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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第13章 神々の空へ
712/911

712.連携

「――グレーゴルさんの準備が完了しました!!」


 大きな声で報告をしてくれたのは、戦況報告の魔法使い。

 以前、ヴェルダクレス王国軍との戦いでも活躍してくれた、5人組の魔法使いの一人だ。

 この5人は今後、エミリアさんの魔法師団に所属していく予定になっている。


「うん、了解!

 それじゃ、『水の迷宮』から水流を全力解放!!」


「『水の迷宮』、水流を全力解放ーっ!!」


「続けて、水路切り替えっ」


「グレーグルさんに伝達! 水路切り替え!」



 パアァアアン……!



 10秒ほどすると、どこか遠くの方で合図の音が聞こえてきた。

 グレーゴルさんはポチに乗って空中にいるから、近くの魔法使いが音で伝えたのだろう。



 そのまま1分ほどが経過すると、遠くの方から爆発音が。

 もう3分ほどが経過すると、低い地鳴りが聞こえてきた。


 これから何をやるのかと言えば、ヴェルダクレス王国軍との戦いでも使った水攻め――

 ……の、変化形である。


 この作戦を準備をする間に、私たちは転生者をマーメイドサイドから遠くへ、遠くへと吹き飛ばしてきていた。

 目指す場所は、ヴェルダクレス王国軍の退路を断つために作った川のあった場所。

 今ではもう川なんて無いけど、今回はまたそこに水を流していくのだ。



「アイナさん! 場所はこの辺りで……問題無さそうです!」


「はーいっ!

 ルークも――……場所は良し、ですね!」


 ルークはずっと交戦中だから、連絡は大声でやらざるを得ない。

 しかし途中からは拡声魔法の使い手、クラーラさんにお願いをすることが出来ていた。

 ちなみにこのクラーラさんも、ポエール商会からエミリアさんの魔法師団に転属する予定になっている。



 ……しばらくすると、地鳴りはさらに大きくなっていった。

 遥か彼方の平原を眺めていると、夕闇に紛れて見難くはあるが、白い線が薄っすらと見えてくる。



「来た!

 来ましたよ、アイナさーんっ!!」


「はい、了解!

 位置の補正は……しないで大丈夫そうですね!

 リリー! 準備は良い!?」


「大丈夫なの! 行ってくるの!」


 そう言うと、私の横にいたリリーは蜃気楼の揺らめきのように、その姿を消していった。

 ……リリーはある目的のために、『疫病の迷宮』に入って行ったのだ。


 もしかしたら今回も、英雄シルヴェスターのときのようにすれば良いのかもしれない。

 転生者を『疫病の迷宮』に入れてしまえば、そのまま疫病の力で倒せるかも……。


 しかし今回は、周囲に影響力を強く及ぼすユニークスキルが相手なのだ。

 リリーだって簡単に近付くことは出来ないし、迷宮に入れたら入れたで何が起こるか分からない。

 従って、今回のリリーの役回りは別のところにあるのだ。



「グォオォオォオォオオッ!!!!

 オオオォォォ――――ンッ!!!!!!」



 ……転生者の雄叫びはより強く大きくなり、押し付けてくる恐怖も凄まじいことになっている。

 この恐怖がレアスキルのせいだと知ってはいても、正直逃げ出したい気持ちが強くもたげてきてしまう。


 しかし、逃げてしまえばマーメイドサイドが滅ばされてしまうのだ。

 だから私は、絶対に逃げるわけにはいかない――



「クラーラさんっ!

 拡声魔法、準備!!」


「はいっ!」


 私の声を受けて、すぐに拡声魔法を展開するクラーラさん。



「――ルークッ!!!!

 水が押し寄せる場所に誘導して!!!! 最後はエミリアさんに手伝ってもらうから!!!!」



 距離があるだけに、ルークの返事は期待していない。

 しかしルークは、その言葉にすぐに反応をしてくれた。


「……それではアイナさんも、気を付けてくださいね。

 フロート・エクスペル!!」


 エミリアさんは浮遊の魔法を使い、宙へと飛んでいく。

 ルークはルークの、エミリアさんにはエミリアさんの仕事がある。

 だから私も、私の仕事をきっちりこなしていかないといけないのだ。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 ――ドパアアアアンッ!!!!



 力強い水流が、私たちの元へとやってくる。


 水流の進む先に向かっていくのは、まずはルークと転生者。

 ルークが器用に確実に、転生者の動きを制御してくれている。


 水流の上方、空に浮いているのはエミリアさん。

 全員が生き残るため、重要な役回りを受け持ってもらっている。


 私はその下で、転生者が来るのを待つ。

 ……その距離はまだかなりあるものの、次第に痺れるような痛みが全身を駆け巡っていく。


 これは転生者のユニークスキルによる、虚無属性のダメージだ。

 かなりの距離があるにも関わらず、正直痛くて敵わない――



「……アイナ様!!」


 遠くの方から、ルークの声が聞こえてくる。

 場所は上々、そして――



 ……ズッ!!

 ズゴゴゴゴ……ゴォオオオオンッ!!!!



 突然、平原に地鳴りが響いた。

 これは『水の迷宮』からの水流によるものでは無い。まさにこの場所、ここの地下で起きた音――


 ……一瞬後、地面は柔らかく歪み、そのまま大きな轟音を立てて、一気に巨大な穴を空けていった。



 広い広い平野で起こった、大規模な崩落。

 まさにこれは、私たちの祈りが通じた奇跡――

 ……とかでは全く無くて。



 実はこの崩落、リリーの仕事なのだ。

 リリーがこの場所に『疫病の迷宮』を移動させて、そこで一気に地下の土を取り込む。

 そしてリリーが『疫病の迷宮』を消すことで、その場所には大きな空間が残ってしまう。


 突然地下に出来た大きな空間は、地表の土を支えられるわけもなく――

 ……そのまま崩落してしまう、というわけだ。



「リリー、上出来(じょうでき)っ!!

 クラーラさん、拡声魔法っ!」


「はいっ!」


「――ルークッ!!!!

 そいつをこの大穴に落として、真ん中まで移動っ!!!!」


「はいっ!」


 ルークの声は小さくではあるが、確かに聞こえてきた。

 これまでの状況を踏まえれば、転生者の最終的な誘導も問題なく済ますことが出来るだろう。



 ……そうこうしているうちに、『水の迷宮』からの水流はこちらにどんどん押し寄せてくる。

 そしてそのまま、大量の水はリリーが空けた巨大な穴へ流れ込む――



「――さすがに、一気には溜まらないか……。

 でも、もう少し……」


「アイナ殿! 到着したぞ!!」


「グレーゴルさん!」


 水の流れを切り替えてきたグレーゴルさんが、空から合流してきた。

 そして――


「ママっ! 戻ったの!」


「リリーも!

 次の作戦に行くよ! グレーゴルさん、リリーを連れてエミリアさんのいる場所まで行ってください!

 そのままそこで、合図をするまで待機!」


「うむっ!」

「なのっ!」



 リリーはポチの上にぽすんと乗り込み、そのままグレーゴルさんと一緒に空へ飛んでいく。


 その間に、巨大な穴には水が凄まじい勢いで溜まっていく。

 ルークと転生者のところにも水は流れ込み、そろそろまともには立てなくなってきている――


「クラーラさん、拡声魔法!」


「はいっ!」



「――エミリアさん!!!

 直下のルークを救出っ!!!!」


「はーぃっ」


 小さくではあるが、エミリアさんの声が聞こえてきた。

 そしてその直後、エミリアさんは直下のルークの元に降り立ち、そのまま一瞬にして空中へと戻っていく。


 これで、大穴に取り残されたのは転生者のみ――



 ……しかし英雄シルヴェスターもそうだったように、こういう(やから)はこういうときに、驚異的な身体能力を発揮する。

 今回もその想像通り、転生者はしゃがみこんだあと、驚異的な跳躍を見せつけてきた。

 このままでは、折角の作戦から逃げられてしまう――



 ……しかし、そこも大丈夫!!



「――リリー!!!! 岩っ!!!!」


「なのっ!」


 可愛い元気な声と共に、空中に突然生み出されたのは巨大な岩。

 この岩は、リリーが地下で空間を作ったときに取っておいてもらったものだ。


 リリーは『疫病の迷宮』を、アイテムボックスのように使うことが出来る。

 今回もその応用で、質量を無視した形で空中に持っていき、そして転生者へと攻撃をしていく――



 ……この岩は魔法では無い。

 そして、アルケミカ・クラッグバーストで撃ち出す岩なんかよりも、圧倒的に大きい。


 だから、これならば――



「……グォオオォオッ!!!?」



 ズン……


 ドバアアアアアアンンッ!!!!!



 ……大きく跳躍していた転生者は、突然落ちてきた巨大な岩にぶつかり、その岩と一緒に水面へと落ちていった。

 大きな水飛沫が上がり、かなりの水が吹き飛ばされてしまったけど――


 ……しかし既に、巨大な穴には十分な水が溜まっている。

 そしてその水は、私の手元にまでしっかりと溜まってきている。



 ここからは私の出番。



 私の錬金術は、物体に熱を加えることが出来る。

 しかし、その逆も(しか)り。熱を奪うことだって出来るのだ。

 つまり――



「――凍れッ!!!!」



 ……錬金術は魔法では無い。

 だからこそ、魔法の効かない転生者であっても、さすがにこれは凍るはず――



 ……私の目の前では、大きな湖が、見る見るうちに凍っていく。


 一瞬で凍れば理想的だったんだけど、私の錬金術は魔法じゃないからね。

 残念ながら、さすがにそこまで上手くはいってくれないのだ……。

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