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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第13章 神々の空へ
717/911

717.不安

 翌日、私はエミリアさんと一緒に『水の迷宮』へと向かった。

 ノーリさんとエマさんとの接触を受けて、何か思考の障害が入っていないかを確認するためだ。


 ……結果としては、特に何も問題は無いようだった。

 あの二人は転生者なのでは……と言う懸念はあったものの、それ以上でもそれ以下でも無いと言うことだ。


「うーん……。

 大丈夫そうですね、アイナさん!」


「はい、まずは良かったです。

 それでは一旦、エマさんの言うことは信じてみますか」


「数日中にマーメイドサイドを誰かが攻めてくる……、と。

 ……うぅーん、誰なんでしょうね」


「転生者なのか、王国軍なのか……。

 もしくは海の向こうの国……と言う可能性もありますし、まったく別の魔物かもしれませんし……」


「そう考えると全然絞れませんね……。

 エマさんももっと具体的に教えてくれれば良かったのに」


「まぁまぁ、この情報源はあくまでも占いですから。

 当たるも八卦、当たらぬも八卦。外れたら外れたで、それは良しとしましょう」


「そうですね……。

 不意を突かれてあっさり全滅……なんて言う未来に比べれば、無駄に警戒しちゃった未来の方が笑い話で済みますもんね」


「はい、ある程度は諦めて、気軽に準備をしていきましょう。

 ――さて、それでは次に行きますか」


「そうですね、どんどん行っちゃいましょーっ!」



 私とエミリアさんは、ひとまず『水の迷宮』をあとにすることにした。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 騎士団への共有は、ルークが受け持ってくれている。

 だから私たちは、エミリアさんの魔法師団に声を掛けることにした。


 魔法師団は立ち上げ中とは言っても、既に多くの人たちが働いている。

 所属する魔法使いもそれなりに多いので、いざというときにはやはり力を借りることになるだろう。



「――と言うわけで、偉い人たちに声を掛けておきました!」


 魔法師団の建物から出てくると、エミリアさんは明るく報告してくれた。

 私はあまりこの場所には来ないから、変な憶測を呼ばないように一人で行ってもらっていたのだ。


「ありがとうございます!

 念のための確認なんですけど、エミリアさんは10日ほどお休みするんですよね?

 その間、本当に大丈夫なんですか?」


「はい♪

 責任者以外は、結構人材は揃っているんですよ。

 だからこういうとき、頼りになる人もたくさんいるんです!」


「なるほど……。

 みなさん、頭が良さそうですしね。頼りになりそうですよね」


「知識が前提の職業ですから!

 ……そう言う意味では、錬金術師も同じなのでは?」


「そうかもしれませんけど……。

 でも、性格が捻じれている人も多いですし……?」


 私は主に、ヴィクトリアのことを念頭にそう言った。

 ……ヴィクトリアって今、どうなっているんだっけ?


 外国の貴族と結婚するって話だったから、この大陸にはもういないんだよね?

 ……ま、どうでも良いか。これからはもう、私の人生とは何の接点も無いんだから。



「でも、性格が捻じれている人なんてどこにでもいますよ。

 魔術師にだって、偏屈な人とか癖の強い人は多いですし」


「ふむぅ……。

 それでは魔術師も錬金術師も、基本的には頭の良い人の集団と言うことで」


「はーい! その通りですね!」


 私はこんなところで、特に議論を起こすつもりも無い。

 ごく当たり前の結論を以って、この話は早々に終わらせることにした。



「それではエミリアさん、次に行きましょう。

 次は、どこでしたっけ」


「ファーディナンドさんのところ――

 ……は、騎士団を経由して話が行きますよね?」


「そうですね。そしたら次は、ジェラードさんの諜報部隊かな?」


「そこもファーディナンドさんの管轄になりますから、連携してもらえるのでは?」


「あ、そっか……。念のため、あとでルークに確認しておきましょう。

 それじゃ、最後はグリゼルダのところに寄ってから帰りますか」


「グリゼルダ様!

 確かに、グリゼルダ様はこの街の守護竜様ですから、伝えないわけにはいきませんよね!」


「守護竜……。

 なるほど、そんな言い方もアリか……」


 脚色も無いし、嘘も無い。

 確かにグリゼルダは、この街にとっての守護竜なのだ。


 騎士団や魔法師団はこの国を守っていく組織だけど、そもそもそれとはまるで別格。

 私にとっても、グリゼルダの存在は想像以上に大きいものなんだよね。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 人魚の島に行くと、グリゼルダはいつもの場所にいた。

 ただ、海辺に立って海の方を眺めているようだった。



「グリゼルダーっ!」


「……うん?

 おお、アイナか。それにエミリアも」


「グリゼルダ様、こんにちは!

 今日はお酒、飲んでいないんですね!」


「こらこら。

 妾とて、ずっと酒を飲んでいるわけではないからな?」


「でも差し入れは持ってきましたよ。

 はい、『竜の秘宝』」


「おっ、これは助かるのう♪

 いやぁ、酒が全部切れてしまって困っておったんじゃよ♪」


「……やっぱりお酒があれば、ずっと飲んでいるんじゃないですか……」


「はははっ、酒があるのに飲まないわけが無いじゃろ!」


「ダメだ、酒飲みの発想だ。しかも悪いタイプの……」


「……ふふっ♪ それで、今日はどうしたんじゃ?

 ただの機嫌伺いなら良いのじゃが」


「一応お耳に入れておきたい話がありまして。

 全然具体的では無いんですけど――」



 私はグリゼルダに、昨日と今日の出来事を話した

 具体的に話せたのは、ノーリさんとエマさんのこと……くらいかな。



「……ふむ。

 なるほど、『大きな敵』……なぁ」


「はい。ちなみにグリゼルダは、何かを感じていたりはしませんか?」


「そう言う(たぐい)のものは無いのう……。

 しかし昨日から、何か異物感があるんじゃよな」


「……異物感?」


「うむ。本来ここにあるべきものでは無い何か……。

 いろいろと()てはおるのだが、しかし何も()えぬでな……。

 ただの勘違いか、妾の目から逃れておるのか――」


「……うへぇ。

 それじゃもし『大きな敵』がいるとすれば、グリゼルダの目からも逃れられる敵……ってことじゃないですか!」


「悪い方に考えるのであれば、そう言うことじゃのう」


「悪い方……。

 良い方なら――」


「妾の気のせいじゃ♪」


「えーっ」


 思わぬ答えに、私の口からは不満の声が零れてしまう。


「でもアイナさん、気のせいなら何も問題が無いじゃないですか。

 グリゼルダ様のは気のせい、エマさんの占いは外れ――

 ……ね♪」


「『ね♪』と言われましても……。

 まぁその通りなんですが……」


「今のところ、妾の不安の正体は分からぬ。

 だからそれぞれが、しっかりと十分な心構えをしておくことじゃな」


「そうですね……。

 そして綺麗にまとめてしまいましたね……」


「うむ!

 ま、()えぬものは仕方が無いわ。

 ほれ、アイナとエミリア。酒でも飲むぞ♪」



 明るく振る舞うグリゼルダに毒気を抜かれた私たちは、とりあえず一緒におやつを食べることにした。


 ……さすがにまた陽は高い。

 こんな時間からお酒だなんて、私には難易度が高いからね……。

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[一言] 異物感ね 何がいるんだ?
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