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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第13章 神々の空へ
705/911

705.宝箱

 マーメイドサイドも、ようやく『怠惰』の影響から抜け出すことが出来た。

 これでいつも通り、勤勉な街が戻ってくると言うものだ。


 そんな中、私は勤勉なセミラミスさんと一緒に、街の外に出ていた。



「――はわわ……。まさか、こう来るとは……。

 はわー」


 もはや『はわわ』が口癖になっているセミラミスさん。


 彼女は今、私のお屋敷の3階に住んでいる。

 その高さであればベルフェゴールの『怠惰』の影響は受けなかったはずなんだけど――

 ……そのときはちょうど、戦いの場に向かっていたところだったんだよね。


 つまり街の中を走っていたわけで、セミラミスさんもしっかりと『怠惰』の影響を受けてしまっていたのだ。



「まったく、いろいろと予想外でしたよね……。

 まさか、街壁をぶち抜いてくるとは……」


「は、はい……。

 せっかく全ての街門に……、『解析』の魔法を仕込んでおいたのに……」


「でも今回は、結構どうしようも無かったのかもしれませんよ。

 虚無属性だと思われる『怠惰の(レイジネス・)監獄(プリズン)』とやらも、ここからは少し離れた場所で使っていましたし」


「そうですね……。

 あそこの距離だと……、少し……足りなさそうです……」


 セミラミスさんは目で距離を測りながら、手元の紙に何かを書き記していた。

 今は先日の襲撃された状況の見分と、次にどう備えるかを考えているところだったのだ。


 ……1回やってダメなら、改善を施して、次に備えていく。


 物事を良くしていくには、結局はそれが大切なのだ。

 一見地味に見えたとしても、1回で進む距離が少なかったとしても、最終的にはそれを積み重ねていくのが一番早いのかもしれない。


「でも、戦いになるとなかなか難しいんですよね。

 転生者に『あそこで虚無属性を使って!』とも言えないですし……。

 普通に戦っても強いし、さらにどんなユニークスキルを持っているか分かりませんし――」


「た、確かに……。

 うぅーん、どうしましょう……」


 私の言葉に、セミラミスさんは素直に悩んでしまう。

 ここはどうにかしてもらいたいところではあるけど、あまり悩まないようには進めてもらわないとね。


「いっそのこと、『街のどこでも解析可能!』……みたいには感じには出来ないんですか?」


「さすがにそこまで大きくすると……、結構な魔法陣が必要なので……。

 街の外側にも、広大に描くことになりますし……」


「ふむ、なるほど……。

 逆に、バレバレであっても使わざるを得ない場所を作る……とか!」


「使わざるを得ない……。

 なるほど、それなら狭い範囲でも……、良さそうですけど……」


 そう言いながら、セミラミスさんはメモを続ける。


「何か、アイディアは出てきそうですか?」


「あ、あまりそう言うのは得意では無くて……。

 むしろアイナ様の方が、何か出そうですけど……」


「うーん……。

 ……例えば、宝箱を置いておいて」


「はい……」


「開けると封印が発動して」


「はぁ……」


「そこでは六属性が使えない……とか」


「ふむ……。

 そうすると、『ならば虚無属性で』……と言うことに?」


「そうです、そうです。

 穴はたくさんありそうですけど、完璧ですよね!」


「アイナ様……。

 それは、完璧と言うのでしょうか……」


「もしかしたら、言わないのかもしれません!」


「ま、まぁ、はい……。

 それにしても、宝箱……ですか。転生者の方は、宝箱を開けてくれますでしょうか……」


「宝箱には浪漫が詰まっていますからね……!

 それにここに来る転生者って、ちょっと馬鹿っぽいじゃないですか。

 だからきっと、問題無く開けてくれると思いますよ!」


「馬鹿っぽい……、って……」


 私の言葉に、セミラミスさんはどう答えて良いのか困ってしまう。

 確かにこの街に来る転生者たちは、驚異の者に他ならない。

 でも実際に戦ってみると、みんなどこかしらが抜けているんだよね……。


「ま、虚無属性の解析が出来なかったから、セミラミスさんもしばらくはやることがありませんよね?

 ちょっとした悪戯を仕込んでも問題無いと思うので、ヴィオラさんと一緒に考えてみてくれませんか?」


「は、はい……。

 ヴィオラさんにも、しっかり手伝ってもらわないと……、ですね……」



 そのヴィオラさんではあるが、彼女は『怠惰』の影響をまるで受けていなかった。

 何故かと言えば、あの瞬間はお屋敷の3階にある自室に引き籠っていたからだ。

 高さ的には問題なく、何の影響も受けなかったらしい。


 ……ただ、まわりが突然ダラけ始めただけに、これ幸いと一緒になって『怠惰』に掛かった振りをしていたようだ。

 何と言うか、セミラミスさんとは正反対の、仕事嫌いなところが出て来ちゃっているよね……。


「ちなみにセミラミスさん、『怠惰』の逆の状態異常は作れませんかね?

 ヴィオラさんに掛けてあげたいんですが」


「あはは……。

 ちょっと、検討してみます……」


 私の無茶を断らないあたり、セミラミスさんにも思うところはあるのだろう。

 名前はそのままだけど、『勤勉』みたいな状態異常が出来ても良さそうだよね。

 ……状態『異常』なのかは、一旦置いておいて。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 3日ほどもすると、セミラミスさんは早々に試作品を作って来てくれた。

 とりあえずはお屋敷の庭に、その宝箱を設置してもらう。



「……正直、バレバレなんですけど……」


 何がバレバレかと言えば、大きな魔法陣のど真ん中に宝箱が置かれているのだ。

 いくら何でも、これでは怪しく思わない方が難しい……というレベルだ。


「本当に、バレバレ……ですね!」


「要件を取り入れると、これが限界でして……、はい……」


「ふーむ……。

 ダリルニア王国ではタナトスに魔法を封じられましたけど――

 ……あれ? 全部の魔法を封じてしまえば良いのでは?」


「え? それだと虚無属性が……」


「虚無属性だけが発動できると信じさせて、そのまま使わせてしまえば……?」


「いえ、それではダメなんです……。

 魔法が発生した瞬間から、形になるところまでを解析しなければいけないので……」


「むぅ……。

 つまり、『使ったけど封じられていた』って言うのはダメなんですね……」


「はい、残念ながら……」



 なかなか条件が難しいところだ……。

 ……でもまぁ、とりあえず試作品は1つ出来たのだ。

 これはこれとして、一応設置したままにしておこうかな。



「それじゃ、次を考えてみましょう」


「分かりました……。

 ちなみに今回の宝箱は、どうしますか……?」


「あ、念のため取っておこうかなって」


「それなら……、ダメージも入るようにしておきますか……?」


「え?」


「虚無属性の魔法を使ったら……どっかーん、みたいな感じで……」



 ……セミラミスさんも、なかなかお茶目なことを言うようになったものだ。

 もちろんそれは、採用しておこうかな。


 普通の人なら虚無属性の魔法なんて使えないから、安全的にも問題は無いでしょ、きっと。

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