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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第11章 籠の中の錬金術師
597/911

597.第三の神器

 久し振りに引き抜かれた、『癒毒の剣』。

 久し振りに下ろすことのできた、私の両腕。

 ようやく取り除かれた、両手の鉄枷。

 ようやく地面に投げ出すことのできた、私の身体。



 ……そして、久し振りに出る太陽の下――




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「……ちっ、まともに歩けもしないのか。

 おい、エクレール!」


「分かった」


「拙者も手伝うでござるか?」


「男はダメ」


「……むぅ」




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「――どうだ、素晴らしいだろう。

 王が無理を言って造らせた祭壇だぞ? まさに今日という日に相応しい光景だな!」


「おお、ここで神器を作るのでござるか!

 ……それにしてもこの娘、大丈夫でござるか?」


「ああ、それは問題無い。

 くくくっ、今や俺の言うことを聞く、ただの人形だからな。

 ……なぁ?」


「――……はい、タナトス様……」


「ふむぅ……。

 まぁ、王の悲願を達成できるなら問題は無いでござるが」


「くくっ、王の悲願か……」


「む? どうしたでござるか?」


「いや、何でも無い。

 それよりもそろそろ時間だが、王はどうした?」


「朝、宰相に呼ばれていた。

 用事が済み次第、来ると言っていた」


「宰相に? 宰相が王に何の用事だ?

 政治のことなんてろくに知らん、あの王に用事だなんて……」


「おい、口を慎め」


「ははっ、これは失礼した。

 これから神の名を戴くエクレール様に、大変な粗相を。申し訳ございません」


「タナトス殿……。さすがにそれは失礼でござるよ……」


「ふん、道具の素材ごときに何で気を遣う必要がある。

 今の台詞だけでも十分過ぎるものだろう? なぁ?」


「……お前、まともな死に方はしないだろうな」


「俺が死ぬ……ねぇ?

 なぁに、俺は死なないさ。いずれはすべてを手に入れて、不老不死すら我が物にしてやる」


「不老不死、でござるか……。

 果たしてそんなに良いものか……」


「ふん、ただの人間には分かるまい。

 選ばれた人間のみが許された、高尚な存在だからな」


「お前ごときが選ばれたなど……」


「エクレール、今日はお前もずいぶんと喋るじゃないか。

 くくくっ、さすがに緊張しているのか?」


「……」




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「――さて、王が来たでござるよ」


「ようやく来たか……。

 それにしても、ずいぶんと大勢連れてきたものだな」


「はて……。警護の者は外で待たせると聞いていたでござるが……。

 それに何だか、慌てているように見えるでござるよ?」


「ふむ……。何か問題でもあったのか……」




「タナトス! エクレール!

 取り急ぎ、神器の作成を進めよ!!」


「王よ、どうされましたか? 何をそんなに慌てているのです」


「賊だ! 賊が現れたのだ!!」


「王はその討伐に乗り出し、自らの力をアピールする所存であーる。

 そしてそれと共に、新たなる神器を庶民どもに見せ付けるのであーる」


「……というわけだ!

 誕生と共にそれを振るう――……素晴らしい! 素晴らしいではないか!

 そちらの準備は出来ておるのだろう? ほれ、素材もすべて持ってきたぞ!」


「なるほど、それでは神器の作成を進めましょう。

 ――素材はすべて祭壇の上に運べ!

 ……エクレールも神器の魔女を連れて、祭壇に上がっておけ」


「……分かった」


「あとはお前。

 為すべきことは分かっているな? しっかりとお前の役目を果たすんだぞ?」


「――……はい」




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「……ごめん。おかしなことに巻き込んじゃったね。

 あなたの名前……アイナって言うんだよね。

 本当にごめんね。……でももう、さようなら」


「――……」


「本当に、ごめんね……」




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「――緊張するのう!」


「王よ、賊が迫ってきておりまーす。

 神器が完成し次第、すぐに討伐に出るご準備をお願いいたししまーす」


「うむ、分かっておる。

 しかし街門はまだ突破されておるまい? 歴史的な瞬間を、見逃すわけにはいかないぞ!!」


「ははっ! その通りでございまーす」


「……うん?

 タナトスよ、お主もこちらに来て見物せんか?」


「いえ、私はここで。

 何かあれば駆け寄り、即座に対応したいと考えておりますので」


「ふむ、心配性じゃのう……。

 それにしても、エクレールとはこれでお別れか。

 先代から今まで、とても世話になったな」


「……いえ」


「それでは始めるが良い。

 神器の魔女よ、よろしく頼むぞ」


「――……はい」




「これより神器の作成を行う!

 神器の魔女よ! 王から賜った素材より、新たなる神器を、風の加護を宿した神剣を作り出せ!!」


「――……はい」




 ――ズガガッ!! ガガガァアアアンッ!!!




「うぉっ!?」

「突然何であーるか!?」


「ほう……。本当に一瞬で錬金術を使うのだな……。

 ふふっ、何とも神々しい。くくくっ、神々しいなぁ……!」


「……私はここに立っていれば良いの?

 いつでも良いから、私の魂は気にしないで使ってね」




「――……の、宣言……。

 ……幻の如き……、どこまでも……て行け……。

 底知れぬ……、永遠の……と、広大なる……。

 ――……の……宣言……。

 ……を経て、尚も……の庇護に愛されし、世界の……。

 折り畳み……広げ……、形無きものを……閉ざす……牢獄を……」




「……あれは何じゃ? 呪文か?」


「神器を作る最後に、必要になるものだそうでーす」



『――理想補正<錬金術>を使用しますか?』


「――……はい」



「なるほど。そうするとつまり、そろそろ完成というわけなんじゃな!

 しかし神器とは言え、案外あっさりと作れるものなんじゃのう♪」


「さすが『神器の魔女』と名乗るだけはありまーす♪」




「――……束縛と……不変の、宣言……」




「……おい、まだ続くのか?

 その『宣言』とやらは、二つだけだと聞いていたが――」


「こらこら、タナトスよ。

 お前ともあろう者が、何を慌てておるのじゃ。ここは神器の魔女に任せて――」




「いや……、待てッ!!!! 待てぇえええッ!!!!

 お前はッ!! お前は一体、何を作ろうとしているッ!!!!!!?」



「む?」

「何であーるか?」




「――……我が名に従え。……お前は我だけのもの。

 何人たりとも……、干渉することは許さぬ……。あらゆる世界、あらゆる時間、すべて我が元に在らんことを――」




「待てぇえええええええッ!!!!!!」




 ――パアアアアアアアアンッ!!!!!!







 ━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─

 ─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━

 『アイナ・バートランド・クリスティア』によって神器『神煌クリスティア』が誕生しました。

 『世界の記憶』に登録されました。

 ─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━

 ━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─







「――……そう。

 アイナ、あなたはまだ……、立ち上がるのね……」

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