600.再会
「――兄者!!」
「――弟者!!」
ガシィッ!!
……私たちの目の前で交わされる抱擁。
祭壇の上にやって来たコジローさんは、王様の横のコジローさんを見た瞬間、大きく咆えた。
そしてその声を聞いた王様の横のコジローさんは、絶妙な身のこなしでここまでやって来て、そのままガシィッ――……とまぁ、そんな感じである。
「……え? 双子?」
「おおう、そうでござる! 数年前に生き別れておったでござるよ!」
「まさかこんな場所で再会を果たそうとは!
……それにしても、なるほどでござるよ。今にして思えば、お主からは知り合いのように話し掛けられていたでござるからなぁ……」
「あれ? でもどこかで、『コジローさん』って呼びませんでしたっけ?」
「コジロー?
……弟者よ、今はそのように名乗っておるのか?」
「そうでござるよ!
ああ、アイナ殿。我らは常に偽名を使い続けるゆえ、気を悪くしないで欲しいでござる」
「ふむ……。ならは拙者は、今日からコタローを名乗るでござる!
ひとつ席を空けておく辺り、弟者は気が利くでござるなぁ♪」
「そうでござろう、そうでござろう♪」
……何てこったい。
でもこれだけ似ているのであれば、ずっと間違えていても仕方が無いよね、うん。
「……感動の再会のところ、悪いんだけどさぁ。
僕たち、敵には容赦しないからね?」
さり気なく私の肩に手をまわしていたジェラードが、少し強めにコタローさんに言った。
コタローさんは王様の近くで待機するほど、この国では信用を得ているのだ。
それ即ち、私たちの敵になるということ――
「……ふむ、さもありなん。
それでは申し訳ないが、コジローを少し借りてもよろしいかな?
5分ほど貸して頂けると助かるのだが」
「えぇっと……。
ジェラードさん、大丈夫ですか?」
「んー、まぁ良いか……。
それじゃ5分だけだよ。遅れたら、コジローのベッドの下のアレは燃やすから」
「な、何とっ!? それは嫌でござる、それは嫌でござる!
5分でござるな! まだ始まってござらんよな!?」
「はい、今からねー。はい、スタート」
「ぬぉ、何と無慈悲なっ!!
兄者、さっさと行くでござるよ! あそこの屋根の上で良かろう!?」
「承知!
……しかし弟者よ。ベッドの下に何を隠しているのでござるか……」
コジローさんとコタローさんはそんな話をしながら、身軽に場所を移動していった。
……それにしてもあの身のこなし。
コタローさんが本気を出せば、かなり怖い存在なのかもしれない。
それにコジローさんだって、あんなに身軽だったかなぁ……。
「――っと……」
ふと気が抜けた瞬間、脚がもつれてバランスを崩してしまった。
しかしジェラードが咄嗟に私の身体を引き寄せて、何とか倒れ込まずに済む。
「だ、大丈夫!?
……ああもう、こんなに痩せちゃって……。ああもう、ぎゅっと抱き締めてあげたい……」
「ジェラードさん、そんなことをしたらルークさんが飛んできますよ!
今、例の魔法を掛けていますからね!」
「うへぇ……。あれはさすがに、僕はどうやっても敵わないからなぁ……」
「あれって、そんなに凄いんですか?」
エミリアさんが色とりどりの魔法の弾を出して、ルークはそれを神剣アゼルラディアに吸収させていた。
『属性統合』って言っていたけど、あれって私がかなり昔に付けた錬金効果なんだよね。
まさかここに来て、ようやく陽の目を見ようとは――
「……まぁ、ほら。
ルーク君が下りていった方――」
ジェラードは私の向きを変えるように、軽く肩を押してくれた。
……その方向からは、何だか凄い風が吹いてくる。
今まではジェラードたちの登場やら、コジローさんたちの謎の再会やらで、少し意識が逸れてしまっていたけど――
……一旦意識が向かってしまえば、これはもう凄いとしか言い様が無かった。
「……見ても、大丈夫?」
「……まぁ、大丈夫じゃない?」
エミリアさんとジェラードに付き添われながら、私はよたよたと逆側の階段に歩いていった。
そして下を覗いてみると――
「うわぁ」
……地面やら壁やらが、ほとんど破壊し尽くされていた。
おかげで祭壇の出入り口を通らなくても、外から増援が無制限に入って来られる状態に。
しかしわらわらと湧き続ける増援を、ルークは現れる度にすべて吹き飛ばしていた。
……文字通り、吹き飛ばしていた。
吹き飛ばされた敵は他の敵にぶつかり、さらにその後ろの敵も巻き込んで滅茶苦茶になっている。
斬る、というよりも、ぶつける。
まるで軽い積み木のように、敵は軽くあしわられていた。
「……ね? 凄いでしょ?」
「あんなの、無敵じゃないですか……」
「神器と属性統合があったればこそだけど、それがあったとしても、全員が全員使える技じゃない。
今までに降してきた英雄たちだって、あんな技は無理だろうねぇ……」
「はー……。ルークは努力の人ですからね……」
「それを言ったらエミリアちゃんだって――」
「あああああっ!!?
ジェラードさん、その話は無しですよ!! 無っしでーっす!!!!」
「エミリアさん? 何か変なテンションが」
「まぁまぁ! 今は戦いの最中ですよ! さっさと倒してしまいましょう!!
みんなが来るまでに、全部終わらせてしまいますよ!!」
「……え? まだ誰か来ているんですか?」
「うん、もちろんたくさん来ているよ♪
でも、みんなの手を煩わせるのも申し訳ないからね。僕たちでさっさと蹴りを付けちゃおうよ」
「――うむ、その通りでござるよ!」
「うわぁ!? お帰りなさい!?」
突然、コジローさんが私の真後ろから現れた。
見ればコタローさんも横に並んでいる。
「ジェラード殿、時間は間に合ったでござるか!?」
「ん? ああ、うん。ごめん、計ってなかった」
「そんな!?」
「まぁまぁ、今回は燃やすことはしないからさ。
それで、話し合いは終わったの?」
「うむ! 拙者、お主――いやさ、アイナ殿にお仕えすることにしたでござる!!」
「……は?」
思わぬコタローさんの言葉に、私は拍子抜けをしてしまった。
「それじゃ、僕の部隊に入る?
コジローと一緒になって、活躍してくれると嬉しいなぁ」
「それではそうするでござる。
アイナ殿にお仕えはするが、基本的にはジェラード殿に従うとしよう!」
「まぁ拙者も同じような感じでござるからな♪」
「僕もアイナちゃんに仕えているわけだからねぇ♪ 問題無いよー♪」
「何だかユルいですね!?
……でもコタローさん、そんなに簡単に裏切っちゃって大丈夫なんですか?
さすがにそんなに簡単に裏切る人、私は信用できませんよ!?」
「はっはっは、それも当然のこと。
しかし拙者、今は誰にも仕えてござらんからな!
あの王にだって、何となく庭で遊んでいたら勝手に気に入られただけでござるし」
「えぇー……。コタローさん、猫ですか……?」
「まぁまぁ、兄者のことは拙者が保証するでござるよ!」
「コジローのことは、僕が保証するよ♪」
「む、むぅ……?
それじゃ、よろしくお願いします……」
「承知した! 拙者、今まさに主を得たり!!
――行くぞ、弟者よ!!」
「うむ、兄者よ!! 早々に敵を蹴散らせてくれるッ!!」
そう言うとコジローさんとコタローさんは、先ほどまでジェラードたちが戦っていた場所へと戻っていった。
何とも頼りになる……。頼りになる……のかな?
どうにもあのキャラが、頼りになるイメージを遠ざけてくれてしまう……。
――……さて、それはそれとして、状況を確認しておこう。
王様はまだ健在。
私の知る限り、今のところ敵にまわって恐ろしいのはタナトスとエクレールさんの二人。
コタローさんはこちらに懐柔済みだ。
敵の増援は今なおどんどん増えてはいる……が、来た端からルークが倒し続けている。
エクレールさんは、何もしていない王様の側に寄り添っているだけ。
そして一番の問題のタナトスは、ルークの攻撃から必死に逃げ回っているところだった。
背中を見せて逃げるということはさすがにしないが、何か剣撃を飛ばしながら、ルークを牽制するように後ろへ後ろへと移動している。
まぁ転生者だと言っても、ユニークスキルを持っていると言っても、あのルークには敵わないだろう。
……実際、私だって転生者だし、ユニークスキルも持っているけど、あのルークには勝てる気は全然しないからね。
――そういえばタナトスって、ユニークスキルはふたつ持っているんだっけ。
ひとつは鑑定スキルの上位版、『神魔の瞳』。
もうひとつは何も知らないけど――
……やはりここは、最後まで油断してはいけなさそうだ。
せっかくここから解放される目が見えたのだから――




