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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第13章 神々の空へ
711/911

711.最悪の転生者

 ――1か月後、再び転生者がやって来た。


 若い男性の、剣使い。

 遠目でそこまで良くは見えないが、立派な装備に身を固めた青年である。



 しかし今回は、今までと大きな違いがあった。

 来訪と同時に、実被害を出されてしまったのだ。


 ……南街門の付近を大きく吹き飛ばされ、そこにいた人々を殺されてしまった。


 思い返せば先の転生者、ベルフェゴールから受けた被害はあくまでも街壁だけだった。

 ヒマリさんとショーコさんによる実害もほぼ無かったから、街の人が死んだのは今回が初めて――



「……絶対に、許せない」



 そう呟く私の言葉は、様々な意味で相手には届かない。

 今回はとにかく、いろいろと問題が多すぎるのだ。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「住民のみなさんは、お城に避難してくださいっ!!」

「避難優先です! とにかくすぐに、逃げてください!!」

「これは警告ではありません、命令です!! 急いでくださいっ!!!!」



 第一騎士団の団員たちが、住民の誘導を必死に行っている。

 既に被害を受けているため……というのもあるが、他にも問題があるのだ。



 ……その転生者に近付くと、無差別にダメージを受けてしまう。



 その距離はかなりの広範囲で、さらに近付けば近付くほどそのダメージは大きくなってしまう。

 こちらから近付かなくても、相手に近付かれてしまえば同じことだ。


 私も接近を試みてはいたのだが、『神託の逆流(オラクル・リバース)』の射程圏内まではどうしても近付くことが出来なかった。

 恐らくこの無差別ダメージは、ユニークスキルによるもの。

 だからそれを何とか出来れば、戦いの方もどうにかなりそうなんだけど――



「……アイナさんっ! ルークさんが突破されましたっ!!」


「くぁーっ! 抜きに掛かられるとつらいですね!

 エミリアさん、またやってくださいっ!」


「はいっ!!」


 私の言葉に、エミリアさんは魔法で強力な突風を作り出す。

 最初は南街門の近くで戦っていたのだが、この魔法のおかげで、徐々に転生者を南へ南へと吹き飛ばしているのだ。


 そして飛ばした先での足止め、兼、交戦をしているのは我らがルーク。

 何と言ってもルークは、虚無属性のダメージと状態異常が無効になるレアスキルを持っているからね。


 ……正直、ルークがいなかったら足止めすら出来なかったと言うことだ。

 そしてさらに、この転生者には大きな問題があって――



「ぐぁああああああああっ!!!!!!!!!」



「うわぁっ!?」

「ひっ!?」


 突然の雄叫びを上げる転生者に、私たちはついつい怯んでしまう。

 あの雄叫び自体は、相手に恐怖を与えるレアスキル。

 しかし問題はそこでは無くて――


 ……実はあの転生者、理性が飛んでしまっているのだ。

 故に、こちらの声なんて届かない。

 説得をしようにも、懐柔をしようにも、交渉をしようにも、そもそもその前提が成り立っていないのだ。


 攻撃自体も、かなりの剣術を使えている様子だ。

 しかしここは、ルークの方が一枚上手(うわて)

 ただそのおかげで、転生者はルークを避けるようにこの街を狙ってくるようになってしまったんだよね……。



「……ただの狂戦士なら、救いはあったんですけど……」


「案外、冷静な判断をしてきますからね……」


 私とエミリアさんも、さすがに少しくらいはぼやいてしまう。

 ただ、他の転生者もこれくらいの戦いは出来るはずだったんだよね。

 改めてそう考えると、ゼリルベインの転生者にはやはり恐ろしいところがあるわけで……。



「――フロスト・ランス!!」


 パキイィインッ!!



 エミリアさんの魔法が、転生者の直近で発動していく。

 しかしその魔法の特殊効果もダメージも、思うように出てはいない。


 ……良くは分からないが、そもそも魔法の効果がしっかりと現れてくれないのだ。

 もしかしたら、ユニークスキルで『魔法無効』なんてものを持っているのしれない……?


 そうであれば、完全に物理攻撃に分類される私の魔法の出番だとは思うんだけど――

 ……肝心の『弾』が、転生者に届くまでにダメージを受けてしまうようなのだ。


 勢いは少し残っているようで、多少は吹き飛ばせるんだけどね。

 でも、ただそれだけ。



「……はぁ、今回私は役立たずですね……。

 エミリアさん、頑張ってください……」


「わ、私も支援魔法を掛けるくらいですから……っ!」


 支援魔法に加えて、ルークは竜王の加護も持っている。

 それと互角に勝負できているのだから、今回の転生者は最強の部類に入るのだろう。



 ……どうすれば良いんだ、こんな敵……。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 数時間の交戦を経て、次第に日が暮れてきてしまった。


 神剣アゼルラディアには癒しの効果があるから、ルークの戦闘の疲労を取り続けてくれてはいるけど――

 ……だからと言って、無制限に戦えるということでも無い。


 逆に言えば、何であの転生者はここまで戦えてしまうのか。

 遠目からの鑑定ではあるが、通常スキルやレアスキルの中に、それを実現しそうなものは何も無い。


 ……それなら、鑑定では見えないユニークスキルに秘密が……?


 しかしそうすると、『無差別虚無ダメージ(仮)』『魔法無効(仮)』に続いて、3つ目のユニークスキルと言うことに……?

 今までの転生者はそれぞれ2つまでしか確認できていないから、そうとなれば、こちらとしてはネガティブサプライズになってしまうわけで……。



「……うぅん。

 どうしたものか……」


「他の手、他の手……。落ち着いて考えましょう……。

 私たちだって、ここまでいろいろな経験をしてきたんです。

 だからアイナさん、きっと何か方法はあるはずですよっ!」


「そ、そうですよね……。

 ここまでの、経験――」



 ……経験、かぁ。


 そもそも敵は、ちょっとしたものなら消してしまう。

 アルケミカ・クラッグバーストもそうだったし、こっそり試してみたアルケミカ・ディスミストもすぐに効果を失ってしまった。


 霧なんて、細かい粒の集まりだからね。

 それこそ一瞬でダメになってしまったんだけど――


 ……それなら逆の発想で?

 大きな……? たくさんの……? 一瞬で消すことができないもの……?



「――……あ!

 それならちょっと、試してみたいことがあるかも……!」


「おお! さすがアイナさん!!

 どんな方法ですか!?」


「ちょっと準備に時間が掛かりそうですけど……。

 至急、グレーゴルさんとリリー、ミラを呼びましょう!」


「ふぇ? 思わぬ三人が……」



 しかしこの三人、過去に大活躍した実績を持っているのだ。

 その力と私たちの力を合わせて、ここは何とかしてみせよう……!!

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