71.魔法のお店
「――はぁ、アイナさん。たくさん買いましたねぇ……」
薬草類を扱っているお店から出ると、エミリアさんにそんなことを言われた。
今日は冒険者ギルドの依頼は控え、色々と買い出しに来ているのだ。
「いざというときに何があるか分かりませんからね。あと、あるときに買う! これが重要です」
「確かに貴重な薬草もありましたしね。あれを使うとどんなものが作れるんですか?」
「それは秘密です」
「えっ」
スキルはあれども知識は無し。
ユニークスキル『創造才覚<錬金術>』で調べれば分かるけど、瞬間的には分からないからここはいったん濁しておいた。
これからの旅の途中でどんな薬が必要になるか分からないから、とりあえず色々と作れるように種類と量を買い漁っているところなのだ。
以前もやったが今回は余りあるほどの資金が私にはある。もう欲しいものは即ゲット。お金の力ってすごいよね!
「でもこれでまた色々な薬を作れるようになるんですね。うーん、やっぱりすごいなぁ」
「ふふふ。錬金術師なんて材料が無ければ何もできませんから。
――……それにしても、薬ですかぁ……」
振り返ってみれば、何だかんだで薬を作ることが一番多い。
ポーションみたいな回復薬は必需品だし、身体が悪い人もいて他に治す方法も無いみたいだし。
でも錬金術には薬以外のジャンルもあるんだよね。
爆弾は作ったことがあるけど、それ以外にはいわゆるアーティファクト系の錬金術だとか。
「……ところでエミリアさん。アーティファクト系の錬金術ってご存知ですか?」
「はい、ちょっとしたものと、すごいものしか見たことがないですけど」
「ちょっとしたもの、と、すごいもの?」
「ええ。ちょっとしたもの、っていうのは――本とその鍵ですね。
魔法の力で本が開かないようになっているんです」
「へぇ。その鍵じゃないと開かないって感じですね」
「はい。あともうひとつは王都の、とある施設なんですが――これの、とある扉ですね。
必要な鍵がいくつもあって、それで開けるための手順も複雑で」
「ほうほう……。って、両方とも鍵ですね」
「この国ではそんなにアーティファクト系の錬金術って広まってませんからねぇ……」
「へー、そうなんだ」
「というか、そういうのはアイナさんの方が詳しそうですけど……」
「い、一般的な認知度はどうなのかな……と思いまして!」
「なるほど。アイナさんの生まれたところではもっと盛んなんでしょうね~」
むぐ。今回は先にそんなことを言われてしまった。
まぁこの世界の人から見れば、空を飛ぶ乗り物とか遠くの人と話せるスマホとかもそんな扱いになりそうだけど。
「それじゃ、ルークは何か知ってる? アーティファクト系の錬金術」
「え? そうですね……。そもそも魔法剣が、鍛冶と錬金術の合いの子みたいな感じですからね。
それ以外だと――やはり特殊な効果を秘めた指輪とかでしょうか」
「特殊な効果を秘めた指輪……」
私のつぶやきに、エミリアさんも言葉を続けた。
「――あ、そういえばそういうのも入るんですか? それなら私もそれなりに見ますね」
「そこらへんは少し境目がややこしいですからね。
それで、こういう指輪は魔石のような効果を持つのですが、人の手で作ることができるのが大きな違いなんです。
魔石は自然に作られるものなので、人の手では作れないですから」
ふむふむ、なるほど。何となく雰囲気は分かってきたぞ。
指輪とかのアクセサリの形になるのなら、何かプレゼント用に作っても良いよね?
錬金術での『置換』も試してみたいし。
「うん。そこらへんもちょっと試しで作りたくなってきたので、薬草と鉱石以外も買って帰ることにしましょう」
「え、まだ買うんですか?」
「もちろんです。私は作りたいものをすべて作るんです。材料に妥協はできません」
「素晴らしい向上心です。それでアイナ様、次はどちらに?」
薬草はついさっき買ったし、その前は鉱石関連を見ていたから――次は何だろう?
今までだと、ここら辺で探すのを止めていたんだよね。
「もしかして、魔法関連のお店ってあるのかな?」
「魔法関連……ですか。確かそれもあったと思いますよ。街の外れだったかと思いますが」
何とか思い出すルーク。そういうのもやっぱりあるんだね。
街の外れということは、あまりメジャーなジャンルでは無さそうだけど――。
「うん、そこもちょっと行ってみたいかな。
今までと違うものが作れるようになるかも?」
「それでは向かいましょうか」
「うん、案内よろしくー。昼食はその後にしましょうね」
「はい」
「はぁい」
買ったものを全部アイテムボックスに入れ終わると、私たちは街の外れにのんびりと向かうことにした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ひぇっひぇっひぇっ……。いらっしゃいませ……」
「あ、どうも……。見せて頂きますね」
「はい、ごゆっくり……」
ルークに案内されたお店に入ると、魔女の帽子を被った白髪のお婆さんが出迎えてくれた。
瓶底のような眼鏡もしているし、いわゆる『魔女のお婆さん』という言葉がよく似合う風貌だ。
お店は薄暗くてかなり手狭。そこには様々なものが並べられていた。
「何か色々ありますね……。ああ、やっぱり薬草みたいのもありますね」
とりあえず近くには瓶の中で液体に浸った植物の根のようなものが置いてあった。何の根だろう?
「それかい? マンドラゴラの根だよ……」
お婆さんは私の様子を察して説明をしてくれた。
薬草の一種ではあるのだが普通の薬草よりも魔法的な力が強く、特殊な薬や呪術ではよく使われるらしい。
このお店ではそこら辺の力をしっかり出すために特殊な液体に浸けて保管しているのだとか。
「――それに、抜くときに悲鳴を上げるからねぇ……ひぇっひぇっひぇっ」
あ、やっぱりそういうのがあるんだ?
悲鳴を上げる植物……イヤだなぁ……。
「他の薬草屋では見かけませんでしたけど、やっぱり扱いが難しいんですか?」
「そうだねぇ……。まぁもし普通の薬草屋が手に入れたとしても、結局はこっちに流れてくるかねぇ……。
扱いが専門的だし、需要も狭いしね……」
なるほど。それなら薬草が色々欲しい場合は、こういうお店にも寄る必要が出てくるのかな。
周囲を改めて見回すと、植物以外にもいろいろあった。
骨や皮といった、何かの生き物の一部。何やらいちいち魔術っぽい。
紙に描かれた何かの魔法陣。魔法はよく分からないけど、何かファンタジー感が満載だ。
石の欠片。うーん、宝石や魔石とは違うけど、何だろう?
それ以外にも、アクセサリで使うような細かい鎖なども置いてあった。
「はぁ、色々ありますね」
「ひぇっひぇっひぇっ……。まぁ、こういう店は種類をおいてなんぼだからねぇ……。
ミラエルツはこういう店は流行っていないから、他の街にいけばもっと大きいところもあるだろうよ」
ふむ、色々あるように見えるけどやっぱり狭いしね。それもそっか。
「ちなみに、この辺りで一番大きいお店ってどこでしょう?」
「ミラエルツには無いよ。ここが一番大きいからね……。
これ以上となると、王都か、その向こう側の街さね」
王都の向こう。
今まで王都が終着点みたいな感じだったけど、その向こう側もあるのか!
……って、そういえば地図を見ると、クレントスから王都までの距離くらいはあるんだよね。
「でもこのお店にある分でも色々作れそうですよね」
軽く『創造才覚<錬金術>』で調べてみると、何やら今まで見覚えが無いようなものがたくさん頭に浮かんできた。
いわゆる指輪とかのアーティファクト系も多そうだ。
「ひぇっひぇっひぇっ。作るってことは、お前さんは錬金術師なのかい?
ここにあるものは全部、扱いが難しいけど……大丈夫かねぇ……?」
あ、大丈夫です。レベル99ですから。
「多分、大丈夫だと思います! ちなみにここに並べていないものってありますか?」
「ああ、たくさんあるよ……。でも、一見のお客さんにはちょっと見せられないかねぇ……」
不敵に笑うお婆さん。
く、ここは実力を見せないといけないのか!?
……まぁ無理して見せてもらう必要は無いんだけど。
「それじゃ今日はここら辺ください。
ここからここまでと、あそこからあそこまでと、そこからそこまで」
「ひぇっ……?」
「「ひぇっ」」
大丈夫、金額は計算してるから。これは経費です、無駄遣いではありません。




