599.仲間たち
「――賊だッ!! 賊であるッ!!
ものども、であえーいッ!!!!」
ルークの剣が不思議な輝きを纏ったころ、王様の大きな声が聞こえてきた。
それと共に、どこからともなく喧しい鐘が鳴り響く。
……恐らくは増援を呼んだのだろう。
しかしこの場の中には、特筆すべき敵は多くない。
今はまだ、タナトスとエクレールさんくらいのものだろうか。
……コジローさんは、どうだっけ? ……そもそも強かったっけ?
「――アイナ様。
私は早々に、タナトスを殺してやりたいのですが」
「私も同感ですっ!!」
……ちょっと。
何とも物騒な二人ではあるが、しかしその意見には私も賛同せざるを得ない。
ただ、可能であればそれはまだ控えておいた方が良いような気がする。
先ほどまでは、タナトスだけは刺し違えても――と思っていたはずなのに。
……記憶のどこかが、感覚のどこかが、もう少しあとまわしにするよう言ってくる。
何かを忘れている気がする。見逃せ、とか、そういう類のものでは無いんだけど――
……でもまぁ、忘れてるなら問題無いか!!
「出来れば私が仕留めてやりたいけど、まだ本調子じゃないから……。
戦いの中で、やれるならやっちゃって大丈夫だよ」
「承知しました! ではッ!!」
……そう言うとルークは、タナトスの落ちた方に向かって猛然と駆け出した。
「あれぇ……。話を聞いていたのかな……?」
そう言いながらエミリアさんを見てみると、彼女はしきりにきょろきょろと辺りを見まわしている。
私も釣られて見てみるが、特に何も無いようだった。
それにまだまだ、魔法使いが退散していった側の階段からは敵も上がって来ていない。
下までは来ているようだが、誰かと交戦しているような――
「アイナさんっ!!」
むぎゅっ
「わぶっ!?」
こんな状況にも関わらず、突然エミリアさんが私を両腕で抱き締めてきた。
……ああ、無防備になるから辺りを見まわしていたのか。
久し振りに触れる、人肌の温かさ。
この祭壇に来るときもエクレールさんには触れたけど、あのときはそれどころでは無かった。
……それに、やっぱりそれとはまるで違う感触がする。
「――……やっと、やっと見つけることが出来ました……っ!
この10か月、本当につらくて、寂しくて……。
……私、アイナさんがいないと、本当にダメで……」
「エミリアさん……。……ぅぅっ、ごめんなさい……」
「……ぐすっ。
だから……、もう離しませんからね……。それに、もう少しの辛抱です……。
こんなところ、さっさとみんな倒しちゃって、私たちの街に帰りましょうね!」
「私たちの――」
……マーメイドサイドは私が作り始めた街ではあるものの、それをエミリアさんが『私たちの街』と言ってくれている。
ずいぶんと一緒に暮らしてきたし、エミリアさんにもたくさん手伝ってきてもらった。
だけど改めてそう言ってくれるのは、何だか嬉しいというか、心の底から安心してしまうというか――
「ぅぅ……。そ、そうですね。
……ありがとうございます……、帰りましょう……」
――ズゴォオオオォオオンッ!!!!
「ひゃっ!?」
「うわぁ!?」
私たちが感動のやり取りをしていると、祭壇の下から轟音が響いて来た。
あの方向はルークが降りていった先だ。
先ほどは見覚えのないオーラを剣に纏わせていたことだし、さぞや攻撃力も上がっているのだろう。
……神器そのままでもかなりの攻撃力があるから、攻撃力過多のような気もするけど――
「……ルークの方は大丈夫そう……?
逆の階段からは敵が来そうですけど、あっちはどうしたんでしょう……」
「えへへ♪ ここに来たのは私たちだけじゃないんですよ!」
エミリアさんが不意に指差した空を見上げると、上空には何かが旋回していた。
「あれ? ……ポチ?」
「ちゃんとグレっちも乗っていますからね!
……それで、私とルークさんはあそこから転移して来たんです」
「え? ええぇっ!? エミリアさん、まさかそんな魔法まで!?」
「いやぁ……♪ でも転移魔法は難しいから、まだ上下しか移動できないんですよ。
それで、まぁそれはそれとして、他の方法でここまで潜入してくれた仲間がいるみたいですね」
「他の方法って……。誰だろう、気になるなぁ……」
杖をついて立ち上がり、私は警戒しながら階段の方へと向かった。
そして下を眺めてみると――
「アイナちゃーんっ!!」
「ジェラードさん!!」
満面の笑みを向けるジェラードは、私に一度手を振ると、すぐに戦いへと戻っていった。
彼のまわりにはビアンカさんを始めとして、数人の仲間が見える。
ジェラードが組織した諜報部隊。……こんな目立つ場所に出て来て、大丈夫なのかな……。
……いや、それを押してまで来てくれたんだよね。本当、ありがたい話だ……。
「――絶対に許さないよ……。
僕のアイナちゃんを、あんな目に遭わせるだなんて――」
……あ、どうも。
ジェラードのものになったつもりは無かったけど……。
私の安全を確認したからか、私の痩せ細った顔を見たからか。
ジェラードは腰の後ろからもう一本、黒い短剣を左手に携えた。
……おぉ、二刀流だ! すごーい! かっこいー!!
片や錬金効果『風刃』が暴れる風の短剣、片や黒色を振り撒く闇の短剣。
……闇の方は、私も知らない武器だなぁ。
――ちなみにとても強かった。
個人でも強いのに、他のメンバーとの連携も凄かった。
全員で5人。少ない人数で、こんなところまで乱入してくるだけのことはある――
「……って、あれ?
ちょ、ちょっと! そこの人――――――ッ!!!!」
「え?」
「はい?」
「?」
「誰だ?」
「どうしたでござるか?」
……そこ! ……最後の人!!
私は思い切りコジローさんを指差した。
何でこっち側にまわって戦っているのっ!?
「……む? 拙者がどうしたでござるか?」
「な、何でコジローさんが戦ってるの!?」
「???
拙者も一緒に来たでござるよ!!
アイナ殿のことはずっと心配していたでござる! ご無事で何より!!」
え? えええー!?
だってさっきまで、向こうの王様の横に――
「……いるっ!!!!?」
「ど、どうしたんですか、アイナさん!?」
私は驚愕してしまった。
もしかしたら夢でも見ているのかもしれない――
私はついつい、王様の横にいるコジローさんを指差してしまった。
「じゃぁ、あれは……?」
「あっちに何か――
……うわ、コジローさんがあんなところにっ!!?」
「あ、あのぅ……。
エミリアさん、階段の下にもいますよね……。コジローさん……」
「……いますね!!」
……?????
…………?????
………………?????
「アイナ殿、どうしたでござるかーっ!?」
「コジローさん!! 手が空いたらこっちに来てくださいっ!!」
「え? 拙者がでござるか?」
「僕じゃないのっ!?」
コジローさんの不思議そうな声に対して、衝撃的な声を出すジェラード。
いや、別に会いたい順とかじゃないから!!
「……ジェラードさんも、手が空いたら来てくださーい」
「っ!!
うん、分かったぁ♪」
……こんなやりとりもずいぶんと懐かしい。
そうこうしているうちに、敵の増援が来てしまった。
今はルークとジェラードたちの6人が、下で敵と戦ってくれている。
私とエミリアさんも早く合流しなければ――
――ドカーンッ!!
……突然響く爆発音と、大きな揺れ。
ああ、グレーゴルさんも合わせて7人だ。……ポチも入れると7人と1匹。
……ややこしくなりそうだから、私はもう数えるのを止めよう。
それよりも、さっさと戦いの場に戻らないと……っ!!




