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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第11章 籠の中の錬金術師
591/911

591.私とは別の

 ――朝。


 ……この牢獄の外には、何となく平和な気配があるような気がする。

 日が昇れば、小鳥だってちゃんと(さえず)ってくれるのだ。


 いつもなら良い気持ちで目を覚まして、その日に何をやるのかを確認して――

 ……しかしそんな日常がすでに、何だかもう懐かしく感じられてしまった。



「……やっと……朝……」



 今の気分はその一言に尽きる。

 両手は鉄枷で束ねられたまま、ろくに動くことすら許されていない。


 一分一秒だってつらい状態なのに、数時間に及ぶ夜の暗闇は何と恐ろしかったことか。


 灯りの大切さ。

 人間らしい生活の大切さ。

 人間として扱われることの大切さ。


 何気なく享受していたものに、今は心から感謝をしてしまう。



 ……せめて横になりたい。



 痛いのは嫌。

 苦しいのは嫌。

 何も分からないのは嫌。

 一人っきり放っておかれるのは嫌――



 ……とめどない感情が私の中を渦巻く。

 それだけでもう、さらに気分が悪くなってきてしまった……。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 ……日の高さからして、目を覚ましてからちょうど二日くらいか。


 お腹が空いたような気がする。

 こんな状態であっても、この身体は生きていこうとしてくれる。

 それだけが、私を支えてくれる唯一の実感だった。



 ――みんなはどうしているかな……。



 ルークとエミリアさんを始めとして、仲間たちの顔が次々に思い浮かんでくる。


 一人ずつ思い浮かべていくも、やっぱり付き合いの深い順、最近交流のあった順になってしまうのは仕方が無いところか。

 でも、後半に思い出した人だって私の大切な仲間だからね。


 ……そんな言い訳のようなことを考えていると、少しだけ気を紛らわせることが出来た。


 長い長い時間の中の、たったの一瞬。

 しかしそれだけであっても、私にとって大きな救いになってくれたのだ。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 永遠に終わることの無い放置。


 しかしそれは三日目の朝になって、ようやく終わりを迎えることになった。

 ……たったの三日。しかし私にとっては長い三日……。



 ――パシンッ



「うぅ……?」



 いつの間にか気を失っていた私は、誰かに頬を叩かれた。

 一瞬何だか分からず、小さな(うめ)きを漏らしながら私は目を覚ます。

 ……最悪な目覚めだ。



「――ああ、やっと起きたか。

 まったく、エクレールの報告が遅れてしまって……。お前には申し訳ないことをしてしまったな」


 気力も体力も、今の私には一切無い。

 そんな中、無理やり声の主を見てみると――……そこには一人の男が立っていた。


 全体的には黒色と紫色でまとめられた服装。

 髪の色も黒色で、全身が暗い――そんな印象を受ける。


 それに加えて、顔には全体を覆うほどの仮面を付けているのだ。

 せめて肌色が見えていれば、もう少し明るい印象にはなっただろうに……。



「……ごほっ。

 あ、あなたは……?」


「人に名前を聞くときは、自分から名乗るように教わらなかった?

 ……こんな状況だから、仕方が無いか」


 私が声を絞り出すも、その男は捉えどころのない返事をしてきた。

 こっちはあまり話せないんだから、無駄な言葉は控えて欲しいところだ。


「……」


 そんなわけで、私の会話は一回パス。

 待つのはもう慣れたから、さっさと先に進めてください。


「ふむ、それでは名乗っておこう。

 俺の名前はタナトス。タナトス・ザイン・アスモデウスと言う」


 ……ん?

 何だか聞き覚えのあるような単語……。



 確か『タナトス』っていうのは、ギリシャ神話の死を司る神。

 『アスモデウス』っていうのは、何だか凄い悪魔。

 『ザイン』っていうのは……、何だっけ。『存在』あたりの意味があったような気がする。



「――……中二病」


「む!? ……ふふふっ、そうか! やはりそうだったのか!!

 俺は最初から、そうじゃないかと思っていたんだ!!!!」


 私のついつい発した言葉に、タナトスは嬉しそうに声を上げた。


「……何を、笑って……?」


「ふっははは! これが笑わずにいられるか!

 ようやく見つけたぞ、俺と同郷の人間をッ!!」


「……同郷……? まさか――」


「お前もこの世界に転生して来たんだろう?

 しかも俺と同じ世界からだ!」


「……な、何を根拠に……」


「俺の名前を笑ったじゃないか。そして『中二病』と零しただろう?

 『中二病』なんて言葉はこの世界には無い。

 いや、お前が零した時点で存在が生まれたが、それを理解出来る者は同郷の者しかいない――というわけさ」


「……同郷をあぶり出すために……、わざとそんな名前を名乗った……?」


「いや、これは俺の趣味だ。格好良いだろう?」


 ……本物の中二病じゃん。目とか絶対(うず)くわ、この人。



「それにしてもどうやって転生してきたのか……。

 神の干渉があったとすれば、絶対神アドラルーンしかいないはずだが――

 ……今さら俺たちの脅威にもならん。まぁ、どうでも良いか」


「俺……たち……?」


「お前がそれなりの立場を築いてきたように、俺もそれなりの立場を築いてきたのさ。

 ……まぁ、結局はこの状況だ。俺の方が一枚上手だったというところだな」



 私が仲間を作っていたように、この男にも仲間がいる。

 私が国を作ろうとしていたように、この男も何か大きなものを作ろうとしている。……あるいは、もう作り上げてしまったのか。



 ……確かに私と同じ世界から来たと思われる存在のことは、今までに何回も触れてきていた。

 しかし同じ時代に存在して、そして出会ってしまうだなんて――……それは思いがけもしなかった。


 正直、私だけの世界が汚されてしまった感じがしてしまう。

 何でお前がこの世界にいる? この世界の異物め――……みたいな。



「――あなたは、敵……? それとも、味方……?」


「ああ、味方であって欲しいよな。

 ……さて、そこで俺の頼みを聞いて欲しいんだ」


「頼み……」


 ……きっとその頼みこそが、私をここに連れてきた理由なのだろう。

 それを叶えてあげれば、ここから助けてもらえる――……かどうかは分からないけど、何かがひとつ進むのは確かだ。


 この牢獄で目を覚ましてからまだ三日目だけど、それでももうここにはいたくない。

 だから出来るだけ……いや、多少条件が悪くても、かなり条件が悪くても、この牢獄から出てしまいたいのだ。



「――実はな、俺が世話になっている『王』が、神器を欲しいらしいんだよ。

 この俺が付き合ってやっているのに、よりにもよって他の転生者の力を借りたいだなんてね……」


 そう言いながら、タナトスは不満げに私の脚に蹴りを入れた。

 ……痛いっての。



「……作る。作るから……、

 ここから助けて……」


「ああ、いや。それは作らないで良いんだよ」


「……え?」


「お前はユニークスキルを使って、自由に神器を作ることが出来るんだろう?

 ……って言うかさ、何でユニークスキルを5つも持っているんだよ。それこそチートじゃねぇか。

 俺なんてたったのふたつだぞ、ふたつ!」


「な、なんでそのことを……」


 ユニークスキルは鑑定スキルでは看破されない。

 その時点で信じられないというのに、まさか個数まで特定されてしまうだなんて……。


「ははは。お前も鑑定スキルが最大レベルだから、それこそショックだろうな。

 しかし俺はその上位、ユニークスキル『神魔の瞳』を持っているんだ。

 まぁ、鑑定スキルのユニークスキル版……ってところだな」


 ……何と言うことだ。

 まさかそんなユニークスキルがあるだなんて――……それ、私も欲しいなぁ……。でも絶対に目が疼くわ、そのスキル。



「……それで、私に何をさせたいの……?」


「俺の王に神器を作ると見せかけて、俺の神器を作って欲しいんだ。

 ……俺としては別に要らないんだが、この世界にとって神器っていうのは特別なもののようでな……。

 だからこそ、俺が持たないのはおかしいだろう?」



 ――なるほど、タナトスの目的は私が作る神器。

 それさえ作れば、私は解放される……と、考えても良いのだろうか。


 ……いや、きっとそれは難しいだろう。

 それなら断る?



 しかし今の私にとって、『断る』という選択肢はあり得ない。

 死ぬことに逃げられない以上、この牢獄からは何としても抜け出さなくてはいけないのだから――

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