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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第13章 神々の空へ
696/911

696.逃げ

 ヒマリさんは私に斬られた脇腹に手を当てながら、しりもちを付いたまま細かく震えていた。


 ……ここには私とヒマリさんしかいない。

 そしてそんな状況の中、圧倒的な力の差を見せ付けてあげたのだ。

 このまま、早々に諦めてくれれば良いんだけど――



「……うぅっ。

 ゆ、許さない! あんたなんて許してあげないんだからっ!!」


 何とか立ち上がって、私のことを睨み付けてくるヒマリさん。


「まだ戦う気?」


「こんな怪我だけじゃ、私は降参なんてしないもんっ!

 私は神様からもらった力があるんだから――」


 そう言いながら、ヒマリさんは2本目の短剣を抜き放った。

 咄嗟に鑑定をしてみるが、特に超越的な要素は無いようだった。


「……その短剣が、もらった力?」


「ふんっ! 見て驚きなさいっ!!」


 その言葉に従うように、短剣の刀身には薄黄色のオーラが突然纏わり付いた。

 陽炎のような、心がざわめくようなその輝きは――


「虚無属性の魔法……!?」


 かつてオティーリエさんが使っていた魔法。

 しかしあのとき見たものよりも、危険な感じがひしひしと伝わってくる。


「そんなことまで知っているのね。

 でもこれ、魔法じゃないの。どこかの王様がまがい物の魔法を使っていたみたいだけど――」


「まがい物……」


「――こっちが本家本元!!

 このユニークスキル、『虚構消滅』こそがねっ!!」


 そう言うや、ヒマリさんは真っすぐ私に突っ込んできた。

 もちろん短剣の刃はこちらを向いている。

 これを受けてはきっといけない――



「よいしょっと」


「あれっ」



 ……ただまぁ、そうは言ってもヒマリさんの動きは見切っているのだ。

 危ない刃なのであれば、それを受けないようにするだけで終わってしまう。


「右利き? それじゃ、ごめんね」


 私はすっぱりと、ヒマリさんの右腕を斬り付けた。

 あまり出血しないように斬りはしたけど、それでもかなりの痛みにはなるだろう。


「……うえぇ……、い、痛いよぅ……。

 あんた、錬金術師なんでしょ……? この怪我、治してよぉ……」


「えぇ……。

 それじゃ治してあげるからさ、この場所から出してくれない?」


「……あ。

 そっか、そうだよね……! ここから、私だけ逃げちゃえば良いんだ!!」


「ちょっ」


「あんたはこのまま、この部屋と消えちゃいな!!

 あははっ、ばいばーいっ!!」


 突然元気になったヒマリさんは、そのまま姿を消してしまった。

 パッと消えるというよりも、凄いスピードでフェードアウトしていくような感じで……。


 ……そして残されたのは、当然のように私がひとり。


 この空間には何も無い。

 ただ真っ白な、広い広い空間があるだけ――




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「――というわけで、助けて英知さん!」


「アイナさん、お久し振りです」


 とりあえず、困ったときには英知さんだ。

 少し不安だったものの、英知の世界には特に問題なく行くことが出来た。


「数か月ぶりですね!

 雑談でもしていきたいところですが、今ちょっと困ったことになっていまして」


「『迷いの部屋』のことですよね?」


「はい! さすが英知さん!

 閉じ込められちゃっているんですけど、どうにか出ることって出来ませんか?」


「もちろん、出来ますよ。

 少し計算させてください」


 英知さんはそう言うと、私の頭に手を乗せてきた。


 姿は以前と同じ、また見知らぬ錬金術師風の女の子。

 ……少し年下にも見えるかな?


「何だか不思議な気分ですねぇ……」


「ふふっ。

 ……さて、計算は完了しました。

 元の場所に戻ったら、そのまま前に22歩、身体の向きを右に45度変えて、さらに16歩進んでください」


「前に22歩、45度右になって、16歩……。

 22、右45、16……。

 ……はい、覚えました!」


「そうしたら真上に向けて、アルケミカ・クラッグバーストを放ってください」


「え? 何で急にそんな?」


「『迷いの部屋』の空間は、あくまでも人造的な存在なんです。

 簡単に言うと、必ず継ぎ目が出来てしまうのです」


「継ぎ目……」


「あまり難しく考えなくても問題ありません。

 服を作るときに、どうしても縫い目が出来てしまう……くらいの、簡単なお話ですので」


「ふむ、なるほど……。

 その継ぎ目に思い切り強い力を撃ち込んで、空間を壊してしまう――……と」


「はい、その通りです。

 もし場所が分からなくなったら、また聞きにきてください」


「分かりました! それではまたっ!

 22、右45、16……!!」


「はい、よく出来ましたー」



 名残惜しくはあるが、私はそのまま拍手をくれる英知さんとお別れをした。

 いやー、英知さんは本当に頼りになる存在だよね!




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 元の場所に戻って、英知さんの案内通りに場所を移動する。

 そこは他の場所と全く同様、特に何もないところだった。


 しかし私としては、不安になることは全く無い。

 それだけ、英知さんへの信頼は厚いものになっているのだ。


「それじゃ早速――

 ……アルケミカ・クラッグバースト」



 ――ズガアアアアアアアァンッ!!!!!!



 いつも通りの轟音。

 その余韻の中、周囲の景色が歪むように消えていき――

 ……そして、お屋敷の廊下の景色が見えてきた。



「……ん? あれ?」


「アイナ様!?」

「アイナさんっ!!」


 私がつい声を出してしまと、ルークとエミリアさんが慌てたように話し掛けてきた。

 さっきまでは団員が1人倒れていただけなのに、今は6人ほどが集まっているようだ。


「みんな、どうしたの?」


「それはこちらの台詞です!

 アイナ様は今までどちらに!?」


「あー……。ちょっと襲撃されて、別の場所に飛ばされていたと言うか……。

 そうだ! 誰か、赤髪のツインテールの子、見なかった?」


「その人がアイナさんを襲ったんですか?

 私たちは何も見ていませんけど、それじゃこれは……その子のものでしょうか」


 エミリアさんが指差す先――

 長く延びる廊下には、端の窓に向かって血が点々と付けられていた。

 その窓も開いているところから、ヒマリさんは外に逃げたものだと推測される。


 ……来たときと同じく、ユニークスキルで帰れば良かったのに。

 もしかしたら、私を閉じ込めていたから出来なかったとか?


「まずはこの血の主を見つけたいかな。

 結構危険な力を持っているから、確実に確保しておかないと」


「分かりました。

 よし、第三騎士団の団員を可能な限り動員しろ!!

 今晩中に、必ず捕まえるぞ!!」


「「「はいっ」」」

「私も、はいっ!」


 第三騎士団の団員たちと共に、エミリアさんの返事も聞こえてくる。

 逃げる相手を追うというのも厄介な話だけど、ここは絶対に捕まえておかないとね……!

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― 新着の感想 ―
[一言] ヒマリはなんとなく仲間になりそうな予感 仲間になったら萎えるから問答無用で殺してくれたらいいんだけど
[一言] 7神の転生者はろくなことをしなさそうだから 襲ってきたら問答無用でオラクルリバース!
[一言] ヒャッハー! 狩の時間だー!
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