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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第13章 神々の空へ
724/911

724.灰色の狂宴⑦

 『白の陽炎(ホワイト・ヘイズ)』の白い輝きは、かなりの速度で消えていく。


 この結界が消えてしまう前にゼリルベインを倒す――

 ……そんな選択肢が考えられないほど、それは速かった。


 そして、徐々に現れる人影。


 かつて英雄シルヴェスターが、昔の人魚の島から現れたときのように……。

 知ってはいても、これはなかなか慣れない光景だった。



「アイナ様っ!! 団長っ!!」

「ど、どこから!?」

「一体何があったのですか!?



 私たちのまわりから、一斉に声が掛かってくる。

 既にもう、『白の陽炎(ホワイト・ヘイズ)』の効果は完全に消えてしまった。


 そんな中、悠長に話している時間なんて今は無い――



「みんな、逃げてっ!!!!

 全員、ここから出来るだけ離れてくださいっ!!!!」


「いや、しかし――」


「第三騎士団団長のルークが命じる!!

 総員、ここから退避!! 後先考えるな、全力で逃げろッ!!!!」


「は、はいっ!

 全員退避っ!! 出来るだけ距離を稼げーっ!!」


 ルークの大声に、その場に来ていた第三騎士団の団員たちは一斉に逃げ出した。

 しかしまだ、この場に残っている者も多い。


「あ、あの、ルーク様……。

 第一騎士団と第二騎士団は、命令系統が違うのですが――」


「アイナ様の御威光だ!!

 魔法師団も全員逃げろ!! 責任はすべて俺が持つッ!!!!」


「か、かしこまりました!

 ルーク様、どうかご無事で……!」


 何かを察したその騎士は、まわりに命令を伝達しながらこの場を去っていった。


 ……本来なら味方の人数は多い方が良いのかもしれない。

 しかし今、戦っている相手は虚無の神なのだ。


 不安要素も多いし、多少強いくらいでは、今回の戦いでは足手まといになってしまう。

 ……いや。どんな強者と言えども、ここでは全員が足手まといになってしまうのかもしれない――



「……ふむ。

 やりたいことは済んだかね?」


 ゼリルベインは騎士や魔法使いが逃げたあと、ゆっくりとそう言った。

 誰のことも、特に追おうとはしていない。


「はい、のんびり待っていてもらったおかげで……。

 ……でもそんな余裕、かましていても大丈夫なんですか?」


「この街で厄介なのは、君たちくらいのものだからね。

 何せ神器が3つ……。

 確かに私に敵うことは無かろうが、それでも目障りなのだよ」


 ……本当に、厄介になんて思っているのだろうか。

 私の攻撃も、ルークとエミリアさんの攻撃も、ゼリルベインは余裕で受けたり、避けたりをしているのに……。


 しかし、私たちのやることは変わらない。

 ゼリルベインが私たちを殺すと言うのであれば、私たちはそれに精一杯の抵抗をするだけだ。


 幸い、この場には誰もいない。

 被害を少なく抑えられれば、街の復旧なんてどうにでもなる。

 まずは人命が優先――



「……それでは再開しよう。

 もはや『白の陽炎(ホワイト・ヘイズ)』は存在しない。

 心配しなくても、この戦いはすぐに終わるさ」


 そう言うと、ゼリルベインは右腕を振り上げた。

 『白の陽炎(ホワイト・ヘイズ)』の中で、二度失敗していた攻撃。


 恐らくは一撃必殺。

 そんなもの、発動させるわけにはいかない――



「うぉおぉおおぉぉおぉっ!!!!」



 まずはルークが、一気に距離を詰めて攻めていく。

 強大な力を振るう敵を前にして、何と勇猛なことだろう。


 ルークはきっと、名前を語り継がれるような英雄になるに違いない。

 ……この戦いを、乗り越えられることが出来れば。



「ルークさん、足元に気を付けてくださいっ!

 フロスト・プリズンッ!!」


 エミリアさんの魔法を受けて、ゼリルベインの足元が一気に凍り付く。

 仮に魔法として効かなくても、これは物理的な足止めにはなるはずだ。


 多彩な魔法を使いこなすエミリアさん。

 司祭から魔法使いに転向はしたものの、彼女もきっと歴史に名前を残すに違いない。

 ……この戦いを、乗り越えられることが出来れば。



「――だからっ! 私たちは勝たなきゃいけないのっ!!

 アルケミカ・クラッグバーストッ!!!!」



 ズガアアァアアァアアアンッ!!!!



 その轟音と同時に、ゼリルベインにはルークの剛撃と、私の魔法が叩き込まれた。

 さすがにこれで、多少なりともダメージを――



 ……しかし残念ながら、そうはなってくれなかった。



「――ふむ、なかなかの攻撃だ。

 人間が扱える力としては、最高峰のものだと言えるだろう」


「……っ!!

 これでも、効かない……!?」


「効いてないわけでは無いのだがね。

 ……まぁ良い。

 それではアイナさん。次でお別れだ」


 頼みのルークは何かの障壁で弾き飛ばされて、問題のゼリルベインは一瞬フリーになってしまった。

 私とエミリアさんは次の魔法の準備に入るが、しかしそれも間に合わない。


 ゼリルベインの右腕は、無情にも振り下ろされて――




「アイナぁあああああぁっ!!!!」



「――え?」



 ズドォォオオォォォオオォオンッ!!!!!!!!




 ……激しく白い眩しさが、私たちを襲った。


 地面は大きく揺れ、身体のバランスを崩してしまう。

 しかし、それを感じることが出来ているのであれば――


 ……私はまだ、生きている!!



 とっさに顔を上げて辺りを確認する。

 するとゼリルベインは、私たちのことを一切見ずに、どこか遠くを眺めていた。

 私も釣られてその方向を見ると、そこにいたのは――


「……ヴィオラさんっ!? セミラミスさんっ!!」


「だだだっ、大丈夫かっ!?

 そそそ、そいつが敵なんだよなっ!?」


 ヴィオラさんは震える声で、大きく言った。

 実際、身体も震えてしまっている。

 脚などはもうガタガタで、見ているこちらが心配になるほどだった。


 そう言えば私、ヴィオラさんが戦うところなんて初めて見たような。

 彼女は魔法を使えるものの、もしかしたら今まで本気で誰かに使ったことが無かったのかもしれない。

 ……それなら今は、その緊張感とも戦っているはずだ。


「はわわ……。

 アイナ様……、お手伝いに来ました……っ!!」


 セミラミスさんも必死に声を張り上げる。

 彼女だって、戦うことは嫌いなのだ。

 強いことは強いけど、戦うことをまるで望んでいない、そんな心の優しい女性――



「……ほう、無茶な仲間がいたものだね。

 おかげで、私の攻撃が外れてしまったじゃないか」


 溜息とともに、ゼリルベインは私たちの後ろを見た。


 ……私の後ろの方。

 さっきからスース―していて気にはなっていたけど、恐る恐る後ろに目をやると――



「え……?」


 つい先ほどまで、そこは広場だった。

 そして少し先には、建物が建っていた。


 しかし今、私の後ろには200メートルほどの、綺麗な更地が広がっていた。

 地面には土が露出しており、まるで最初から何も無かったかのような――


「……彼女が来ていなければ、アイナさんたちもああなっていたはずだ。

 あとでお礼を言っておくべきだね。……まぁ、あとのことなんてあるわけも無いが」



 ……嫌な予感がする。



「ヴィオラさんたち、逃げて――」


「もう遅い」


 私が叫ぶも、ゼリルベインはヴィオラさんの元に高速で移動した。

 そして右手で、彼女をなぎ倒し――


「さっ、させませんっ……!!」



 バシィッ!!



「……ほう?」


 ヴィオラさんの前に、とっさにセミラミスさんが割って入った。

 ゼリルベインの攻撃はセミラミスさんに当たり、その勢いに耐え切れなかったセミラミスさんは、ヴィオラさんを巻き込んで横に吹き飛ぶ――


「ぅぐっ……」


「セミラミスさん、大丈夫ですかっ!?」


「……は、はい!

 ヴィオラさんは、守りました……!!」


「ふむ、頑丈なお嬢さんだと思ったら、君は竜族なのだね。

 ……魔力を見るに、氷竜か――」


 ゼリルベインはそう呟くと、少し考えるように空を仰ぎ見た。

 しかしそれも長くは続かず、彼の意識は再びこちらに向く。


「――まぁ良い。

 思わぬ乱入もあったが、気を付ければどうと言うことも無い」



 セミラミスさんはヴィオラさんの守りに入る。

 攻撃に入って欲しいという気持ちもあるが、やはりヴィオラさんを守っていて欲しいと言う思いもある。


 何が正解で、何が間違っているのか。

 何をすれば、この場を切り抜けられるのか。


 考えがまとまらない私の前で、ゼリルベインは再び右腕を上げる――


「……それではアイナさん。

 次こそ、お別れだ」


 そして、その腕が降り下ろされる瞬間――

 ……ゼリルベインの右腕は、突然強力な炎で包まれた。



「――ぬぅっ!?

 何だ、この炎は――」


 ……珍しく慌てるゼリルベイン。

 自分で出したものでは無く、他の誰かが出したもの……?


 ゼリルベインは辺りを見まわすと、ある一点で目を止めた。

 そこはヴィオラさんとセミラミスさんがいた場所。


 そして今、そこにはゆらりと立ち上がるヴィオラさんの姿があった。

 震えも完全に止まり、こちらを優しい目で眺めている――



「……アイナさん。お久し振り」



 その口調。

 いつものヴィオラさんとは、まるで違う雰囲気。


 ……まさかここで? ……こんなときに?


 それはヴィオラさんの別人格、シェリルさんの――

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[一言] シェリルさん! 何か秘策が!?
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