7.錬金術を使った錬金術(?)
目が覚めたのは次の日の朝。
「うわ、もしかして丸一日くらい寝ちゃった!?」
大怪我をした昨日の今日なので、仕方ないと言えば仕方ないのだが、やはり少し寝過ぎただろうか。
とは言え、のんびり寝ていたわけではなく長い時間をかなりうなされていた気がする。
起きた瞬間、嫌な汗をかいていたみたいだし……。そりゃそっか、何せちょっと前に、死に掛けたんだから。
それにしてもルイサさんからもらった服に着替えてから寝ちゃったもんだから、服に変なシワが付いてしまった。
何で寝る前に着替えちゃったんだろ……とほほ。
――などと自分のお間抜けな行動に注意を向け、嫌な記憶から逃れようとする。
ああもう、異世界に来たのは良いけど、三日目にしてトラウマ爆誕だよ。
そんなことを思いながら、服のシワを取りながら、出来るだけ身だしなみを整えていく。
でも、嫌なことはあったけど新しい生活は始まっているんだ。頑張っていかないと、ね!
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「アイナさん、こんにちは!」
冒険者ギルドの受付に行くと、受付のケアリーさんが明るい声で応対してくれた。
この前と同じ、明るい声。
ああ、日常ってこういうことを言うんだなぁ――と、死線を経験した私はその日常を噛み締めた。
「こんにちは! 今日は初級ポーション用の空き瓶を売って頂きたいんですけど」
「はーい。おいくつお買い上げですか? ひとつ銅貨3枚ですー」
癒し草が50本あるから、今回は50個買うことにした。
50本の内の30本は依頼で消化しようと思っていたんだけど、初級ポーションが普通に作れたので、金銭効率を優先して全部自分で作っちゃおうかなと。
さて、空き瓶ひとつで銅貨3枚。ってことは銅貨3枚×50個で銅貨150枚。銅貨10枚が銀貨1枚と同じだから――
「50個お願いします。銀貨15枚で良いですか?」
「わ、計算早いですね。えぇっと……そうですね、銀貨15枚になります! えっと、50個も持ち帰れますか?」
「アイテムボックスがあるので大丈夫です!」
「あ、そうでしたね! ではあちらの扉から、担当者に出させますのでお待ちください!」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「アイナさん、こんにちは! ……あれ、さっきもいらっしゃいましたよね。何か忘れものですか?」
冒険者ギルドの受付に行くと、受付のケアリーさんが明るい声で応対してくれた。
「今度は買い取りをお願いしたくて……」
「あ、そうなんですね。今日の買取品目はこちらになります。他のものでしたら担当の者と相談になります」
時間は昼過ぎ。
先ほど買った瓶で初級ポーションを作り、それを売りにきたのだ。
買取品目の中に初級ポーションがあることを確認する。
「えっと、初級ポーションを50個お願いします」
「わぁ、錬金術師さんですもんね! ポーションの需要は多いので助かります! えっと……50個なので、銀貨125枚ですね。金貨も混ぜますか?」
金貨1枚は銀貨50枚と同じ。
銀貨125枚は金貨2枚と銀貨25枚になる、っと。
「はい、金貨2枚と銀貨25枚でお願いします」
「分かりましたー。あ、品質はC級以上でないと買い取れませんのでご了承ください。担当者に検品させますので、少々お待ちくださいね」
「はーい」
買い取りには品質も関係するのね。
でもさっき鑑定してみたら全部S+級だったし、そこは一安心かな。
しばらくすると、ケアリーさんが慌てて話し掛けてきた。
「あ、アイナさん!? あの、その、さっきの初級ポーションなんですけ、どっ!!」
「え!? ケアリーさん、落ち着いて!? 何か問題でも!?」
「あの、検品担当者が、あの、全部、品質がS+級だって! 言ってたんですけど!?」
ふふふ、すごいでしょ?
「はい、それが何か?」
「えっ!? えぇっと、あの、一般的に、どんなに設備を良くしても、品質がS+級になるの、は、マレ! 稀なんです、けど!」
あ、そうなんだ……。
最高品質のS+級とはいえ、さすがにそこまでは貴重なものじゃ無いかと思っていたんだけど。
でも稀な品質が突然50本。えーっと、これは何か言い訳しなきゃいけないのかな……?
「あの、えぇっと、私の故郷に伝わる秘術がありまして、それを使うとですね、S+級が出来やすいんです」
とっさに不自然なウソを付く。言い訳にすらなってない気がするよ。
「へ、へー。そ、そうなんですか!? 私、この仕事始めてからS+級を見るのが初めてで。検品担当者も『なんじゃこりゃ!』ってすごい焦ってたからもう、パニクっちゃって……」
「そ、そうなんですね、あはは……」
困ったな。今のところ私、S+級しか作れてないんだけど……。
もしかしてこの品質でいろいろ作ると、他の錬金術師が迷惑しちゃったりする……?
「あ、それでですね、値段の相談なんですが……。さすがに効果が高いので、とは言え中級ポーションくらいの効果なので、買い取り金額は2割増しで良いですか……?」
銀貨125枚の2割増し、というと銀貨150枚だから、つまり金貨3枚。キリも良くて、いいんじゃないかな。
「はい、ではそれでお願いします」
「分かりました、それではご用意しますね。……それにしても」
うん?
「アイナさんって、すごい錬金術師さんだったんですねぇ……レベル12なのに……」
いえいえ。実はレベル99なんですけどね……。
その後代金を受け取り、改めて初級ポーション用の瓶と癒し草を50個ずつ購入する。
冒険者ギルドで素材を買って、冒険者ギルドで完成品を売る。
採集のために街の外に出なくても、買い取りが続く限りお金の心配は無い無限ループを獲得!
まさに錬金術。いや、本当に錬金術だけど。あれ? ちょっとややこしいや。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ケアリーさんの話を聞く限り、スキルの『一人前』のレベルは20程度らしい。
今公開している私の錬金術のレベルは12なのだけど、S+級で注目を浴びてしまう手前、少しずつ上げていこうと思う。
一気に上げてもアレだから、一旦レベル14にしておこうかな。
ユニークスキル『情報秘匿』で調整っと。
これで良いかな?
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【アイナ・バートランド・クリスティア】
種族:ヒューマン
年齢:17才
職業:錬金術師
一般スキル:
・錬金術:Lv99(Lv14)
・鑑定:Lv99(Lv10)
・収納:Lv99(Lv7)
レアスキル:
・工程省略<錬金術>:Lv99(Lv1)
・不老不死(-)
ユニークスキル
・情報秘匿
・英知接続
・創造才覚<錬金術>
・理想補正<錬金術>
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うんうん、ちゃんとレベル14になってるね。
それにしても、レアスキルにしっかり『不老不死』があるや。やっぱりあの日のことは、夢じゃないんだよね……。
しかし『(-)』ってなんだろう? えーい、鑑定っ!
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【(-)】
レベルが存在しないスキル、且つ、
『情報秘匿』の効果で公開されていない場合の表記
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……あ、はい。
まぁつまり、他の人に見えませんよってことね。りょーかいです。