638.お待ちかね③
「じゃ♪ じゃーん♪」
ジェラードはご機嫌な様子で、彼のアイテムボックスから何かを取り出した。
一旦はもったいぶるような空気を見せつつも、5秒ほど間を溜めてから、それを私に見せてくれる。
そしてジェラードの手の上に乗せられていたのは、私には見覚えのある――
「……え? えぇっ!?
これって……!!」
指輪がひとつと、ブレスレットがふたつ。
それは私が、ダリルニア王国のいざこざの中で失くしてしまっていたアクセサリたちだ。
具体的に言えば、『バニッシュフェイト』『クローズスタン』『クロック』の錬金効果が付与されたものになる。
「これ、アイナさんが失くしていたやつじゃないですか!
何でジェラードさんが持っているんですか!?」
「話せば長くなるんだけどね……」
「は、はい」
一同、つばをゴクリと飲み込む。
「……こっちに帰ってきている途中で、エクレールさんに預かったんだよ」
ほう、なるほど……。
それにしても、何でエクレールさんが持っていたんだろう?
しかし話の続きを待っていると、変な間が少し空いてしまった。
「……あれ?
ジェラードさん、続きをどうぞ?」
「え? おしまい♪」
「短いっ!」
最初の前振りは何だったのか。
私が脱力していると、ジェラードは私の前に三つのアクセサリを丁寧に置いた。
「あはは♪ ま、戻ってきたから良かったじゃない♪
一応話は聞いてきたけどさ。ほら、アイナちゃんの身のまわりのことって、エクレールさんがしてくれたんでしょ?」
「はい。でも、そこまではやってもらっていませんよ。
基本的には牢獄に放置されていたので」
「……っ!!
うぅ、大変だったよねぇ……。
改めてそう思うよ、うん……」
私の何気無い一言で、ジェラードは涙ぐんでしまった。
この話はもう、私の中ではそれなりに消化済みの話なのだ。
だからもう、あまり心配してくれなくても大丈夫。
「まぁまぁ、それはそれとして。
それで、何でエクレールさんが持っていたんですか?」
「アイナちゃんが牢獄に運び込まれたとき、着替えをさせるように命令されたんだって。
服はもう汚れていたから処分しちゃったみたいなんだけど、アクセサリはそのときに確保しておいてくれたみたい」
「おお、それはありがたい……。
でも、王様とかタナトスには黙ってくれていたんですか?」
「エクレールさんは、あまり積極的には手伝っていなかったんだよね?
だから、あんまり余計なことはしなかったみたいだよ」
「ふむ……。
確かに言われたことしか、やっていませんでしたね……」
「でもそのおかげで、このアクセサリもアイナさんの手元に戻ってきたんですね!
ふふふ、何だか一安心しちゃいました♪」
「アイナ様が身を護るためにも、これはとても有用なものです。
もちろん私たちも全力を以ってお護りいたしますが、自衛が出来るのであれば、それに越したことはありませんから」
「私が戦うときにも、かなり使っているからね……。
いや、うん。本当に助かるな♪ ジェラードさん、ありがとうございました!」
「あはは、それは今度エクレールさんに言ってあげてね。
彼女、ずっとこの街にいることになるから」
「あれ、そうなんですか?」
「彼女はダリルニア王国の――……って、もう国は無いのか。
元王様のデチモさんと、ずっと一緒に暮らすんだってさ。
当のデチモさんはこの街を出られないから、つまりエクレールさんもずっとこの街にいるってわけ!」
「なるほどー。
でもエクレールさんの力があれば、この街なんて簡単に逃げ出せそうですけどね」
「そこはグリゼルダ様から、かなり厳しく言われたみたいだよ。
それにエクレールさんも、デチモさんにはこのまま静かに暮らして欲しいみたい」
「静かに……、ですか。
そうですね、エクレールさんはその方が良いかも……」
彼女はどう見ても、戦いは好きそうでは無い。
仕方が無いときにはもちろん戦うけど、それなら彼女には平穏に暮らして欲しいというものだ。
「――ところでアイナさん。
そのアクセサリの錬金効果も、神器の方に吸収させるんですか?」
「バニッシュフェイトはそうしようかと思っています。
使わなくなることなんて、きっと無いはずですから」
「そうですね!
そもそも個人では、なかなか発動させられない魔法ですし……!」
「クローズスタンとクロックはちょっと悩んでいるんですよ。
特にクロックとか、便利ですけど時間を見るだけですからね……」
「あはは♪ 確かに、覚えようと思えば覚えられる範囲ですね!」
「あとはポエールさんからの頂きものだっていうのもあるんです。
自分で作ったものならともかく、誰かから贈ってもらったものだと抵抗が少しあって……」
「気持ちは分かります……!
せっかくだし、吸収しているところを見たいな~……なんて思ったんですけど」
「そうですか? それじゃ、やってみますか」
「やったー♪」
『バニッシュフェイトが使えるブレスレット』というのにもかなり愛着があるのだが、ここは気にせず吸収させてしまおう。
吸収させたあとはブレスレットには何の効果も残らないけど、しかしまたアーティファクト錬金には使うことが出来るのだ。
また何かの効果を付けて、使っていくことにしようかな。
三人が見守る中、私はブレスレットに右手をかざした。
大層な呪文も必要なく、難しい手順も必要ない。
私が意識するだけで、すべてはすんなり終わるのだ。
「……それではいきますよー。えいっ」
少し物足りない感じの掛け声を放つと、ブレスレットは金色の光を放ち、そしてその光は神煌クリスティアへと吸い込まれていった。
「――はい、おしまいです」
「はやっ!」
「本当にそうですよね。一応、鑑定しておきますか」
はい、かんてーっ
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【神煌クリスティア(S+級)】
形状:神器<指輪>
属性:水
熟練:0/100
特殊:付与スキル吸収(2/100)、光・闇属性ダメージ反転、火・水・風・土ダメージ無効、全ステータス上昇、装備変形、状態異常耐性UP、HP・疲労回復、装備限定<神器の錬金術師>
加護:水の加護、竜王の加護、英知の加護
錬金効果:魔力+10%
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「……おお!
『付与スキル吸収』のところが、『1/100』から『2/100』になりましたね!」
「はい、これで残りは98個です!」
「それにしてもたくさん吸収できるんだねぇ……。
今のところかなりレアなものがふたつ吸収されたわけだけど、この調子でいけば――」
「まさにオンリーワンの逸品です。
まさにアイナ様に相応しい!!」
ルークは何やら仰々しく言い始めた。
しかしオンリーワンというのは確かにその通りで、さらにこの効果は錬金術師ならではっていう感じもするよね。
ついでに言えば、『装備限定』が私だけの指定になっている。
その時点でもう、完全に私専用のオンリーワンということになるわけだ。
「ところアイナちゃん、『装備変形』っていうのは何なの?」
「あ、それは私も気になっていました!」
ジェラードの言葉に、エミリアさんも続けてくる。
「えっと、これは……。
よくよく考えたら、あまり要らない能力だったのですが」
「要らない……って、アイナさん……!」
「いやー、浪漫を感じて付けてみたんですけど……。
えっとですね、私の神器は指輪ですが、他の形に変えられるんです」
「他の形……?」
「簡単に言えば、こういうことなんですが」
私が右手の指輪に意識を向けると、一瞬の光を伴ってから、いつもの杖が現れた。
せっかくなので分かり易いように、アイテムボックスからも杖を出してみる。
……同じ杖が二本!!
「おぉー……。指輪を他の形に変えるんですね!
……何に使うんですか? その能力……」
「アイテムボックスを使わないで、杖を使いたくなったときを想定していたんですけど……」
「――っ!!
その能力、フィエルナトスにも欲しかったですよ!?」
「でもこれ、元の体積よりも小さくは出来ないんです。
だからフィエルナトスに付けたとしても、それなりの大きさになっちゃいますよ?」
「くぅ、それなら指輪の形が良かったです!」
「えぇー……、今さらですかー……」
残念ながら、クレームは受け付けられません。
そして、返品にも応じられません。
今後とも神杖フィエルナトスをよろしくお願いいたします。




