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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第13章 神々の空へ
695/911

695.迷いの部屋

 ――突然現れた、高ヶ坂(こうがさか)陽葵(ひまり)と名乗る少女。


 どう考えても、これは同郷の転生者なのだろう。

 こんな名付けは、この世界には無いのだから。



「……それで?

 こんな遅い時間に不法侵入をして、私に急ぎの用なの?」


「あれれ、案外驚かないんだね?

 私はどう驚かせてやろうか、ずっと考えていたってのに!」


 その一環として、この部屋の前を護っていた団員を気絶させたのだろう。

 でも、ヒマリさんの気配はそれなりに分かり易いけどなぁ……。

 何でここまで侵入出来たんだろう。


「答えないなら、人を呼ぶよ?」


「えーっ!?

 それが面倒だから、こんな時間にこっそり来てあげたんじゃん!

 勘弁してよねーっ!?」


「それはそっちの都合でしょう……。

 こっちからすれば、寝る前に突然押し掛けられたわけだし」


「……あ、それもそっか」


 ヒマリさんはあっけらかんと認めてしまった。

 もしかしたら悪い人では無いのかも? まぁ、ちょっとアレっぽいけど。


「私のところに直接来たってことは、私のことをそれなりには知っているんだよね?」


「まぁね! あんた、この街を作った人なんでしょ?

 あんたさえ倒せば、この街をもらえるって話じゃん!」


「えぇ……? 何その話……」


 私としては、そんなことは初めて聞いたわけで。

 しかし私を倒すような力を持っているのであれば、この街を奪うことは可能なのかもしれない。


「私はあんたを倒して、この街を手に入れるの!

 これで将来安泰、あとは遊んで暮らしていくだけ! サイコーじゃん!?」


 ……はぁ。

 ヒマリさんもタナトスと似たようなものか。

 転生したノリと勢いでここまで来てしまったと言うか……。


「ちなみにその話って、誰から聞いたわけ?」


「もちろん神様よ!

 てっきりこういうのって女神様だとばかり思ってたんだけど、あんなに格好良い男性だったとはね♪」


 ……格好良い?


 ふと、私は絶対神アドラルーン様の姿を思い出してみた。

 見た目が完全におじいちゃんだったから、格好良い……とはなかなか言えなさそうだ。


 となれば、他の心当たりはひとつしかない。

 それは――


「……ゼリルベイン?」


 それはルーンセラフィス教に伝えられる、異端の神の名前。

 六属性から外れた、虚無属性と呼ばれるものを司る神だ。


「あ、知ってたの?

 もしかして、あんたも会ったことがあるの?」


「ううん、私は名前しか知らないよ」


「……ああ、そっか。あんたはあの神様に転生させてもらったわけじゃ無いのね。

 なるほど。だからあの神様も、この街をどうにかしたいってわけか……」


 ヒマリさんの顔が、何となくニヤついた気がした。

 ……嫌な笑いだ。見ていて虫唾(むしず)が走る。


「話を戻すよ?

 それで結局、ヒマリさんは本気で街を獲りに来たわけ?

 私をここで倒して、ゼリルベインに伝えて――

 ……それで? そのままこの街に居座るつもり?」


「そう! だからあんたは、大人しく倒されてよね!」


「そんなことをさせるわけにもいかないでしょ……。

 それにここは私の本拠地。このまま仲間を呼べば――」


「おぉっと、そうはさせないんだな!!」


 ヒマリさんがそう言った瞬間、辺りの風景が一瞬で歪むのを感じた。


「ちょっ!?

 こ、これは――」


「私がもらったユニークスキル、『迷いの(ラビリンス)部屋(ルーム)』……っ!!

 はーい! 一名様、ごあんなーいっ!!」




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 ……私は気付くと、おかしな空間に立っていた。

 具体的には何とも言えない感じではあるが、絶対神アドラルーン様と会った世界に少しだけ似ているかもしれない。

 似ている……とは言っても上手く説明できないが、あの世界の劣化版……というような感じがしてくる。


 そんな分析をしていると、ヒマリさんが私の目の前に現れた。


「や、驚いた!? 凄いよね、このユニークスキル!

 あ、そうだ。あんたも転生者なんだよね? ユニークスキルは持ってるの?」


「……錬金術に特化したものをもらったよ」


「へー……。

 それじゃもう、私の勝ちで決まりじゃん!

 ごめんね、あんたが生きてると街がもらえないから、ここで倒させてもらうよ!」


「ここでやられると、どうなっちゃうの?」


「んー……、分からないなぁ?

 でもこの部屋は、空間を捻じ曲げて作られているんだってさ。

 だから表の世界にはもう、出てこられないんじゃない?」


 ヒマリさんはあまり興味が無さそうに、簡単に答えてくれた。


「……ちなみに、私のお屋敷に忍び込んだのはどうやったの?

 騎士団の皆さん、結構な実力者揃いだったと思うんだけど」


「あー、本当にね。少し近付くとすぐに気付かれちゃうんだもん!

 だから私は、ユニークスキルを使って上手く忍び込んだの。ふふんっ、便利なスキルでしょう!」


 ……確かに便利なスキルだ。

 それにいつでもどこでも、こんな空間が自由に作り出せるだなんて……。

 これを応用したら、もしかしてアイテムボックスの亜種みたいな感じで使えるかもしれない。


 ……まぁそれは置いておいて。


 私はふと、自分のアイテムボックスを軽く起動させてみた。

 それ自体に問題は無い。


 ……ということはつまり、『迷いの(ラビリンス)部屋(ルーム)』では、空間を完全に掌握することが出来ない。

 便利ではあるが、それなりに抜けもある――そんな感じのユニークスキルなのだろう。



「そう言えば、タナトスって人は知ってる?

 以前に会った転生者なんだけど」


「ん? 名前だけはねー。

 神様から聞いたんだけど、その人は何も結果を残せなかったんだってさ。

 だから私は、そいつの分まで頑張ってあげるの♪」


 ヒマリさんは楽しそうにそう語った。

 なかなか健気な子でもありそうだけど……、しかしどこかふざけた感じは伝わってきてしまう。


「はぁ……。私が会う転生者たちは敵ばかり……。

 ……私も出来るだけ、抵抗はさせてもらうからね」


「どうぞどうぞ♪ 錬金術師なんて、私の敵じゃないからね!

 あんたも生産職じゃなくて、戦闘職のスキルをもらえば良かったのに!」


 そう笑うと、ヒマリさんは腰にぶら下げていた短剣を小さな鞘から抜いた。

 総合的に見れば、彼女は盗賊系のジョブみたいな感じになるのだろうか。


 それなら私も対抗して、ここはナイフで応戦しよう。

 とりあえずアドルフさん作の、水属性のナイフをアイテムボックスから出して構えることにする。


「ぷっ! あははっ、何それっ!

 これから採集にでも出掛けるの!? おっもしろーいっ!!」


 ヒマリさんは私を軽く馬鹿にしたあと、大きく横に跳ねた。

 一瞬で私の視界の外に――


 ……しかしそれくらいの動きなら大したことは無い。

 何せルークやらジェラードやらは、そんなことは普通にやっているのだから。



 ――ガキィイイイィンッ!!!!



 私は右側からの斬撃を、手にしていたナイフでしっかりと受け止めた。

 勢いはあったものの、力では私も負けていない。

 何せ、神器に付いた竜王の加護があるからね。


「はい、よいしょっと」


 ナイフの受けから、そのままヒマリさんのバランスを崩して地面に転ばせる。

 彼女の短剣は音を立てて落ち、3歩ほど先のところに取り残された。


「……ちょ、ちょっと!?

 何で今の攻撃が受けられるのよ! それにあんた、何て馬鹿力なの!?

 何なのよ、実は剣士なの!?」


「アルケミカ・クラッグバースト」



 ――ズガアアアアアアアァンッ!!!!!!



「にゅぁっ!?」


 私が軽く放った轟音に、ヒマリさんは驚いて完全に脚を止めてしまった。


 戦いの中で、これはダメ。

 いくら身体が強くなっても、強力なスキルを持っていたとしても――


 ……私はヒマリさんの死角にまわり込み、脇腹をナイフで斬ってやった。

 彼女はそのまま、地面に膝を付いてしまう。



「剣か魔法かで言えば、得意なのは魔法なんだけど?

 ……さ、とりあえずここから出してもらえるかな?」


「ひっ……!?」


 私は思い切り低い声で、ヒマリさんにお願いをした。

 倒すならすぐにでも倒せる。殺すならすぐにでも殺せる。


 ……しかしこういう空間系のスキルについては、正直なところ対応を考えるのが骨なのだ。

 だからまずはここを出て、ヒマリさんへの対応はそれから考えることにしよう。

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[一言] やっぱ第七神の差し金か
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