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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第13章 神々の空へ
719/911

719.灰色の狂宴②

「――アイナ様!!」


 1時間ほどもすると、外の様子を見に行っていたルークが戻ってきた。


 ……1時間。

 巨大な地震のあととしては、かなり長い時間に感じられた。

 不安と緊張に、どうにか慣れ始めた頃……というような頃合いでもあった。


「お帰りなさい! 何か分かった?」


「はい。周辺の建物の被害は幸いにしてあまり無いようでした。

 ただ、仕方は無いのですが住民の方々も慌ててしまっていて……」


「ま、まぁそりゃそうだよね……。

 でも建物は大丈夫だったんだ? 結構みんな、がっしり作ってもらったもんね」


 私の故郷が地震大国だっただけに、その辺りは結構頑張ってもらっていた。

 建ててもすぐに壊れたんじゃ、何だか無駄な感じがしてしまうからね。


「そこまでは良いのですが……。

 第二騎士団からの連絡によれば、街の中央広場で不思議な結界を見つけたそうです」


「結界? ……そんな機能、この街には無かったよね?」


「はい」


 ルークの返事を聞いた上で、エミリアさんにも確認する。

 エミリアさんの次は念のため、セミラミスさんに。


 どうやら誰も、その結界のことは知らないようだった。


「……でも、直接の原因かは分からないけど……。

 今回の件と、何かしらの関係はありそうだよね?」


「はい。既に第二騎士団が人員を集めて、調査に当たっているようです」


「ふむ……。

 でも、結界なんでしょ? 騎士団じゃ明らかに専門外だよね……」


「一応、魔法師団の協力は仰いでいるそうです。

 結界の専門家と言うのはいないそうなのですが」


「うーん、なるほど……。

 それではアイナさん、私はそこに行ってみようと思います!」


「そ、そうですね……。

 それなら私も、行ってみることにしましょう」


「かしこまりました、私もご一緒します。

 このお屋敷は第三騎士団がお守りしますので、ご安心ください」


「うん、ありがと。

 ――それではみなさん、私たちは調査に行ってきます。

 必ず戻ってきますので、その間よろしくお願いしますね」



 メイドさんと団員たちの返事を受けてから、私たちは外に向かって走り出した。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 神器に付いた竜王の加護のおかげで、私たちはすんなりと街の中央広場にやってくることが出来た。

 走るスピードも上がるし、疲労も順次癒してくれる。

 地道なところで、その効果は計り知れないものがあるのだ。



「……それで、これが……結界?」


 結界にはいろいろと種類はあるが、目の前のそれは白く淡く、一定の空間が光っているように見えた。

 特に壁になっているところもなく、普通の空間から次第に白い空間に入っていくような、そんな感じだ。


「そのようですけど――……あれ?

 ルークさん、第二騎士団の方がいる……はずなんですよね?

 誰もいないようですけど……」


 エミリアさんの言葉に、そう言えばと気付かさせられる。

 ここには騎士団の姿も、協力を仰いだはずの魔法師団の姿も見えなかった。

 もちろん住人の姿も見えないようだが――


「……おかしい、ですね」


 ルークが深刻そうな表情で呟いた。

 どこをどう切ってもその通りなんだけど、しかしそもそも今の状況が分からない。


 強いて分かることと言えば、謎の結界があるだけに、今回の地震は自然発生のものでは無い――ということだろうか。

 いや、逆に地震の方が自然発生のもので、この結界がそれに釣られて生まれてしまった――という可能性もあるのか。


 ……つまり?

 結局は、何も分からないということだ。



「むぅむぅ……。

 アイナさん、どうしましょう。誰もいないなら、みんなで別れて様子を見ますか?」


 エミリアさんが少し慌てながら、そんな提案をしてくる。

 でもそれ、大体は死亡フラグなんだよね……。


「いえ、出来るだけ一緒にいましょう。

 まずはゆっくりでも、確実に安全に進めないと」


「わ、分かりました!」


「賢明なご判断かと思います。

 それでは広場を中心に、おかしなところが無いか探していきましょう」




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 ――しかし、何も見つからなかった!!



「やっぱり、おかしいね……」



 しばらく調べていて、一番おかしく思ったこと。

 そもそも誰もいなかったのは置いておいて、その後、この場所には誰も来ないのだ。


 この結界は淡くしか輝いていないとは言え、結構な広さがあるから遠目でもそれなりには目立ってしまう。


 それなのに騎士団も、魔法師団も、住人の野次馬も――

 ……この場所には誰もいない。本当に、人っ子ひとりいない状態だった。ちなみに犬や猫もいてくれない。



 誰もいなくなった街。

 とても嫌な予感がする――



「……もしかして」


 エミリアさんが、ふと呟いた。


「え? 何か分かりましたか!?」


「いや、そう言うのではないのですが……。

 もしかして、誰もいないのではなく……私たちがおかしな場所に迷い込んでしまった……のでは?」


「私たちの方が――」


 ……しかし、そう考えてしまえば納得は出来る。


 人が集まっているはずの場所に行っても、誰もいない。

 人が集まるのを待っていても、誰も来ない。


 しかしそれは、私たちがおかしな場所にいるから――

 ……一応、理屈は通るだろう。


「でも、いつの間に……?

 それに見た感じ、この辺りはマーメイドサイドの街そのものですし……」


「うぅーん……。

 世界の位相が少し違うのでしょうか……」


「位相……」


「えーっと、分かり易いところでは、昔の方の、人魚の島……ですか。

 シルヴェスターがあそこから戻ってきたとき、陽炎みたいに徐々に姿を現したじゃないですか」


「ああ……。同じ場所なのに、空間がズレている……と言うか。

 なるほど、何となくは分かりますね」


「でも、仮にそうだとして……。

 一体誰が、こんなことを――」


 ……そう言われて頭に浮かんでくるのは、エマさんが言っていた『大きな敵』だろうか。

 確かにあんな地震を起こしたり、こんな厄介な結界を生み出すなんて、『大きな敵』と言われるだけはある。


 物理的にただ大きいだけなら、対応するのも楽だったんだろうけどね。

 面倒なことに、やっぱりこういう系統の大きさになっちゃうよね……。



 そんなことを話していると、広場の中央、特に白さが深いところに人影が揺らめいてきた。

 ……恐らくは、あそこがこの結界の中心。



 私たちが身構えていると、その人影は徐々に具体的な姿を伴っていった。

 そしてその姿は、私たちに見覚えのある人のものに――



「エマさん!?」



「……こんばんわ。

 アイナさんに、そのお仲間さんたち」


 悠長に挨拶をするエマさんに、ルークが距離を詰めていく。


「貴女がこの騒動の黒幕……。

 私たちの、敵……ですか?」



 ……転生者だと思っていたが、その疑惑は薄らいでいた。

 しかし、やはりエマさんは転生者……?



「敵か、味方かで言えば――……私は、アイナさんの味方でありたい。

 何より、私はあなたたちを助けてあげたい」



 ……思いがけず出てきたのは、そんな言葉。

 エマさんは、敵では……ない?


 謎が謎を呼ぶ展開。

 私は既に、大きく混乱をし始めていた。

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