65.臨時ボーナス
コンラッドさんの夕食会に招かれてから三日後。
その間、私たちは初心に戻って冒険者ギルドの依頼を受けていた。
ルークの鎧のお金も稼がなきゃいけないから、これを休むわけにはいかない。
私の反則的な錬金術で稼ぐのはお金のありがたみが分からなくなるから、それ以外の収入手段を確保しておくのはやはり大切なのだ。
「今日もお疲れ様でした!」
「「「お疲れ様でした!」」」
宿屋の食堂でテーブルを囲み、いつもの労いの挨拶――って、何だか一人多いぞ。
「僕だよ!」
私が不思議そうな表情を浮かべた瞬間、不意にジェラードの声がした。
ああ、いつの間にルークの後ろに……。
「ジェラードさん、こんばんわ」
「こんばんわ、アイナちゃん。エミリアちゃんとルーク君もこんばんわ。
今日は例の件の報告に来たよ~♪」
「例の件? あ、売れたんですか?」
そういえば、と先日渡したダイアモンド原石のことを思い出した。
確かあれくらいの大きさだと、ひとつあたり金貨2000枚くらいなんだよね。
さてさて、いくらで売れたものやら。
「うん、でも前回ほど高くは売れなかったよ。もうちょっといくと思ったんだけどなぁ……」
「いえいえ、相場でも大丈夫ですし、何だったら少し安めでも問題無いんですよ?」
「アイナちゃんは無欲だなぁ」
無欲というか、材料費がほぼ無料だからね……。
「――というわけで、金貨3800枚と3700枚で売れたよ」
「え?」
「ふえっ」
「なんと……」
三者三様。エミリアさんが一番可愛かったな。――って、それは良いとして……。
「そ、それでも相場の八割以上は高いですよね……?」
「ははは、前回は驚異の二倍だったからね。今回もそこを目指していたんだけど――さすがに元々が高いから、これが限界だったよ」
「それでも驚異なんですが」
「いやまったく」
「やりますね……」
「ちなみに今回はどなたに売ったんですか?」
「うん? 言っても良いけど秘密にしておいてね?
コンラッドさんの奥さんと、あとはここら辺を取り仕切ってる豪商の奥さん」
「……ははぁ……」
「この二人も日々対抗意識を燃やしていてね。釣り上げ合戦に持っていったのさ」
「え? それで二つとも売ったんですか?」
「うん。それぞれが競り勝ったように見せてね。これでみんな、しあわせだろう?」
「……でもそれって、お互いが買ったのを知ったらまたひと悶着起きません?」
「そこは大丈夫。自慢するならちゃんとダイアモンド原石を加工してからって誘導しておいたから。
ダイアモンドはしっかり加工してからが真価の見せどころだからね」
「え……、でもその後は……?」
「アイナちゃんたちはミラエルツを発つし、僕もいなくなる予定だから大丈夫。
ついでに僕の正体も明かしていないしね。抜かりはないさ」
「な、なるほど……」
「しかしそれにしても、アイナちゃんの周りには楽しい仕事が多いね。やっていて飽きないよ」
「それじゃジェラードさんも、アイナさんをサポートしながら旅をしましょう!」
「ははは。エミリアちゃん、それは良い提案だ」
エミリアさんの一言に、ジェラードはまんざらでも無いように言った。
「でも僕はいろいろと自由に行動しなきゃいけないから――今回みたいな形でサポートしていきたいな。
アイナちゃん、そんな感じでの同行を許してくれるかな?」
ふむ、三番目の仲間……ということになるのかな。ルークやエミリアさんとは違った形だけど。
「私としては何の問題もありません。よろしければ、お願いします」
「おっけーさ。ありがとう」
ジェラードはそのまま手を差し出してきたので、私は思わず握手をしてしまった。
その後、ルークとエミリアさんとも次々と握手をした。
……何の握手だろう?
「よーし、これで僕もアイナちゃんたちの仲間だ! たくさん頑張らせてもらうよ」
「ジェラードさん、よろしくお願いします!」
「よろしくお願いします」
「――さて、そういうことならジェラードさんのお金も面倒を見ないといけないのかな?」
ルークとエミリアさんの旅費やら食費は私持ちだからね。
ジェラードにもお世話になるというのなら、そこら辺もしっかりしないと。
「ああ、そういうことになっちゃうのかい? うーん、それは僕としては少し不本意だな」
「不本意?」
「一定額をもらい続けるよりも、成功報酬としてお金はもらいたいな。……まぁ、そういう仕事柄って思ってくれれば良いんだけど」
「ふむ……」
「というわけで、今回だけ報酬をもらえるかな。そしたら後は、そのお金で全部やりくりするからさ」
「えぇ……? それで良いんですか?」
「うん、それじゃ金貨の1000枚でももらおうか」
せんまいっ!!
……と一瞬思ったけど、ダイアモンド原石の相場が金貨4000枚のところを7500枚で売ってきたんだから……いや、むしろまだ安いのでは。
「わ、分かりました。もし足りなくなったら教えてくださいね」
「あはは、ありがとう。でも資産運用も得意だからさ、気にしないで大丈夫だよ♪」
えぇ……。ジェラード、無敵すぎじゃないですかね……。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
その後、私たちはルークの部屋でお金のやり取りをした。
ジェラードから金貨の入った皮袋をもらうだけなら先日のようにぱぱっと食堂でやるのだが、今回は金貨1000枚を渡さなきゃいけないからね。
「……うん、それじゃ確かに金貨1000枚頂いたよ。まいどあり!」
「いえいえ、こちらこそ本当にありがとうございました」
「なんのなんの。それじゃ何日かしたらまた来るから、よろしくね~」
そういうとジェラードは部屋から出て行った。
もう少し話もしたかったところだけど、彼は彼なりに用事があるのだろう。
「それにしてもアイナさん、金貨6500枚……ですか。」
エミリアさんが感慨深そうに言った。
「いやぁ……凄いですね」
「アイナさんが言いますか」
「アイナ様が言うんですか」
「ぐぬぬ」
そりゃまぁ作ったのは私だけど! 何ならあと十個や二十個くらいすぐに作れるけど!
「でもあれです。お金は稼ぐのが大変なのです。こんなことばかりで稼いでいると、何か大切なものを無くしてしまいそうです」
「それならうちの信仰に」
「それは結構です」
「ぐぬぬ」
エミリアさんまで『ぐぬぬ』を使い始めたぞ。可愛いけど定着させるわけにはいかないから、私も使うのは少し控えよう。
「――さて、そこでお二人にお話があるのですが」
「はい?」
「この度、よく分からないほどのお金を手に入れてしまったので、臨時でボーナスを出そうと思います」
「え!? 何でですか?」
「私共は何もやっていませんけど……」
「いやいや、喜びも悲しみも分け合うのがパーティじゃないですか」
「おお……何と寛大な……」
「というわけで、私も自分にボーナスをあげても良いでしょうか」
「え? それはもちろん――」
「ああ、アイナ様。アレを買うんですか」
「アレ? ルークさん、アレって――ああ、アレですか」
話の流れで早々にバレてしまった。
そう、私はアドルフさんのお店で魔法剣っぽいものを作ってもらうのだ――!
というわけで、ボーナスは一人金貨30枚にしておこう。まぁ、これでも大概な金額なんだけど。




