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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第11章 籠の中の錬金術師
594/911

594.季節は巡り

 ミーン……、ミーン……



「――えぇ……」



 外から響く音に、私は驚いてしまった。

 久し振りに目覚めた私を迎えてくれたのは、何と蝉の鳴き声。


 ……私がこの前起きていたときって、確か冬だったよね……。

 え、やだ。もしかして半年くらい気を失っていたの……?



 ……思い返せばずいぶん長い間、夢の世界にいたような気がする。

 英知接続を使った反動で気を失っただけではあるんだけど、それにしてもいろいろなことがあったような……。


 前回は不思議の国のアリスみたいな世界に迷い込んでいた。

 今回もそんなやつがあったかもしれない。

 一番最後のところで、確か英知さんからとても良い物をもらった……っけ?


 ……あれ? どうだっけ? ……うぅん、いまいち覚えていないなぁ……。



 しかし現実に戻ってしまえば、私を取り巻く景色は何も変わっていない。


 気を失う前と同じく、未だに牢獄の中。

 両手もやっぱり鉄枷に。そして腕はやっぱり鎖で上げさせられている。


 そして体中の感覚は無い。

 自分の身体なのに、まるで感覚が無い。


 これって結構ヤバいのでは……?

 ……ああ、ダメだ。そんなことを考え始めた途端にめまいがしてきた……。



 気を取り直すように、私は頭の中に浮かんでいるものを確認する。

 『英知接続』と『創造才覚<錬金術>』を使った結果、神器の素材は問題無く調べることが出来ていた。


 ……問題があるとすれば、やはり一気に過ぎ去ってしまった時間だろうか。


 時間は生きるものすべてに平等に流れる。

 私がこうしている間にも、私が別れてしまった仲間たちには同じだけの時間が流れているのだ。



 ……みんなはどうしているかな。

 心配してるだろうな……。出来るだけ、早く戻らないと……。



 とりあえずそんなことを思いながら、私は誰かが来るのを待つことにした。

 久し振りに誰かと会うわけだから、まずはせめて、普通に話してくれる人が良いなぁ……。


 ……タナトスが最初に来るのだけは勘弁して欲しい。

 となると、やっぱりエクレールさんか……。



 ――……早くも体調と精神が最悪で死にそうだし、さっさと来てくれないかなぁ……。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 二日後。


 ……誰かが来たのは二日後だった。

 しかもそれは――



「……あなたが……何で、ここにいるんですかね……」



 まずは私の、消え入りそうだが冷ややかな声が宙を飛ぶ。

 私に会いに来たのは、私も良く知っている人物だったのだ……。


「おお、やっと起きたでござるか!

 心配したでござるよ!」


「……何を……抜け抜けと……」


 この人は元・ヴィクトリア親衛隊のコジローさん。

 しかもこの牢獄に来てから、今回会うのが初めてでは無い。以前、王様がこの牢獄に来たときも後ろにいたのだ。


 そんな彼を見る私の目も、ついつい厳しくなってしまう。

 一連の流れから察するに、コジローさんは私をここに連れて来た人たちの仲間であることは間違いないのだから。


「ふむぅ、心外な扱いでござるなぁ……」


「……それ、本気で……言っているんですか……。

 はぁ……。まさか……コジローさんに()められるとは……」


「はてさて、何のことやら……?

 それは置いておいて、、今日も治療をしに来たでござるよ」


「……治、療?」


「鉄枷のせいで、手首が酷いことになっていたでござる。

 拙者、たまにポーションで治してあげていたでござるからな」


 コジローさんはそう言いながら、私の近くに寄って、鉄枷の上からポーションを振り掛けてくれた。

 何となく優しい感覚と共に、手首に刻まれた傷が消えていく。


 ……ただ、痕はもう残るようになってしまっていた。

 錬金術さえ使えれば、痕を消すのは難しくは無いんだけど……。



「一応……、お礼は……言っておきます、が……」


「素直では無いでござるなぁ。

 しかしそれも仕方あるまい。それよりもお主は、王の神器を作ることに集中するでござるよ」


「この状況で……、集中……できると思いますか……」


「神器の魔女の名に恥じぬよう、何とか頑張るでござる」


「……ぅゎー、他人事ぉ……」


「そりゃ、他人でござるからな」


 ……むぅ。

 コジローさん、さすがにちょっと冷たくなったかもしれない?

 まぁここにいる時点で敵なわけだから、アットホームな感じを演出されても困るわけだけど……。



「……ところで、神器の素材……調べ終わった……ん、ですけど……」


「おお、待ち侘びたでござる!

 王も毎日心待ちにしていた故、きっとお喜びになるでござるよ♪」


「……それじゃ、伝えても……良い、ですか……?」


「ああ、いやいや!

 それはタナトス殿の仕事でござる! タナトス殿を呼ぶので、そのときにお願いするでござる」


「ぅぇぇ……。私、あの人……嫌い……」


「お主、ワガママでござるなぁ。

 偉い魔女だと聞いていたのに、こう見るとただの娘っ子でござる」


「……何をいまさら……」


「ま、タナトス殿もお主が目覚めるのを心待ちにしていた故、あまりきついことは言わないでござろう。

 そのまま素材を集めて、神器をぱぱーっと作って、そしてお主も解放でござるよ♪」


「……そうなると、良いんですけど……」



 僅かな期待はしているものの、さすがにそんな上手くいくとは思わない。

 他人にいくら希望を抱いたとしても、あとで後悔するのは、あとで失望するのは、結局は自分自身なのだ。


 ……とは言え、求められるままに神器を作る以外には、助かる見込みも無いわけで……。

 ああ、やっぱり悔しいなぁ……。



「それでは拙者、もう行くでござる。

 またポーションを届けにきてあげるでござるからな♪」


「はいはい……、お待ちしておりますよ……」


「むぅ~……。

 やっぱり拙者の扱い、雑でござるなぁ……」


 コジローさんは何だかそんな不満を口にしながら去っていった。

 ……そりゃ、ねぇ? 初対面というわけでも無いし、私は裏切られた側だし……。


 積極的に文句を言わないだけ、これでも良心的だと思うよ……?

 まぁ、そんなことをする元気が無いっていうのが大きいんだけど……。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 ――夜。


 ……そうだ、夜は暗かったんだ……。


 外で鳴く蝉の声を聞きながら、当たり前のことをふと思う。

 寒くない分、冬に比べればよっぽど過ごしやすくはなっている。


 しかしこんな牢獄にはいたくない。早く家に帰りたい。

 早くみんなに会いたい。何でもない毎日に戻りたい。



 ……久し振りに過ごす夜。

 昔ならきっと泣いてしまっただろうけど、今は泣くことは無い。


 基本的には目も喉も、ずっと乾いてしまっているのだ。

 ああ、水が飲みたい。……そう言えばずっと何も食べていないんだよなぁ。……何か食べたい。



 ……人並みの生活が、送りたい。

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