここは生き延びてください」


「え? シェリルさん……?」


「あなた、そこの騎士さん。

 少しの間、私を守って頂けますか?」


「え? えぇっと……アイナ様?」


「も、もちろん……?

 もしかして、シェリルさんだけで戦うつもり……?」


 この場の全員が束で掛かっても、ゼリルベインには一向に届かない。

 それなのに、敢えてひとりで挑むことの意味は――


「……他の方は、全員が魔法使い。

 だから、少しの間は邪魔なんです」


 そう言うと、シェリルさんはゼリルベインの方に歩き始めた。


「ルーク、お願いっ!」


「かしこまりました!」


 ルークは慌てて、シェリルさんの前に躍り出る。


 ……シェリルさんには何か秘策があるのだろうか。


 今の状況であれば、期待せざるを得ないけど――

 ……もしもダメだと分かれば、すぐに割り込もう。

 ルークがいるから即死は無いだろうけど、一瞬の隙でどうなるかは分からないのだから……。



「――ふむ。

 なかなか勇気のあるお嬢さんだ。大層な魔法の使い手と見える」


「お褒めに預かり、光栄です」


 虚無の神を前にして、シェリルさんは物怖じをしなかった。

 何という安定感。さらに実力も相まっているとなれば――


「しかしその騎士が君を護ると言っても、私の攻撃は防ぎきれるものでは無い。

 だから、君の勇気に免じてさっさと終わらせてあげることにしよう」


「そういたしましょう。

 私も、長い時間は使えませんので」


「ふははっ、面白いことを言うものだな!!」


 ゼリルベインは再び、右腕を振り上げた。


 ……もう何回見ただろう。

 しかしその分だけ、ゼリルベインはあの技を信頼しているのだ。



「――空()って、英知の瞳」



「む……っ!?」


 シェリルさんの呟きに、ゼリルベインは不思議そうな顔をした。

 先ほどと同じくらいの長さではあるが、その言葉は何の効果も生み出さない。


 ……不発?

 それなら助けに入らないと――


「シェリルさん、早く……っ!!」


 さすがのルークも、ついつい言葉を慌てさせてしまう。


 ルークはレアスキル『光の祝福』を持っているから、ゼリルベインの攻撃は無効に出来るかもしれない。

 まだまともに攻撃を食らってはいないから、その効果のほどは分からないけど――


 ……しかし実証のために、わざわざ攻撃を受けることなんて出来るわけも無い。

 何せ、下手をすれば即死なのだ。



「……大丈夫、騎士さん。

 アイナさん。あなたの道標、立ててあげるから――」


「何を狙っているかは知らないが、しかしそれも一興。

 さぁ、秘策とやらを見せてみるが良い!!」


 ゼリルベインは笑いながら、容赦なく右腕を振り下ろした。



「――(あまね)く『虚無』は、『自由』のもとに散れ」



 ……シェリルさんが呟いた瞬間、ゼリルベインの身体に不思議な光が宿り、一瞬にして消えていった。

 そしてその直後、ゼリルベインの右腕は虚しく空を切る。



 ……何も、起こらない?



 何をどうやったのか。

 シェリルさんたちを消し飛ばすはずの攻撃は生まれず、予想外の静寂に包まれた――


 ……それなら!


「ルークっ!!」


「はいっ!!」


 私の言葉に、ルークの一撃がゼリルベインの身体に叩き込まれる。


「う……、ぐ……っ!?」


 そして苦い表情を浮かべるゼリルベイン。

 攻撃が、ここになって効いてきた――



 ……もしかして、勝てる?



 いや、その考えは捨てておこう。

 それは勝ってから初めて、遅ればせながらに言うことにするのだ!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] セミラミスが、水竜だったり氷竜だったり登場回で揺れています。
[一言] シェリルすげええ!
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