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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第11章 籠の中の錬金術師
592/911

592.竜と王と……

 タナトスは自身の目的を語ると、そのまま私を置いてどこかに消えてしまった。


 話の最中……というようなタイミングだったため、これには私も驚いた。

 タナトスを止めることも出来ず、文句を言うことも出来ず、私に残されたのはまた『待つ』というだけの絶望。



 当然、両手に鉄枷は付けられたまま。

 強引に立たせられたまま。

 お腹は空いたまま。

 寒いまま。


 ――そして、何も出来ないまま……である。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 また二日が経過した。


 一言でそう言うのは容易(たやす)い。

 しかし限界を迎えたと思った後での、さらに二日である。


 心身ともにボロボロ。そんな中で、寒さと恐怖と不安に怯える。

 正直、いつ心が砕けてもおかしくない状況だ。



 ……しかし、それがきっと目的なのだろう。



 タナトスは私が不老不死を持つからこそ、ここまで荒っぽい行動に出ているのだ。

 思えば私がここに連れて来られる前、銃のようなものを使って襲われたわけだし――

 ……死なないことを見越して、私をこんな場所に放置しているのだろう。


 そう考えると、私の命を繋ぎとめているありがたいものだけど、『不老不死』という存在には嫌気が差してしまう。


 いっそ死んでしまえば楽なのに――

 ……それは諦めかもしれないけど、ひとつの救いではあるのだ。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「――……起きてる?」


 再び気を失っていたあと、私は突然声を掛けられた。

 つらさを押し殺して目を開けてみると、そこには桶と布を持った、一人の無表情の女性が立っていた。



「……ぅ……。

 あなたは……?」


「初めまして、アイナ。私はエクレール。

 あなたの世話係を命じられているわ」


 エクレール……。

 確かタナトスが、最初に言っていた名前だ。


 彼女の報告が遅れたからこそ、私が目を覚ましたあともタナトスはなかなか来なかった……んだっけ。


「身体、拭くよ。

 汚いまま、王様には会わせられないから」


 そう言うと、彼女は問答無用で私の身体を拭き始めた。



 ――冷たい。

 桶の中に入っていたのはただの水で、お湯なんていう優しいものでは無かった。


 ただ、冷たいけど、綺麗にしてもらうのはやっぱり気持ち良かった――

 ……んだけど、やっぱり寒いし()みるし痛いし、最悪なのは変わらない。


 例えばマイナス100万に1を加えたところで、全体的に大した変わりは無いのだ。

 簡単に言えば、そんな気分しかしてこない。



 身体を拭き終わったあと、彼女は私に手をかざして、少ししてから手を下げた。


「……何……を……?」


「服が汚いから、洗浄しようと思ったんだけど。

 ここ、魔法が封じられているんだった」


 ……これは何といううっかりさん。

 逆に言えば、私以外でも魔法が使えないということだ。


 さすがに閉じ込めているはずの張本人、タナトスは使えるのかもしれない。

 しかし味方であったとしても、他の人の魔法は封じてしまうのだろう。


 それにしても、彼女と会ってから、私には違和感があった。

 いや、違和感というよりも、どこか馴染みのある存在感――



「……あなた、……竜?」



 その存在感はグリゼルダやセミラミスさんと似ていた。

 荒いとか静かとか、そういうものを超越した、良くは分からないけど神秘的な感じ。


 私の言葉に、エクレールさんは少し驚いた顔をした。

 ……基本的には無表情だから、本当に些細な動きでしか無かったわけだけど。


「……ええ。

 そう思って動じないなんて、さすがね」


 見知らぬ場所でも『さすが』をゲットしました!

 今までに散々ゲットしてきたんだから、そろそろそれに免じて何か願いごとでも叶えてくれないものかな。

 もちろん今なら、ここから助け出してもらうという願いの一択だ。


「……私、他の竜と一緒に暮らしているの……。

 ねぇ、あなたは……ここで何をしているの……?」


「私は王様に仕えているだけ。

 それ以外でも何でも無い。仮面の男とは何の関係も無いから」


「あ……」



 言いたいことだけ言うと、エクレールさんはそのまま立ち去ってしまった。

 結局何も、有用な話を聞き出すことは出来なかった……。


 そして私は再び放置される。

 しかしエクレールさんは、私を王様に会せるようなことを言っていた。

 それなら一晩を置かずに、きっと誰かが来るのだろう。



 ……それにしても、王様って誰だろう?

 私が襲われた場所を考えれば、ヴェルダクレス王国の王様、オティーリエさんなんだけど……。


 彼女は私の存在が邪魔なはず。殺す意思は誰よりも持っているだろう。

 しかし今までの流れからすると、オティーリエさんでは無いと思う。


 ……となると、そもそも今いる場所はどこなんだろう……。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 ――太陽が高く昇る頃。


 時間にすれば12時頃か、その少し後だろう。

 私の前には5人の男女が現れた。


 仮面の男、タナトス。

 無表情な竜、エクレールさん。


 残りの3人のうち、一人はいかにも王様という格好をしていた。

 小柄で、年齢は……いわゆる何歳にでも見られるタイプだ。

 頭の上が寂しいから、それなりに歳を食っているのか、あるいは悩みが尽きないのか。


 残りの2人は後ろに控えているような形で、顔まではよく分からなかった。

 振る舞いから察するに、王様を護衛する役回りの人たちだろう。



「……ふむ、こやつが『神器の魔女』……か?

 今にも死にそうではないか」


 そう言いながら、王様と(おぼ)しき人は私の顎に手を添えて、クイッと顔を上げさせた。

 私の身体には力がそもそも入らない。だから、それに抗う術も持っていない。


「ええ。でも、不老不死だから大丈夫ですよ。

 こんな劣悪な環境ですが、もう一か月も生きているでしょう?」



 ……タナトスの言葉に、私は驚いてしまった。

 私はもう、ここに来てから一か月は経っているらしい。

 ここがどこかも分からないけど、移動してきたあとでさらに一か月……という話なのだ。



「……ふむ、確かになぁ……。

 それで? 余の神器は間違いなく作るのだろうな?」


 王様の言葉を受けて、その場には沈黙が流れた。

 それを遮ったのは私の声。タナトスがまた、私の脚を蹴ってきたのだ。


「……痛っ」


「ほら、王様がお尋ねだぞ?

 お前は王様に、神器を献上するんだよな?」


 表情は仮面で見えないが、私はタナトスに凄まれている。

 心身ともに折られそうなとき、こんな恫喝は心を大きく打ち付けられてしまう。

 ……悔しいけど、私には頷くしかなかった。


「……嫌がっておるではないか。

 余としては、もっと歓迎しても良かったのだが……」


「なぁに、そうすると調子に乗るかもしれませんからね。

 ただ、確実に進めるために時間をください。神器の素材も集めなければいけませんし、そこだけはご理解のほどを」


「うむ、分かった。

 ……それでは神器の魔女よ、くれぐれもよろしくな。

 余の神器が完成した暁には、お前をここから出してやるから」


 王様は悪びれも無くそう言ったあと、その場にいた5人は全員、牢獄から出て行った。



 ――しかし最後の瞬間、私は信じられないものを見てしまった。



 ……後ろに控えていた二人の護衛の片一方。

 それは私が見たことのある顔だった。


 もしかして私が今ここにいるのは、その人の手引きがあったからでは無いだろうか……。

 知っている人を疑いたくはない。しかし――



 ……そんな疑念を抱きながら、私は再び、数日の放置を受けることになるのだった……。

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