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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第13章 神々の空へ
706/911

706.重圧

 ――季節はいつの間にか、冬。


 そろそろ年末年始の時期ではあるんだけど、こっちの世界ってあんまりイベントが無いんだよね。

 クリスマスは信仰が違うから当然無いとしても、お正月……みたいなのはあっても良さそうな気がするんだけど。


 そんな季節感を踏まえながら、私はいつもの三人で暖炉に温まりながら雑談をしていた。



「……なるほど。

 アイナさんの世界では、いろいろなイベントで盛り上がっていたんですね」


「お菓子の業者が誘導していたり、とかもありましたけどね。

 特に私の国では、他の国の文化を柔軟に取り入れて、いちいちイベントにしていたんですよ」


「ふむふむ……。

 年末年始だと、例えばどんなものがあるんですか?」


「暮れの頃には、聖人の生誕を祝うのがありましたね。

 そのときはケーキを食べたり、鳥の丸焼きを食べたりして」


「おー」


「年末の最後の日は、おそば……えーっと、麺料理を食べますね」


「ほほう……」


「年が明けると、お節料理っていう、縁起物の……ちょっと保存食っぽい感じのやつを食べるんですよ。

 あとは年明けうどん……これも麺料理なんですが、そう言うのを流行らせようとしていた勢力もありました」


「暮れても明けても麺料理、ですか。

 何だか面白いですねー」


「……あの、アイナ様?

 さっきから食べてばかりのような気がするのですが……」


 ひたすら感心するエミリアさんに対して、冷静に突っ込んで来るルーク。

 確かに食べ物のことばかりだった……。これもエミリアさんと主に喋っていたせいか……。


「も、もちろんそれ以外にもあるからね!?

 プレゼントを交換したりとか、親戚で集まって騒いだりとか!」


「あ、家族や親戚で集まるのはこっちでもありますよね。

 ……私はちょっと、縁がありませんでしたけど」


 そんなことを、ふと言うエミリアさん。

 エミリアさんって確か、幼い頃にはもう王都の大聖堂に入っていたんだよね。

 それからは大聖堂のみんなが家族のようなものだったんだろうけど、私のせいでほとんど全ての縁が切れてしまったわけで……。


「……ううっ、大丈夫です。

 私はエミリアさんの家族のつもりですよ。

 お年玉、たくさんあげますからね」


「わ、わーい?

 ……あの、お年玉って何ですかね……」


「厄を落とす感じの、縁起物とかではないでしょうか」


 エミリアさんの問いに、ルークは何とか答えを捻り出そうとしていた。

 ……まぁ、名前からは想像できないか。


「お年玉って言うのは、大人の親戚が子供の親戚に渡すお小遣い……みたいなものです。

 大体、銀貨50枚とか100枚くらいの金額が多いかな?」


「へぇ……。

 子供にとっては大きい金額ですね!」


「確かに、それだけあればいろいろ買えてしまいますね……」


「うん、結構な臨時収入なんだけど――

 ……ちなみにうちは、全部親の懐に入ってましたーっ!!」


「えっ、酷いっ」


「まさか、親の臨時収入になるとは……っ!」


「でもまぁ、学校とかにも行かせてもらったわけだしね。

 そう言うのでお金が掛かる分、私は仕方ないとは思っていたかな。

 最終的に、本気で全然使わせてもらえなかったけど」


「……うーん。

 さすがアイナさん、物分かりが良すぎです……っ!」


「さすがアイナ様……!」


 ……そこ、喜んでも良いのかなぁ……。

 実はあんまり、褒めてなく無い?



「――っと。

 思わず私の世界談義になってしまいましたけど、そろそろ出掛けることにしましょうか」


「はい! 今日はどちらに行きますか?」


「またお城の方に行こうかなーって思ってます。

 建物の方は結構出来ましたけど、内装とかで手伝えることもありそうなので」



 ちなみに私も、建築のお手伝いばかりをしているわけでは無い。

 時間を見ては、『水の迷宮』の20階辺りで戦いの特訓もしているのだ。

 ……ミラに近道を作ってもらっているのは極秘事項。それは私たちだけの特権だからね。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 現場に到着して仕事を探すと、庭園の予定地で作業をたくさん見つけることが出来た。


 私はもちろん錬金術でお手伝い。

 エミリアさんは浮遊魔法などを使って器用にお手伝い。

 ルークは私の護衛をしながら、主に力作業でお手伝い。


 錬金術もかなり便利ではあるけど、何が何でも万能ということも無い。

 例えば煉瓦(れんが)を運んだり積んだり、植物を植えたり整えたりとかはもうお手上げなのだ。


 まぁ、竜王の加護があるから私でも力仕事は出来るんだけど――

 ……でもそこは、私のお淑やかなイメージというやつもあるわけで。

 従って筋肉を彷彿とさせる仕事については、基本的にはルークに任せることにしていた。



 ――そんなこんなであくせく働いていると、不意に私を呼ぶ声が聞こえてきた。


「アイナ様っ!!」


「はーい? ……あ!!」


 手を止めて声の方を振り向くと、そこには何とも懐かしい顔があった。

 庭木職人のハーマンさんだ。


 ……覚えておいでだろうか。

 彼は私の王都のお屋敷で働いてもらっていた、エイムズ家の大黒柱。

 奥さんのダフニーさんと、子供のダリル君とララちゃんと一緒に働いてくれていたのだ。


「何とも、何ともお久し振りでございますっ!

 王都では突然の別れとなってしまい、私共も大変心配をしておりました……!

 アイナ様も、さらに立派になられて……うぅっ」


「……その節は、本当にご心配をお掛けしました。

 でもこうしてまた会えたのが、とっても嬉しいです!

 それにしても、ハーマンさんもこっちに来ていたんですね」


「先日こちらに来たばかりなのですが……。

 実は王都ではなかなか仕事が見つからない有様でして……。

 そんな中、こちらの仕事をピエール商会に斡旋して頂いたんです」


「なるほど、向こうでは職人さんをたくさん募集しましたからね!

 ちなみに、ご家族みんなで来たんですか?」


「はい! ダフニーもダリルもララも、みんなアイナ様に会いたがっていますよ。

 よろしければ今度、会ってやってもらえませんか?

 ダリルもララも、ずいぶんと大きくなりましたので」


「わぁ、それは楽しみですね……!

 ……あ、そうだ。またお屋敷を構えているんですけど、クラリスさんたちも来ているんですよ!」


「え? ……おぉ、そうだったんですか!

 懐かしいなぁ、是非ともお会いしたいですね……!」


「メイドさんも5人揃っているので、是非とも!

 今度、本当にお屋敷に遊びに来てくださいね。もしよろしければ、お庭の手入れもまた手伝って欲しいですし」


「それはありがたいお言葉です……っ!

 承知しました、アイナ様のご都合の良い日に伺わせて頂きます!」


「みなさんの予定を聞いて、あとで教えてください。

 近場だと……私は明後日なら大丈夫かな?」


「分かりました、それでは明後日でお願いします!」


「即答!?」


「ははは、アイナ様のご都合に合わせるのが筋ですから!」


 ハーマンさんは嬉しそうに言いながらも、目にはずっと涙を蓄えていた。

 ……本当に、長いこと心配を掛けちゃったんだなぁ……。



「――あれ?

 ハーマンさんじゃないですか!?」


「おぉ、本当ですね。お久し振りです!」


「何と! エミリアさんとルークさんまで!?

 いやー、嬉しいなぁ……。本当に、よくぞ皆さまご無事で……」


 今度は涙をぽろぽろと流し始めてしまうハーマンさん。

 それを見ているだけで、私も涙が釣られて出てきてしまう。


「アイナ様、折角お会いすることが出来たのです。

 ハーマンさんをお屋敷に招待するのはいかがでしょう」


「ん、もう誘い済み!」


「おお! さすがアイナ様!」


「ハーマンさんのご家族も来ているようだから、明後日にみんなで会おうね!

 私たちと、メイドさんたちと――……あ、そうだ。

 レオボルトさんもこの街に来ているんですよ!」


「え? レオボルトさんまで?」


 その名前を聞いて、少し苦笑いをするハーマンさん。

 ……やっぱりレオボルトさんがいるのって、ちょっと予想外だよね。



 ――そんなこんなで、王都でお世話になった人が、またマーメイドサイドにやって来てくれた。

 これは単純に、ただただ嬉しい……って感じかな。


 ……でもその分、増えた人数の分だけ、この街を守らなければいけないと言う重圧は増えてしまう。

 だから私たちは、穏やかな日常を過ごしながらも……戦いには必ず勝てるように、準備を進めていかないといけないのだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] それが街を作るということだからね
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